【連載小説】w 「あたしの道草」最終回
(十八)
「鼻が光る紳士〜」
あたしが歌い始めると、客席のあちこちで笑いが起こった。
まあ、それはそうだよね、我ながら変な歌で、どう考えても意味不明。
あ、アオイちゃんも笑ってるー。アオイちゃんが笑ってるのを見ると、あたしまで笑いそうになるよ。
まあ、練習で歌ってるときも、みんな笑ってたからね。
やっぱり歌詞はアオイちゃんに頼んで書いてもらった方がよかったかも。でも、せっかく歌詞を書いたからやっぱりこれはこれでいいよね。まあ、最初は”詩”のつもりだったんだけどね。
曲は磯部コーハイが付けてくれて、わりとカッコいいんだけど、あたしは覚えたコード2つをひたすらガシャガシャ繰り返すだけ。
あとは、バンドの方でうまく展開してくれるから、歌を音が外れないように歌うのがあたしのメインの使命なんだよね。
でも、一応、ギターも結構練習したからね。
だって、気に入って買ったSGギターだからね。ガシャガシャやるだけで大興奮。
あたしは、幸せを感じながらSGギターをガシャガシャやって、この意味不明の歌を一生懸命歌ってた。
ジュリアンとかスティーブみたいにはまだ弾けないけど、いつかあのレベルで弾けるようになるといいなあ。
「おお、鼻が光る紳士よ〜」
※
ギターを買ったと言ったら、パパが「マリは、ミュージシャンにでもなるつもりかな?」っていうからあたしは「それもいいかもね」って言ったの。
「それはすごいな」
パパは楽しそうに言って、夕食後のワインを片手にリビングのソファーに腰を下ろした。
「楽しみだな、マリがギターを弾くのを見るの」
「もう少し弾けるようになってからね、そしたらパパの前でも弾くよ」
「マリ、あなた今回のこと少し反省しなさいよ、勝手に話をドンドン進めて、、アメリカ行きを断るのも大変だったんでしょ、少しは考えて行動しなさい」
ママが、キッチンカウンターの向こうから言った。
「うん、わかった、、あたしも今回は反省してる、、ちょっと簡単に考えすぎてた、まずは彼氏を作ってからだよね」
「彼氏、、、?」パパが、少し反応した。
「そういうことじゃないでしょ、マリ!」
ママがカウンターから少し乗り出して言った。
パパが、おほんっと咳払いをして言った。
「まあ、音楽雑誌関係にパパの知り合いがいてよかったね、サポートメンバーまではネットでも情報を見つけるのは結構大変らしいからね。その彼は、ミュージシャンとしての実力はかなり評価されているらしいけど、私生活ではちょっと問題もあったみたいだから、、その、、マリ、何と言ったっけ、スティーブ、、、」
「ドゥカップルニャー」とあたしは言った。
「キャハハハ!」
と、たまたまお風呂上がりでリビングに入ってきたケンタが笑った。
「フフ、、ケンタ、よく飽きずに笑えるね、この名前のどこがそんなに面白いの?」
と、あたしは言ったけど、あたしも実はちょっと面白いとは思っていたんだよね。でも、やっぱり失礼だと思うから気を付けてたの。
「えー、ニャーっていうのがネコみたいで、、あ、姉ちゃんも笑ってるー」
「ドゥカップル、、、ニャー!!」
「キャハハハハ!」
「コラ、二人とも! いい加減にしなさい! マリも、子どもじゃないんだから」
ママが、キッチンカウンターの中から大きな声を出した。
「マリ、人生は時々人間関係を通して展開してくんだよ。今回はたまたま、そのドゥカップルニャーがイマイチだったわけだけど、、、だけど、やってみたい、行ってみたい方向に進んでいくのはとても大事なことだし、パパは応援するよ」
「うん、パパ、ありがとう」
「あなた、そんなこと言って、マリが本当にミュージシャンになるって言いだしたらどうするのよ」
と、ママがまたカウンターの中から言った。
