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社長、後ろを振り返って誰もいなかったらどうしますか?〜組織の壁を乗り越えるために経営者が手に入れるべき“HRリテラシー”

先頭を走る「孤独なランナー」である経営者へ

中小企業の経営者の皆さんと膝を突き合わせてお話ししていると、皆さんに共通するある種の「凄み」を感じることがあります。それは、何もない荒野に道を作り、ゼロからイチを生み出し、今日まで会社を引っ張ってきたという自負と、圧倒的な熱量です。

創業期、社長は誰よりも早く起き、誰よりも現場を知り、誰よりも汗をかいて走り続けてこられました。事業のこと、資金繰りのこと、明日の売上のこと。経営の数字を作るために、先頭に立ってひた走る。それは、会社を存続させるために「仕方のないこと」であり、むしろ称賛されるべき「正解」でした。

しかし、もし今、ふと立ち止まって後ろを振り返ったとき、「あれ? 社員との距離が随分開いてしまったな」とか、「自分の言葉が、昔ほど熱を持って届いていない気がする」と感じる瞬間があるとしたら。あるいは、「事業は順調なのに、なぜか組織がギスギスしている」「人が定着しない」という違和感を抱えているとしたら。

それは、経営者であるあなたの会社が次のステージへ進むために避けては通れない、「組織の壁」に直面しているサインです。

今日は、現場で数多くの組織マネジメントに伴走(ハンズオン)してきた私の経験から、成長する中小企業が必ず直面するこの「壁」と、それを突破するために経営者が持っておきたいリテラシーについてお話ししたいと思います。

↓同じ内容でAIによるポッドキャストもありますので、耳で聴きたい方はよろしければどうぞ!(多少、言い回しがおかしなところがありますが、ご了承を💦)

(この記事のインフォグラフィック)

なぜ、事業が伸びると「人」が見えなくなるのか

■「あうんの呼吸」が通じなくなる瞬間

従業員数が数名から10名程度の頃は、組織論など必要ありません。社長の背中が語り、社員はその息遣いを感じて動く。「あうんの呼吸」で意思疎通ができ、コミュニケーションコストは限りなくゼロに近い。この時期は、事業のスピード感こそが命であり、社長のトップダウンが最強のエンジンとなります。

しかし、事業が成長し、組織が30人、50人、100人と拡大していく過程で、このエンジンにかげりが見え始めます。 物理的な人数が増えれば、当然ながら社長と社員一人ひとりの距離は遠くなります。これまでならアイコンタクトで伝わっていた「意図」や「想い」が、伝言ゲームのように希釈され、時には歪曲して現場に届くようになるのです。

■経営者の意図と、現場の現実の「ズレ」

「何度も言っているのに、なぜわからないんだ」「現場のリーダーは、一体何を指導しているんだ」

そんな苛立ちを感じたことはありませんか?これは社員の能力が低いからでも、やる気がないからでもありません。コミュニケーションの導線が薄くなり、社長の「視界」から社員が見えなくなっていることが原因です。

組織が大きくなれば、社長はより高い視座で経営を見なければなりません。しかし、その分だけ現場の解像度は下がります。一方で、現場の社員からは社長が「雲の上の人」になり、何を考えているのかが見えなくなる。この相互の「見えなさ」が不安と不信を生み、結果として「人の問題」が噴出します。

優秀な人材の離職、部門間のセクショナリズム、採用のミスマッチ…。 これらはすべて、事業成長に伴う「組織の成長痛」です。しかし、この痛みを放置したまま、「これまで通り俺が引っ張る」とアクセルを踏み続けると、組織は疲弊し、最悪の場合は崩壊さえ招いてしまいます。

皮肉なことに、「事業を大きくしたい」という想いが強ければ強いほど、人の問題が足枷となり、事業成長そのものを止めてしまうことが多いものです。

組織づくりを「人事任せ」にしてはいけない

■「人事を採用したから安心」という落とし穴

こうした「人の壁」に直面したとき、多くの経営者が取る対策があります。 「そろそろウチも、専任の人事担当者を入れよう」とか「人事評価制度をコンサルに頼んで作ってもらおう」といった発想です。

もちろん、機能としての人事部を作ることや制度を整えることは非常に重要ですが、ここに大きな落とし穴があります。それは、「人事は面倒だし、よくわからないから、プロ(担当者)に丸投げしよう」というスタンスです。

しかし、これまでの実体験も踏まえてお伝えすると、組織づくりを人事任せにしている限り、その組織は決して強くなりません

なぜなら、人事(HR)とは、単なる労務管理や採用手続きのことではないからです。「どのような人材を採用するか」は「どのような事業戦略を描くか」と直結しています。「何を評価し、報酬を与えるか」は「会社として何を大切にするか(バリュー)」そのものです。つまり、人事とは「経営の意志」そのものです。

■経営者だけが、会社の未来の最終責任を担える

それを、「社長は忙しいから」といって担当者に丸投げするのは、経営の舵取りの一部を放棄しているのと同じです。人事担当者は、実務のプロフェッショナルにはなれても、会社の未来に最終責任を持つことはできません。会社のDNAを最も深く理解し、熱量を持って語れるのは、創業者や経営者しかいません。

「制度を作ったけれど、運用されない」とか、「採用した人材が、カルチャーに合わずにすぐ辞める」。こうした失敗の多くは、経営者が人事のプロセスに関与せず、魂(意志)を吹き込んでいないことが原因で起こります。

経営者に必要な3つの「HRリテラシー」とは何か

では、経営者は何をすべきなのでしょうか。労働基準法を暗記することでしょうか? 給与計算ソフトの使い方を覚えることでしょうか? いや、実務的な知識は、それこそ専門家や担当者に任せれば良いのです。

