よそ者の僕が福岡の悪口を言われて大喧嘩した話(海外移住者はなぜ福岡に集まるのか?イベントレポート)

デザイン事務所HOXAIのゲンです。大学の准教授として経営学部で教えてたりもします。
僕はある日、福岡の悪口がきっかけで大喧嘩しました。
東京の友人がこう言いました。
「福岡って治安悪いんでしょ。汚いとこでしょ。ラーメンの匂いが臭かった」。
カチンときたしものすごく傷ついた。
自分の家族の悪口を言われたような感覚に近かった。
でも喧嘩した後で気づいたんです。
あれ、俺、福岡に帰属意識を持ってる。
初めて持った帰属意識と郷土愛
僕は千葉県生まれです。「千葉といえば?」と聞かれても、東京ディズニーランドも成田空港も千葉感がないですよね。
東京ドイツ村という東京でも無ければドイツでもない村があるくらいです。
ピーナッツ?普段食べませんよ。
サイゼリヤが千葉の御当地グルメだと知ってる人は何人いるでしょうか。
ヤマザキパンは?
千葉のことを日本一良いところだと100%信じてる人は少数派です。
ところがこの街福岡は違う。
誰しもがこの街のことを本気で考えているし、日本で一番良い街であることは地球が回っていることよりも確かな真実です。笑
この街とその文化を心から誇りに思っていて、県外の人に福岡の素晴らしいところを一生懸命布教します。これはもう狂信的と言っていいレベル。笑
そんな福岡県民をドン引きして見ていた僕も実際に住んでみてもれなく狂信者になりました。
それまでいろいろな場所に住みましたが、日本の中にはどこにも帰属意識を持てなかった。
それが故郷でもない福岡で、初めて芽生えた。
これが、僕が「当事者意識」という概念を考え始めたきっかけでした。
それが引き金となり、一つのイベントを開きました。
4月8日、福岡市内のコワーキングスペースGarrawayFで「海外移住者はなぜ福岡に集まるのか? Vol.01」というタイトルで。





企画段階ではまあ数人来てくれればいいかなと思っていたんですが、実際にはGarrawayFの会場いっぱいに人が集まってくれました。
福岡ローカルの方、東京から当日飛んできた方、ジョージア(トビリシ)帰りの方、チェンマイと福岡を往復しているノマド、COLIVE 福岡(福岡市委託のデジタルノマド誘致プログラム)の担当者さん、福岡のインフラ企業で都市開発を担当していた当事者などなど。
ポストイットを手に、互いに見知らぬ人と「なぜここに集まるのか」を語り合った夜でした。