「それが、マリのやりたいことなら、パパは全力で応援するよ」
パパもそうやってきたから、ママに出会えたんだよ、ってパパは言った。こういうところ、パパは本当に上手いんだから。
「そんなこと言ってると、マリがまたおかしなこと始めるわよ、あなた、、この子は興味を持ったら行動するのに躊躇しないんだから」
ママは、呆れたように言ったけどちょっと嬉しそう。意外と単純なんだよね、ママも。
「まあ、やってみてから、ちょっと違ったってこともきっとあるだろうけどね。でも、人生はたくさん道草しながら歩くのが楽しんだよ。それに、マリもケンタも、それからママも、パパの都合で長い間あちこち引っ張り回してしまったからね。だから、好きなことをやってるのをみると、パパは嬉しいんだよ」
パパの顔はちょっと赤いみたい。
「あら、あたしは海外の生活楽しかったわよ、もちろん、大変なことも多かったけど、、」
ママが言った。
「あたしも!」
と、あたしも言った。ケンタはリビングから出ていっちゃったけど、きっとケンタもそう言うと思う。
キッチンから、ママがリビングに出てきて
「でも、マリは学生なんだし、道草もいいけど、危ないことには気をつけないと、、」
と言ってソファーに座った。
「わかった、気をつける」
と言いながら、あたしは考えてた。
スズキさんには悪いことをしちゃったから、ちゃんと謝らないとね。だいぶ混乱してたって話だから。
お詫びのしるしに”男物のパンツ”をプレゼントするっていうのはどうかな。まだ彼氏じゃないけど、それだけに特別なプレゼントで謝罪の気持ちを表すのもいいかも。
もし、リエちゃんに「あんたが男物のパンツをあげたいだけでしょ!」って言われたら、それはその通りなんだけどね。
※
マリちゃんは、アオイちゃん!って言ってこっちに手を振ってくれた。
実は、マリちゃんがライブに出るって、私は、結構楽しみにしてた。どう考えても、面白そうだったしね。
実際、マリちゃんが歌い出してから、私はずっと笑ってた。
「あなたの鼻には完敗です~」
マリちゃんの独特の甲高い声は、音楽に負けずによく通る。
マリちゃんの歌を聴きながら、私は、マリちゃんはやっぱり詩の才能があるんじゃないかなって思い始めてた。
いや、こういうのって才能っていうのかな。
鼻が光る紳士、、、。
いや、私には絶対に書けないし、しかも、それを歌にして歌うだなんて、考えられない。
でも、マリちゃんを見てると、楽しそうだし、笑われても平気で気にしてないように見える。
もちろん、心の中は見えないから、本当のところはわからないんだけど、私はなぜだか、「私も頑張ろう」って気になるんだよね。
笑われたってけなされたって、それが私だし、自分自身を生きるってきっとこういうことなんじゃないかな。
マリちゃんの日常は、楽しそうだし、私もあんな風に生きたいな。
「乾杯~! ピラフを一つお願いします~」
ハハハハ! いや、ホント、わけがわかんない。でもマリちゃん、サイコーだよ。
いつも、ありがとうね!
バンドの演奏はエンディングでジャーン!ってカッコよく終了したけど、マリちゃんのギターだけガガガガーッて少しズレて終わった。
マリちゃんは、珍しく少し恥ずかしそうにしながら、グルっと客席を見渡した。
そして、私の方を見て、いつものようにニコっと笑った。
ありがとう!
帰国子女のマリちゃんは、日本語でそう言ってすたすたとギターを抱えて、ステージの袖に消えていった。
あー面白かった! でも、毎日がこんな日常でいいのかな?
きっといいんだよね、ね、マリちゃん。
ステージに残ったバンドメンバーが、次の曲の演奏を始めた。
「あたしの道草」終わり
※)これで「あたしの道草」は終わりになります。最後まで読んでくれた方、お疲れ様です、そして、ありがとうございました。
