「なんとなく黒字」が一番危ない|反・精神論 #16
決算は黒字。
でも、その黒字の中身を、
製品ごとに分解したことはありますか。
会社全体で黒字が出ていると、人は安心します。
けれど、私が最も警戒するのが、
この「なんとなく黒字」の状態です。
全体の黒字は、中身の赤字を覆い隠すからです。
多品種少量の製造業では、
製品ごとに手間も原価も大きく違います。
にもかかわらず、価格が過去の慣行で
決まっていることが少なくない。
実際の原価を積み上げてみると、
作るほど赤字になる製品が、
黒字の製品の利益を食っている。
全体ではかろうじて黒字だから、誰も気づかない。
これを見つけるには、活動ごとに原価を割り振って、
製品別の本当の採算を出すしかありません。
難しく聞こえますが、出発点は単純です。
製品ごと、顧客ごとに粗利を並べる。
すると、利益を生んでいる製品と、
こっそり損を出している製品が、
はっきり分かれて見えてきます。
ひとつ、見るべき方向を補足します。
経営者は、自社の数字の詳細を、
自分の言葉で語れる必要があります。
そして、少しの赤字や、理由の分かっている赤字は、
過度に気にしなくてよい。
本当に怖いのは、理由の分からない黒字です。
なぜ儲かっているのかを説明できない黒字は、
危機感の欠如に直結します。
赤字より、説明できない黒字を警戒すべきなのです。

◤ 粗利95%の優等生が、営業赤字だったとき
利益の大半は一部の製品が稼ぐ。パレートの法則は、
よく語られます。けれど、現場で私が見たのは、もっと
厄介な逆の現象でした。
ある商品は、粗利率だけ見れば95%もあった。
数字の上では、文句なしの優等生です。
ところが、営業利益まで落として見ると、
真っ赤だった。
私は、なぜこの優等生が赤字になるのか、
最初は分かりませんでした。
理由を一つずつ剥がしていくと、
粗利の計算に乗っていないコストの山が
出てきました。
ロットの取り違え、想定外の輸送費、
在庫の棚卸し費用、こまごました経費。
一つひとつは小さい。けれど、塵が積もって、
粗利を全部食い尽くしていた。
パレートの法則とは逆に、数の多い「その他8割」の中に、
静かに大きな害をもたらす商品が紛れていたのです。
粗利だけ見ていては、絶対に見つかりません。
私は、この一件以来、
必ず営業利益まで落として見るようになりました。
「赤字製品も付き合いで切れない」という事情は分かります。
だからこそ、まず見える化が先です。
見たうえで戦略的に残すのは判断、
知らずに作り続けるのは惰性。
見えれば選べる。見えなければ選べません。
見えない赤字は、感覚では絶対に発見できません。
むしろ、よく売れている製品ほど赤字だった、
ということすらあります。
数量が出ているから黒字だろう、
という思い込みが、損失を拡大させるのです。
「うちは黒字だから大丈夫」という言葉は、
ときに数字の設計不足を覆い隠す精神論になります。
本当に大丈夫かどうかは、分解して初めて分かる。
これが構造経営の、原価における立場です。
ただし、数字を分解すればすべてが分かる、
というのも言いすぎです。
数字は過去の記録であって、未来の保証ではありません。
分解して見えるのは「何が起きたか」までで、
「これから何が起きるか」は、数字の外にある経営者の判断です。
分解は出発点であって、終着点ではありません。
正直に告白すると、私自身、「全体は黒字だ」という安心に、
何度も足をすくわれました。
中身を分解すれば、こっそり損を出している製品は必ずある。
それでも、決算書の最後の一行が黒字だと、
人はそこで考えるのをやめてしまう。
本来なら眠れないはずの夜を、「黒字だから」の一言が、
不思議と安心に変えてしまうのです。
あの安心こそ、いちばん高くついた。
だから今は、黒字のときほど、中身を開きます。
第15話 https://note.com/human_crab7218/n/n9eb19e12c67f
第17話 https://note.com/human_crab7218/n/n1e55969b704f

✓ 今日できる一歩
・粗利率が高い「優等生」製品を1つ選び、
粗利に乗っていない費用(ロット・輸送・在庫・こまごました経費)を足してみる。
・それでも利益が残るか、営業利益のラインまで落として確かめる。
