愉快な人たち④ 「色つきブロックの女の子」
大人になってもやめられないことがある。
それは、色つきのブロックが無造作に並べられた道を歩くとき、同じ色のブロックだけを踏んで歩こうとすることだ。
もちろん、子供の時のように足を全力で伸ばしたり、ジャンプしたりはしない。
すました顔で、少し大股に歩いたり、少し左右にずれたりするだけだ。
無理なときは、すぐに普通の歩行にもどる。
その日の道は、赤とグレーのブロックだった。私は赤のブロックで行くことを決めた。
なぜなら、赤の割合の方が多く見えたからだ。
グレーは3つに1つぐらいの配分だった。赤いブロックを選んで歩くというよりは、グレーを避けるように歩けば、通常の歩行とそう変わらなかった。
ふと前を見ると、少し前に大股で歩く小学生高学年ぐらいの女の子がいた。
すぐに分かった。彼女はグレーのブロックを選んだのだと。
女の子は塾の名前が入ったリュックを背負っていた。これから塾に行くのだろうか。
そういえば、私も子供のころ習い事の時は、遠回りして近所の犬に会ってからとか、公園の鳩を驚かせてからとか、ルーティーンを作ってたな。
もしかしたら、この子にとって、この道のブロックは塾に行く前のルーティーンなのかな。
そんなことを考えながら、なんとなく、女の子を追い抜かさないように、一定の距離を保ちながら歩いた。
女の子は飛び飛びになっているグレーのブロックの上をつま先で踏みながら歩いた。
どうやら、靴がはみ出ることも良しとしていない、厳密なルールでやっているようだ。
さすが、少ないグレーのブロックを選ぶだけある。
順調に進んでいた女の子だが、ここで難所が現れた。
道の端でおばあさんが手押しカートに座って休憩していた。広い道だ。普通であれば歩行になんの問題もない。
しかし、女の子からもっとも近いグレーのブロックがおばあさんの足元にあった。
女の子はおばあさんの手前で止まると、すっとおばあさんを避けて赤いブロックを歩いた。
そして、その先からまたグレーのブロックだけを歩きだした。
一見、女の子は、そこだけしょうがないと諦めてしまったように見えるが、私には分かった。
女の子が、赤いブロックを歩く前に深呼吸したのを、私は見逃さなかった。
「息を止めている間は赤いブロックの上も歩ける」ルールがあるのだ。
長いブロックの道をずっと息を止めることはできない。なので、グレーのブロックを歩きつつ、息を止めて赤のブロックを渡る手段もある。
なるほど。
女の子のゴールはブロックが全てグレーになる境界線だった。全てがグレーなら、もう普通に歩ける。だから、女の子はグレーを選んで歩いていたのか。
おそらく、塾へ向かうであろう女の子の背中に心の中で拍手を送った。
帰りながら、次にあの道を歩くとき、私もヒヨらずに、グレーのブロックを歩いてみようかと考えた。が、ほとんど息を止めて歩くことになりそうだなと思い、やめることにした。
色つきブロックはそれぞれで楽しめばいい。
他の歩行者に迷惑にならないよう、無茶をして怪我をしないように、ひっそりと楽しめばいい。
歩きスマホのゲームは禁止してほしいが、こんな密やかなゲームであれば、大人がやっても許されるんじゃないかな。と思った初夏の夕方でした。