この記事はそのイベントレポートというより、自分がずっと考えてきたことを整理しておきたくて書いています。
テーマは街の当事者になるよそ者が今の世界に必要だということ。
「デジタルノマド」という言葉に感じていた違和感
僕はかれこれ15年近く、いわゆるデジタルノマドとして生きてきました。デザイナーとして、どこでも仕事ができる状態を作って、世界中を移動しながら働いてきました。チェンマイ、ベルリン、バルセロナ、ニューヨーク、クアラルンプール……。
でもある時期から、「ノマド」という言葉に違和感を覚えるようになってきました。
正確に言うと、ノマドという言葉が指す人間像に、自分は収まらなくなってきた感じがしていました。
現代のノマドとそれを取り巻く言説って、自由な移動と場所に縛られない働き方が最上のものであるというメッセージが多いじゃないですか。
それ自体は素晴らしいことだと思っています。実際、僕もその恩恵を受けてきましたし。でも気づけば、ノマドという言葉の周辺には「消費する旅人」のメタファーが漂い始めているように思います。
安い物価の街を渡り歩いて、コワーキングスペースで仕事をして、インスタに映える写真を撮って、家賃が上がり始めたら次の街へ。チューインガムのように街を噛んで、味がなくなったら捨てる。
それを「理想的な暮らし方」と呼んでいいんだろうか、と思い始めました。
よそ者が街を活気づける現実と、街を破壊していく現実について
2010年前後、僕はベルリンに恋していました。プレンツラウアーベルクの路地を歩くと、チベット料理屋のすぐちかくにウクライナ料理屋があって、イラン料理屋もある。そんな街でした。
ベルリンの壁崩壊後。まずアーティストたちが集まってきました。スクワット(無断占拠)で住み始めて、面白いことをやり始めた。
「面白い奴らがいる」と噂が広がって、人が集まって、ムーブメントになった。190か国以上の出身者が住む、圧倒的な多様性の街になっていきました。
ところが、今のベルリンはどうでしょう。
家賃は10年間で100%上昇。デザイン系・アート系のスタジオが2000件消える
何が起きたか。
投機目的の資本が流入して、土地を買い漁って、値上がりを待った。当初その街の価値を作り上げたアーティストたちは、金銭的に追い出されてしまいました。残ったのはお金を持つ人間だけで、街が持っていたあの創造的な熱量は消えてしまいました。
スライドに書いた一文があります。「当事者が去り、消費者だけが残った」。
ポートランドも同じです。多様性の街として有名でしたが、殺人件数が2019年から2022年にかけて3倍になりました。
バルセロナはオーバーツーリズムで家賃が10年で68%上昇して、市民が観光客を憎み始めています。京都は市バスに地元民が乗れない。鎌倉は学生が車道を歩いて登校している。
これは「よそ者」が街を壊してしまった例です。共通しているのは「消費者として来て、コミュニティに貢献しない」パターン。
多文化共生がうまくいく街といかない街の違い
でも逆の例もあります。コロンビアのメデジンは、人口10万人あたりの殺人率が395から15にまで激減しました。元々の住民が当事者として街を作り直して、よそ者がそこに加わって再生した。
チェンマイは植民地化されなかったタイの誇りを背景に、外から来た人間をウェルカムに迎えながらも、コアは揺るがない。
東南アジアで唯一植民地化されなかった回数、ゼロ。その核があるから、混ざるけど溶けない。
この差って、どこから来るんでしょう。
異文化共生には順序がある。
イベントのスライドにこう書きました。
これは個人レベルでも国家レベルでも。どのスケールでも同じ構造。
「他者を受け入れる前に、自分を満たされて幸せであること」が前提になると。
タイが独立を保てたのは、アイデンティティの核があったから。
ベルリンが壊れたのは、街の価値を作っていたアーティストたちが形成していたコアが土地を買えば儲かるという資本主義にに置き換わってしまったから。
受け入れる側が豊かであることと、外から来る人間が当事者意識を持つこと。この両方が揃わないと、多様性は暴力になってしまいます。
どんなときでも唯一絶対の正解になる価値観はありません。
順序を間違えないことが大切。
数字で見ると、福岡は異常値です
イベントで出したデータを整理しましょう。
日本主要都市の比較。
東京は
・1LDK家賃23万円
・空港から市内50分
・訪問人気1位。
福岡は
・1LDK家賃8万円
・空港から市内5分(世界最速級)
・訪問3位だけど住んだ人の満足度1位。
この「訪問人気は東京、でも住んだ人の満足度は福岡」という非対称性が面白いですよね。来てみないとわからない良さが福岡にある、ということだと思います。
世界のノマド都市と比べても際立ちます。
・ベルリン(家賃18万円・空港30分)、
・メデジン(家賃9万円・空港30分)、
・チェンマイ(家賃4万円・空港15分・ノマドスコア世界トップ)、
・トビリシ(家賃10万円・空港25分・ノマドスコア95/100・ビザ1年)。
福岡は165万人という都市規模でありながら、空港5分・家賃8万円・ノマドスコア日本1位。チェンマイより都市の成熟度が高くて、ベルリンより家賃が安い。全部揃う都市は世界で稀です。
もう一つ面白いデータがあります。じゃらんRC 2024によると「上京者(一度福岡を出た人)の方が、在住者より福岡への愛着が高い」という結果が出ています。
愛着って、地元を出て初めて気づくものなのかもしれません。
・地域愛着度・地域共生力で全国1位、
・6年連続住みたい街ランキング全国1位、
・2050年まで人口増が続く政令市が全国3市(福岡・札幌・那覇)というデータとも一致しますよね。
訪れた人誰しもが感じる、「狂信的」ともいっていい異常な福岡への愛情。
それが外部からの影響に飲まれずにアイデンティティを保ち、自身を持って他文化と共生できる土壌だと強く思います。

