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コラム80 合併症は起こした時ほど…

手術はノーリスクではありません。
しかし、一般の方が想像されるような手術による即座の死亡(術中死)のような、「手術は失敗しました」なんてことはごくごくわずかです。
じゃあどんなリスクがあるのか。
これは「手術関連合併症」というものですね。


1. 手術の同意書に書いてある合併症

昔の時代(20年以上前)は手術をする際に同意書にサインをしてもらう際、その手術の説明書は極めて単純なものでした。
A4の1枚の紙(複写になっている)に説明を書きますが、特に「これとこれは書かないといけない」という決まりもなし。
ある程度流れに沿って説明し、サインをもらったら1枚をカルテに、もう一枚を患者さんにお渡ししていました。

しかし、現代ではそうはいきません。
手術の説明というのは、病状の説明、手術の説明からはじまり、合併症の説明、予想外の事態に関する説明、手術をしなかった際にどうなるか、別な手段の説明、手術の前まで同意の撤回が可能であることや、セカンドオピニオンの希望の有無の確認。
それら全てを記載し、説明を受けたことのサイン、同意書にも別途サイン。
何ページもの書類を作成していきます。
そして、今日のトピックスである合併症に関しても、昔はさらっと文字で書くだけか、正直全ては書いていないこともよくあったのですが、今では詳細な内容と、更には何%くらいでそれが発生するかもきっちり記載するよういなっています。
術後30日以内の死亡率に至るまで。

これ、実際に患者さんに説明していると結構引かれるんですよね。

そりゃそーです。手術の前にずっとひたすら合併症の説明を聞いて、不安にならないわけがありません。
過度に不安になってほしいわけでもないんですが、過度に楽観してほしくもない。
手術の説明というのはとてもタイヘンです。

2. 上級医の言葉

当たり前ですが、合併症を起こしたい医者なんていません。
外科手術にしても、内科的治療(検査も含む)にしても、施行医はなるべく安全に注意を払ってしています。
でも、合併症は絶対にゼロにはなりません。

そして、人のサガというかなんというか。
合併症を起こしてしまうと、どうしても病室に足が遠のいてしまいがちになります。

気が重い…。
特に小児外科の場合は、子どもが術後に合併症を起こしていると、親御さんの顔を見てお話するのはとても辛かったりします。
僕も若い頃はそう感じていました。
いや、もちろん今もそうだけど。
僕は結構弱っちいので。逃げたくなるんです。
そんな人、いっぱいいると思います。

若い頃にそんなふうに弱気になっていた僕を見て、「シャキッとせんかい!」と思ったんでしょうね。
上級医がこう言いました。


上級医に言われた言葉

「合併症はな。どんなにうまい外科医が手術しても起きるときは起きるんだ。
でも、それで病室から足が遠のいているようじゃダメだ。
合併症はな、起こした時ほど会いに行け。夜討ち朝駆けだ。関係を築け。」

夜討ち朝駆けという言葉は、本来敵陣に深夜や早朝に攻め込むことを意味するものですから、あまりいい言葉ではないかもしれません。
でも、そのくらいの気持ちで、朝イチ、夜遅く、常に患者を診に行け。逃げるな。
…という意味ですね。

この言葉を言った上級医のその時の口調は決して強いものではなく、淡々としていました。
しかし僕は横っ面をはたかれたかのような衝撃でした。
自分の弱い心を見透かされたように感じました。

そんなことがあってからというもの、僕は合併症を起こした時ほど足しげく患者さんの病室に通うようになりました。
話をする時もあれば、単に診察をして「また診に来ます」と言うだけの時もあります。
でも、診に行く前までは気が重くても、診に行った後は意外なほど心が休まるものなのです。

3. チーム制、ワークライフバランス、いろいろあるけど

僕は決してパワハラをしたいわけではないのですが…
現在外科医を長時間労働から守るために、様々な制度が考案され施行されています。

ワークライフバランスを守るため、主治医をやめてチーム制を敷こう。
当直明けの手術はやめよう。
ついには、手術をしていても時間がきたら執刀をスパッと交代しよう。
などなど。
僕は別にそれに異を唱えようとは思いません。

でも、自分で執刀した手術で合併症が不幸にも起きてしまった時。
患者さんがそれで苦しい思いをしている時。
常に、毎日、足しげく患者さんのもとに診察に行くときが、外科医が一番成長すると思います。

心が技術を育てるので。

「チーム制で、今は自分の診療のシフトじゃないから」とか言い訳して、合併症が起きている患者から足が遠のくようではダメなのです。

…なんかすいませんね。
体育会系丸出しなセリフで。
今の時代にこういうことを言ったら嫌われるのかもしれません。
でも、実際に長年小児外科医をしてきて、体感としてそう思うのです。

特に僕みたいな根が弱っちい人間は、上級医が「夜討ち朝駆けだ」とはっぱをかけてくれなかったら、言い訳ばかりするダメな外科医になってしまっていたでしょう。

長時間労働や過酷な勤務から外科医を守ろうとする施策は正しい。
その一方で、それを言い訳に外科医としての一番大事な矜持は失ってほしくありません。


(参考)
なし


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