数字が見えて、初めて戦略が始まる|反・精神論 #14
戦略を立てる前に、確かめてほしいことがあります。
自社の数字は、本当に見えていますか。
経営の相談を受けるとき、私は戦略の話に入る前に、
必ず数字の状態を確認します。
製品ごとの実際の原価が出ているか。
粗利が見えているか。
予算と実績の差を追えているか。
ここが曖昧なまま戦略を語っても、
それは砂の上に家を建てるようなものです。
匠ストラクチャーのSTEP4、数値設計は、
この土台を作る作業です。
やることは、原価・粗利・予実を見える化し、
数字で判断できる状態を作ること。
きれいなダッシュボードを作ることが目的ではありません。
判断に使える数字を、判断する人の手元に届けることが目的です。
多くの中小製造業では、月次の試算表は出ていても、
「どの製品が、どの顧客で、いくら儲かっているか」までは
見えていません。
全体では黒字でも、中身を分解すると赤字の製品が混ざっている。
これが見えないまま、赤字の製品に力を注ぎ続けてしまうという
惨劇が起こってしまうのです。
◤ 看板製品の粗利を並べて、私が言葉を失った話
ある会社で、製品別の粗利を、
一つずつ並べてみたことがあります。
私は、社内にあった販売のデータと、
原価のデータを引っぱり出して、
製品ごとに突き合わせていきました。
もともと別々の場所に置かれていて、
誰も掛け合わせて見ていなかったデータです。
手間はかかりましたが、
出てきた表を見て、私はしばらく言葉を失いました。
いちばん数量の出ている看板製品が、
限界利益でほとんど稼げていなかったのです。
手間のかかる工程が多く、価格がそれに見合っていなかった。
逆に、地味で数量の少ない製品が、
静かに高い利益を生んでいました。
経営者は「売れているから儲かっている」と、
何の疑いもなく信じていた。
私もかつては、数量を見て安心する側にいました。
けれど、数量と利益は、別物です。
並べて初めて、力を入れるべき製品と、
価格を見直すべき製品が、まるで逆だったと分かる。
数字を見るとは、思い込みを、
事実で上書きすることなのです。
「正確な原価計算には専門知識もシステムも要る」
と思うかもしれません。
確かに精緻にやればそうです。
けれど、最初に必要なのは精度ではなく方向です。
ざっくりでも製品別に並べれば、
儲かっている方向と損している方向は見える。
精緻な計算は、方向が見えてから後で詰めればいい。
完璧主義が、最初の一歩を止めています。
まず製品や顧客ごとに、直接かかる
費用を引いた粗利を並べてみる。
それだけで、「思っていたのと違う」
という発見が必ず出てきます。
具体的な手順は、こうです。
まず、売上の大きい製品か顧客を10ほど選ぶ。
次に、それぞれの売上から、
材料費・外注費といった
「その製品に直接ひもづく費用」を引いて、
ざっくりの粗利を出す。
この時点では、
共通費の配賦に悩まなくていい。
直接費を引くだけで、
製品ごとの「素の利益力」が見えます。
そして、その粗利を高い順に並べ替える。
並べ替えた瞬間に、たいてい誰かが
「えっ、この製品がこんなに下なのか」
と声を上げます。
その驚きこそ、数字が思い込みを
上書きした瞬間です。
順位が、感覚と事実のズレを、
残酷なほど正直に示してくれます。
もう一つ、覚えておいてほしいことがあります。
この利益は、時間によって変わります。
だから見るべきは、いつも「今」の利益です。
「3年前は儲かっていた」「5年前はこうだった」と、
過去の数字に安住してはいられません。
あくまで謙虚に、いまの数字を。
「想いが大事」という言葉は、
しばしば数字の設計不足を覆い隠します。
想いは大切ですが、想いだけでは赤字は止まりません。
数字が見えて初めて、どこに想いを注ぐべきかが分かる。
これが反・精神論の、数字における立場です。
そして、数字は経営者自身にも向けたい問いを含みます。
その接待交際費や会議費は、本当に必要な経費でしょうか。
その支出で、どれだけの利益を得ているのか。
中小零細企業は、ただでさえガバナンスが効きにくい。
だからこそ、他人に厳しくする前に、
まず自らを数字で律する必要があるのです。

正直に言えば、私自身、原価計算の完璧を目指しすぎて、
いわば「複雑性の罠」に陥ったことがあります。
数字の重さを知っていたからこそ、かえって作り込みすぎた。
精緻にすることが、責任を果たすことだと
思い込んでいたのです。
けれど、現場が見たかったのは、
完璧な計算ではなく、いま判断できる順位の一枚でした。
規模が大きくなるほど、一つの数字の見落としは、
多くの人の雇用に届きます。
数字を見るとは、その重さから目を逸らさないこと。
複雑な表に逃げ込むことでは、なかったのです。
第13話 https://note.com/human_crab7218/n/nd02cbaa8102a
第15話 https://note.com/human_crab7218/n/n9eb19e12c67f
✓ 今日できる一歩
・主要な製品か顧客を5つ選び、ざっくりでよいので粗利を並べてみる。
・「数量が多い=儲かっている」が本当か、1つだけ確かめる。