土地に誓いを立てるひとたち
イベントのスライドでは「ノマド2.0」という仮称を使っていました。でもイベント後に改めて考えていて、もっと本質的な言葉が欲しくなりました。
チギリスト。
「チギる(契る)」—土地に誓いを立てる者、という意味です。
消費型ノマドは「Wi-Fi・気候・物価で街を選ぶ。貢献せず、消費して去る」。
チギリストは「悪口を言われると傷つく街を選ぶ。定点を持ち、顔を覚えられる」。その街の一員として真剣になれるし、よそからの経験を使って貢献しようと考える。
これはマナーの話じゃないですし、戦略の話でもないです。もっと根本的な、在り方の話です。
どこにでも行けるけど、あえてここを選ぶ。
そういうここからの愛着をもてる街を見つけたノマドは今後チギリストになっていくのではないでしょうか。
共同登壇者にして発案者のサニー(秋間早苗)がイベントで彼女の著書でもありライフワークでもある「脳マネジメント」の話をしてくれました。
脳って省エネに最適化された臓器で、体重のわずか2〜3%しかないのに体のエネルギーの20〜25%を消費します。
だから脳はデフォルトで「習慣と惰性」で動こうとする。これが「省エネモード」です。でも人間にはもうひとつのモードがある—面白さや前のめりで動く「バイタライズモード」です。
チギリストというのは、バイタライズモードで都市を選んでいる人間だと思います。条件だけで判断するのは省エネですよね。愛着で選ぶのは、もっとエネルギーがいる。でもそのエネルギーが、街との関係を豊かにしてくれます。
福岡は今、分岐点にいる。
スライドの最後はこう締めました。
この「今、選択できる」というのが大事なところです。
福岡は今、ちょうどいいサイズ感と国際性と都市機能が揃った、世界でも稀な都市になってきています。
それは良いことですが、同時にリスクでもあります。
人気が出れば投機資本が入ってきます。
家賃が上がれば、その魅力を作り上げてきた当事者たちが追い出されてしまいます。ベルリンとポートランドが歩んだのと同じ道です。
でも、まだ選択できます。今ここで、どんな人間を迎えて、どんな関係性を作るかを決められる。
その選択の鍵を握っているのは、ローカルの人間だけじゃないと思っています。外から来た僕たちも同じです。
チギリストとして来るか、消費型ノマドとして来るか。その違いが、10年後20年後の福岡の姿を変えていきます。
外から来た人間が見えるもの

サニーが面白い実験の話をしてくれました。
格子状の図形を見ると、交差点に黒い点が見えるような見えないような状態になる錯視があります。
脳が省エネで動いているから、パターンを惰性で処理してしまって、本当は見えているはずのものが消えてしまう。でも格子の中に異物(赤い丸)を一つ置くと、途端にパターンが崩れて、それまで見えていなかったものが見えてくる。
よそ者は、その「異物」になれます。
ローカルの人間だけでは見えなかったものを、外から来た目線が浮かび上がらせてくれます。実際にそういうことが起きます。福岡に来た海外経験者たちが「空港が近いのってすごくない?」と言う。でもずっとそこに住んでいる人は「そんなもんかな」と思っている。「物価が安くてコンパクトで、しかも国際性もある。こんな都市は世界にほとんどない」と言う。在住者はあまりピンとこない。
よそ者の目線は、地元の人にとって鏡になります。
でもその鏡が機能するのは、よそ者が単なる通過者じゃなくて、当事者として関わっているときだけです。消費型ノマドの目線は、ただの批評でしかない。チギリストの目線は、愛情がある分だけ、深く鋭く、建設的になります。
ナシテ福岡というプロジェクト
このイベントを起点に、「ナシテ福岡」という動きを作っていきます。
「なして(なぜ)」——博多弁で「なんで?」という意味です。「なんで海外移住者は福岡に集まるのか?」という問いを持ち続けながら、チギリストたちとローカルのビジネスマンをつなぐ場所を作っていきたいです。
単なるノマドコミュニティじゃないですし、消費型ノマドを集めたいわけでもないです。
土地に誓いを立てた人間たちが、地元の文脈と交差することで、福岡にしか生まれないものを動かしていく。それがナシテ福岡の目的です。
イベントの最後に参加者の一人が言った言葉が印象に残っています。「海外を知れば知るほど福岡が好きになる。外に出てみて、悪口で喧嘩したくなるくらい傷ついたら、もうその街の当事者だと思う。その物差しで街を選びたい」。
まさにそれだと思います。
最後に
スライドを作りながら、自分自身のことを考えていました。
千葉生まれで、どこにも属さず、世界中を移動してきた自分が、今なぜ福岡でこういうイベントをやっているのか。
それはたぶん、福岡が初めて「自分の街」と感じられた場所だからだと思います。帰属意識という感覚を、長い旅の先、初めてここで経験しました。
その経験があるから、こういうことを人に言えるし、言いたくなる。
チギリストは、どこにでも行けるからこそ、ここを選ぶ。
選んだなら、誓う。
チューインガムみたいに噛み捨てるんじゃなくて、この街と共に進化するパートナーとして、根を張る。
悪口を言われると傷つく街を、あなたは持っていますか。
それが、チギリストかどうかを見極める、たった一つの問いだと思っています。

※ナシテ福岡はシリーズ化して継続決定しました。
次回のイベントは5月13日。場所は前回と同じくGarrawayFです。
興味があったらぜひお越しください!
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そうげん近況:毎日何着ても寒いか暑い
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