経営者に求められるのは、「HR(Human Resources)へのリテラシー」を高めることです。具体的には、以下の3つの視点を持つことだと考えています。

1. 「人」への興味と理解(人間理解)

人は論理だけでは動きません。感情があり、生活があり、それぞれの「正義」があります。何が社員のモチベーションに火をつけるのか、逆に何が意欲を削ぐのか。「人という生き物」への深い洞察と関心を持つことです。

2. 「組織」のメカニズムへの理解(組織設計)

組織図を描くことだけが組織設計ではありません。情報がどう流れるか、権限をどう委譲すればスピードが上がるか、人と人の関係性をどうデザインするか。事業戦略を実行するために最適な「チームの形」を構想する力です。

3. 「経営」と「人事」を接続する力(戦略人事)

「来期の売上目標を達成するために、どんなスキルを持った人が、何人必要か?」「3年後のビジョンを実現するために、今の幹部にどんな経験を積ませるべきか?」 経営の数字と、人の動きをリンクさせて考える力です。

このリテラシーがないまま、「売上だ、利益だ」と叫んでも、現場は疲弊するばかりです。逆に、経営者自身がHRリテラシーを高め、「事業と同じレベルの解像度と熱量」で組織に向き合うようになれば、会社は劇的に変わります

今こそ、「人的資本経営」の本質に向き合う

■「ヒト」を軽視してきた日本企業のツケ

今、世の中では「人的資本経営」という言葉が飛び交っています。上場企業における開示義務の話で中小企業には関係のないことだと思われている方も多いかもしれませんが、これは中小企業にこそ突きつけられている、生存をかけたテーマです。

残念ながら、これまでの日本経営、特に中小企業の現場では、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」の中で、圧倒的に「ヒト」が軽視されてきました。コストセンターと言われ、 「モノ」への投資(設備投資)や「カネ」の管理(財務)にはシビアなのに、「ヒト」に関しては「できるだけ内製で削減するのが正しい」とか「気合と根性」、「家族的な精神論」に甘え、戦略的な投資や科学的なアプローチを怠ってきた側面は否めません。

しかし、時代は変わりました。

少子高齢化による労働人口の激減は、もはや「採用難」というレベルを超え、「人手不足倒産」を現実のものにしています。働く人々の意識も変化し、選び、選ばれる関係へとパワーバランスはシフトしました。

■ヒトを中心に考えなければ、事業継続さえできない

これからの時代、「ヒトを中心に考えられない企業」は、事業を継続することすらできません。「人的資本経営」とは、難しい理論ではありません。

「人をコスト(費用)として消費するのではなく、キャピタル(資本)として投資し、その価値を最大化することで、企業価値を高める」 という、当たり前の経営原則に立ち返ることです。「人材」という文字を「人財」と表記して付け替えただけでは何にも変わりません。その呼び名の背景をしっかりと経営や人事施策にも反映させることです。

社員一人ひとりが、自社の仕事を通じて成長し、自己実現をし、輝いてゆく。そして、その総和として、事業が伸び、会社が潤う。この好循環(エコシステム)を描き、泥臭く地味で時間がかかったとしても、その実現にこだわれるかどうかが、これからの経営者の手腕にかかっています。

経営と人事が「背中合わせ」で走るために

■「一緒にやっていく」という覚悟

では、具体的に何から始めればよいのでしょうか。まずは、自社の人事責任者(あるいはその役割を担う人)と、真正面から向き合う時間を作ってください。

指示を出すのではなく、「対話」をしてください。「うちの会社の強みは何だろう?」「社員は今、どんなことに困っているだろう?」「これからどんな組織にしていきたいか、一緒に考えよう」。

経営者が、人事担当者を「事務屋」としてではなく、「経営のパートナー」として認め、信頼し、権限を与えること。そして、丸投げするのではなく、「一緒にやっていく、何かあれば責任は取る」という姿勢を見せること。これが何よりの第一歩です。

■HRの現場を伴走する、私が伝えたいこと

私はこれまで、現場で「社長が変われば、組織が変わる」瞬間を目の当たりにしてきました。一方で逆に、「社長が変われないことで、組織も変わらない・停滞する」というシーンも多々見てきました。

中小企業においては、社長が全てです。社長がHRリテラシーを持ち、本気で人と向き合い始めたとき、組織の中にあった「淀み」が流れ出し、血が通い始めます。 社員の顔つきが変わり、挨拶の声色が変わり、そして必ず「業績」という結果が付いてきます。

組織づくりは、一朝一夕にはいきません。泥臭く、面倒で、時間のかかる作業です。しかし、そこから逃げずに、真正面から取り組んだ経営者だけが、「人の壁」を「人の城」に変えることができるのだと思います。

おわりに

経営者の皆さん。今まで一人で、先頭を走り続けてくれて、本当にありがとうございます。その頑張りがあったからこそ、今の会社があります。ですが、これからは一人で走る必要はありません。

組織を作るということは、経営者自身の想いを分かち合い、一緒に走ってくれる仲間を作ることです。知識を入れることも大切ですが、何よりも大切なのは、経営者自身が「組織」に関心を寄せ、愛着を持ち、手触り感を持って関わり続けること

日本には、まだまだ素晴らしい「ヒト」の力が眠っています。中小企業こそが、その力を解放できる場所だと、私は信じています。

事業戦略を語るのと同じ熱量を持って、今日から「人」と「組織」の話を始めましょう。それが、自社を次のステージへと押し上げる最強のエンジンになるはずです。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

今後も、中小企業の経営者・人事が直面する「リアルな組織課題」について、キレイゴト抜きの発信を続けていきます。「もっと読みたい」「耳が痛いけど役に立つ」と思ってくださった方は、ぜひnoteのフォローをお願いします。

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