【連載小説】w 「あたしの道草」⑬
(十三)
あたしは、目の前並べられたギターをぼんやり見渡しながら、無意識にそんなことを考えていた。なんだかあの頃の複雑な感情を思い出したような感じがして、
「うーん」
と、あたしは唸った。
「色とか形とかの好みもあるとは思うんですけど、意外と直感的に決める人が多いですよ」
店員のお兄さんがまた言った。
なんとなく、思い出に浸っている感じになっていたので、あたしは改めて目の前に並んでいるギターを見渡した。
「あれカッコイイかも」
あたしは壁の上段の右奥に掛けられている、赤茶色で、角みたいな突起が二つある渋い感じのギターを指さした。
「あ、SGか、いいですね」
お兄さんは言った。
ジュリアンのギターとはちょっと違う感じだったけど、あたしにはすごく個性的な感じがした。
「お客さん、バンドとかですか?」
って店員のお兄さんが聞いた。
ギターは初心者で、今はせいぜいアフリカの太鼓しか叩けないっていうのは最初にお兄さんに伝えてたんだけど、そういえばバンドとかそういうことは考えてなかったなあ。
あたしは、家で弾いてちょっと自慢するくらいかな、将来的にはわからないけどって答えた。
「あ、それなら、もっとお手頃なのがありますよ。あの辺は20万円以上する結構お高いヤツなんで、初めてなら最初はこの辺りがおすすめです。もちろん、最初からイイのを買っとくっていうのもアリですけど」
お兄さんは、手前の左側に並んでいるエリアを右手で指した。
なるほど、赤、白、黄色、と水色とちょっとかわいい感じのギターが並んでて、これはこれでいい感じ。ピカピカしてて、色つやもいいね。初心者用ってことなのかな。でもリエちゃんの言ってた通りギターって結構高いんだね。
お兄さんと目が合ったら、お兄さんはニコッと笑って左の窓側の初心者用エリアをもう一度指した。
でもあたしは、あのSGっていうギターにどうにも惹かれてたんだよね。
「マリ先輩!」
あたしは横から声をかけられて、声の方を見た。
「磯部コーハイ!」
そこには大学の後輩の”磯部コーハイ”がギターのケースを肩に抱えてこっちを見ていた。
磯部コーハイは、サークルの後輩の山下コーハイの仲のいい友達で、厳密には直接の後輩ではないんだけど、よく山下コーハイと一緒にいたから、ついでにコーハイっていう呼び方が定着してしまったんだよね。
ちなみに、サークルの後輩の山下コーハイは、山下コーハイっていう呼び方をサカガミさんに指摘されてからはなるべくそう呼ばないようにしてて普段は「山下」って言うようにしてた。
だけど、磯部コーハイは直接の後輩じゃないから、逆に呼びやすい呼び方でいいかと思って、そのまま磯部コーハイって呼び続けてる。磯部コーハイも、そう呼ばれることについては何も言わないから、気にしてないか、あるいは”気に入ってる”?って思ってる。
「なんすか、マリ先輩、ギターっすか?」
「磯部コーハイ、偶然だねー、今日は山下は?」
「今日は一人っすよ、、マリ先輩、ギター買うんですか?」
磯部コーハイは、興味深そうな顔でこちらに近寄ってきた。磯部コーハイは軽音楽部に入っててバンドでライブとかをやったりしてるから、ギターには詳しそう。
「そうなんだよね、なんかギターが欲しくなって、見てるんだけど、あれがいいかなーって」
あたしが右奥に掛かっている、さっきのSGというギターを指さすと、
「SGじゃないっすか! 、、けど、あれ27万円もしますよ、、、いや、でもマリ先輩、ギター弾けるんですか」
「実はほとんど弾けないんだよね、今はアフリカの太鼓を叩くくらい」
「アフリカの、、」
磯部コーハイは、並んでいるギターを見渡し、あたしの左側の安いギターが並んでる辺りを指して
「マリ先輩、初心者だったら、その辺りの安いヤツにした方がいいんじゃないっすか?」
と言った。
「何かを始めるときは、良いもので始めるっていうのがあたしのこだわりなんだよね」
これは、実はいつもパパが言ってることで、何でもなるべく一流のものに触れることが大事だってあたしは小さい頃から言われてきたんだよね。
「はあー、やっぱ”お嬢”は違いますねえ、まあでも、自分が気に入ったのを選ぶのがいいとは思いますけどね」
「よかったら、ちょっと弾いてみますか?」
店員のお兄さんがあたしに言った。
「あたしの道草」⑭に続く
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