うまくいった人の話しか、世の中には残らない
うまくいった人の話しか、世の中には残らない
タイムラインには、独立してうまくいった人の話ばかり流れてくる。会社を辞めてフリーランスになって、収入が上がって、時間の自由も手に入れた。そういう投稿を何本も見ていると、独立は思ったより難しくないように見えてくる。
でも、同じように会社を辞めて、うまくいかなくて、静かに会社員に戻った人の話は、ほとんど流れてこない。
これは、そういう人がいないわけではない。話さないだけだ。
■ 声を上げるのは、いつも一部の人だけ
うまくいかなかった人は、たいてい何も発信しない。恥ずかしいからでもあるし、単純に発信するモチベーションがないからでもある。誰も、失敗をわざわざ人に見せたくない。
一方で、うまくいった人は発信する。せっかくの成果を、見せたいと思うのは自然なことだ。
結果として、見える情報は「うまくいった人」のほうに偏る。これは誰かが情報を隠しているわけではなく、失敗した人が黙っているだけで、自動的にそうなる。
この偏りは生存者バイアスと呼ばれている。生き残った人の話だけが集まり、それをもとに全体を判断してしまう現象のことだ。
■ 数字にも同じことが起きる
これは体感の話だけではなく、実際のデータにも表れる。
投資信託のランキングを見ると、長期的に良い成績を出しているファンドばかりが並んでいる。でも、その裏では、成績の悪かったファンドが静かに運用停止になって、ランキングから消えている。消えたファンドの成績は、平均の計算にほとんど入ってこない。
だから、今見えているランキングの平均成績は、実際に投資した人たちの平均よりも良く見えるようになっている。負けたものが、先に舞台から降りてしまっているからだ。
■ 「みんなうまくいっている」は、目の錯覚
この構造が一番よく効くのが、SNSでの成功談だ。
独立して成功した人、資格を取って転職した人、副業で稼げるようになった人。こうした話は目立つし、シェアされるし、何度も目に入る。
同じ挑戦をして、時間もお金も使って、結果が出ずにやめた人の話は、ほとんど誰の目にも触れない。
だから体感としては「みんなうまくいっている」ように見える。実際には、うまくいった一部だけが見えていて、うまくいかなかった大多数は最初から視界の外にいる。
この錯覚のまま、大きな決断をする人がいる。独立、転職、投資、新しい挑戦。見えている情報だけを根拠にすると、成功率をかなり高く見積もることになる。
■ ここで、少し厄介な話をする
ここまでは、情報にだまされる側の話だった。
でも、これは一方通行の被害ではない。
あなたも、うまくいったことは発信して、うまくいかなかったことは黙っている。これは自然な行動で、責められることではない。ただ、その結果として、あなたも他の誰かにとっての「見える成功例」の一部になっている。
誰かがあなたの投稿を見て、「この人はうまくいっている」と判断材料にする。その人には、あなたが途中で諦めかけたことも、うまくいかなかった別の挑戦も、見えていない。
つまり、この仕組みの中で、誰もが同時に、だまされる側とだまされせる側の両方をやっている。悪意はどこにもない。ただ黙っているだけで、この状態はできあがる。
■ 判断する前に、探しにいく
対策として言えることは、地味だ。
大きな判断をする前に、うまくいった話だけでなく、やめた人の話を意識的に探しにいく。同じ挑戦をして、途中でやめた人は必ずいる。ただ、その人たちは自分から声を上げないので、探さないと出てこない。
もう一つ。目に入ってくる成功例の数を、そのまま成功率として受け取らないほうがいい。10人のうまくいった話を見たとしても、それは母集団の一部でしかなく、しかも一番見えやすい一部でしかない。
見えている情報がすべてだと思った瞬間から、判断は静かにずれ始める。見えていないものを、見えていないと自覚しておくことだけが、たぶん唯一の防御になる。
