雪の降る街で 第十一章 「月光」 ②
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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・出来事とは一切関係ございません。
第十一章 「月光」 ②
〝敵が市街に侵入してきた! 戦車二両! 後続には装甲車二両! 各員、迎撃!〟
いよいよだ。
逸見は銃を構え直した。
向かいのビルから仲間が素早く身を乗り出す。構えているのは一一〇ミリ個人携帯対戦車弾。
パウッ!
放たれた対戦車弾。
次の瞬間、それは見事に命中した。
火を噴き、停止する「敵」の一〇式戦車。
目の前で繰り広げられる光景を信じられない思いで見つめていると、後続の装甲車が停まり、黒ずくめの隊員達が続々と降りてきた。
それが一般隊員の動きでないことくらい、逸見にも理解できる。
「逸見三曹! 早く援護しないと!」
仲間の籠るビルを見極め、突入せんとする敵の隊員達。足止めしないと仲間が殺られる。
逸見はライフルを構えると、足を狙った。
命中。
弾けたように転倒する敵の隊員。
次は!
「逸見三曹! やばいっす!」
え?
糀谷が指さす方に視線を移した逸見の顔が凍る。
仲間が撃破したはずの一〇式戦車が、無慈悲に砲塔をこちらに向けていた。
なんで……?
それが、逸見が最期に見た景色だった。
*
〝隊長車被弾! 隊長車被弾!〟
無線から流れてくる悲鳴のような声。
隊長車が被弾……? あ、あたしのことか……。って、あれ?
ぼやけた視界が徐々に回復してくると、慌てて身を起こした。
「ジンさん! コウ君!?」
「大丈夫だ!」
「異常ありません!」
喰らったのは恐らくパンツァーファウスト。
ホプキンソン効果による内部破壊も無く胸を撫で下ろす。七四式なら助からなかった。
どこ!?
咄嗟に切り替え、袖で鼻血を拭うと、潜望鏡で周囲を探る。
上空を掩護しているロングボウアパッチが、三十ミリチェーンガンで手当たり次第に周囲のビルの上層階を掃討射撃している。
地上に視点を移すと、後続の装甲車からSの隊員達が続々と降車し、ゲリラが潜んでいるビルの中に突入していくところだった。
と、その中の一人が突然、弾けるように倒れた。
「藍ちゃん! スナイパーだ!」
相原が叫ぶ。
「どこ!?」
スナイパーは早めに片づけないと被害が拡大する。
藍は隊員が倒れた方向から射線を推定すると辺りを探った。数少ないスナイパーを効果的に配置するのに最も適した場所は。
「ジンさん! 二時方向! 恐らくあの茶色の雑居ビルよ!」
「よし! 最上階を狙うか!?」
「いや、二階と三階の間を狙って! 榴弾を使用!」
迷っている暇など無い。
「装填!」
「よしっ、撃――――――ッ!」
パアアアアァァァァァァァン!!!!
静寂の市街に炸裂する一二〇ミリ砲。
榴弾は狙い通りビルの中央に命中し、爆発した。壁面が一気に崩れ落ち、内部が露になる。
〝橋本隊長! ご無事で!?〟
二号車・菊名からの無線が入る。
「大丈夫よ! そっちは!?」
〝こちらも敵が潜んでいると思われるビルに一発ぶち込みました。現在Sがこのエリアを制圧中。そろそろ撤退しますか!?〟
通りの彼方此方で起こる爆発音。
街の向こうからも、味方の砲声が聞こえてくる。
本来なら長居は無用、ここは全速で撤収し、後続の第二班が入れ替わりで限界点を進めるのがこの戦術の特徴だが。
「いや、思ったより抵抗が薄い。まだ限界点じゃないわ。県庁攻略のため、まずはこのエリアを制圧して橋頭保を築く」
〝了解!〟
「橋本から各隊へ。これ以上の深入りは無用、現在の前線を維持せよ。一戦車から司令部、Bポイントまでは前進可能と判断します」
〝了解。全部隊を至急前進させる〟
藍の臨機応変な対応と粟谷の素早い判断。
「ありがとうございます。橋本から各隊へ! 増援が来るまで持ちこたえるわよ!」
オオッ!
と、鬨の声が上がる。その士気や良し。
行ける。
藍はモニターを睨むと、矢継ぎ早に各車への指示を開始した。
*
一時間後には燕三条に残っていた野戦司令部をはじめとする部隊が追いつき、その後も信頼性が確認された部隊が続々と送り込まれ、一大前進基地が構築された。
都心警備に回っていた第一空挺団からも、二個大隊が今日の夜半には合流できる見通しだった。
一気に軍団規模にまで膨れ上がった新潟派遣部隊。
仲間たちが慌ただしく行き交う中、光一は一戦車の宿営地となった中学校の校庭の片隅で、愛車の点検・整備を行っていた。
正直なところ、対戦車弾が直撃したときは終わったと思った。意識が戻った時は夢と現実の区別すらつかなかった。
見つめるのは生々しい、弾着の痕。
今更ながらに震えが出てくる。直撃を喰っても、ビクともしなかった愛車の驚異的な性能に感謝するしかない。
一〇式が前面で囮となる今回の戦術は、味方の損害を抑えるという意味でも大正解だった。
味方車両は全て健在、Sが制圧の主体になったこともあり、こちらの戦死者はゼロだった。
制圧後は七四式戦車と一六式機動戦闘車が前進してエリア防衛に徹し、普通科部隊と共に盤石の守りを形成する。
改めて藍の戦術眼に敬服するほかない。
〝あいつはもう充分過ぎるほどに傷ついた〟
槙村の意味深な言葉が引っ掛かってはいたが、光一はもう、あれこれ考えることは止め、以前のように藍を信じることに決めていた。
点検と整備を一通り終え、直撃によって剥がれた塗装を塗り直そうとしていた時だった。
「コウ!!」
大声と共に矢部が駆け寄ってきた。
「どうした?」
尋常な様子ではない。
息も切れ切れに何かを話そうとするが、言葉にならない。
「何だよ、落ち着けって」
光一が宥めると、矢部にいきなり手首を掴まれた。
「ちょっと来い!」
「おいっ、どうしたんだよ?」
「早く! こっちだ!」
「なっ、何だよ、行くから離せって!」
言い終えるより早く矢部が駆け出すと、光一も慌てて後を追った。
辿り着いたのは遺体安置所となっている小学校の体育館。
「……おい、何の冗談だよ?」
嫌な予感がする。
今日、こちら側に戦死者は出ていない。だからここに安置されているのは「敵側」の遺体の筈だ。
「おい、嘘だろ? 冗談きついぞ」
矢部は何も答えず、ただ血眼になってアルファベット順に並ぶ遺体収納袋を追っていく。そしてiのところまで来て立ち止まった。
ITSUMI KANATO
俄かには信じられない。
矢部は立膝をつくと、遺体収納袋のジッパーに手を掛けた。
「開けるのか……?」
「こんなの間違いに決まってんだろ!」
矢部はそう叫ぶと、一気にジッパーを下ろした。
光一は意を決すると、身構えながら恐る恐る顔の辺りを開く。
現れたのは予想に反して傷ひとつない綺麗な顔。口元に差し込まれた認識票が、彼が既に亡骸であることを示している。
ぺたりとその場に座り込む二人。
「いつ……み」
見間違うはずなど無い、それはかけがえのない友の顔だった。
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雪の降る街で 第一章 「鼓動」 ①|京
あとがき
藍、光一、相原の三人は無事でしたが、その裏返しは光一の親友、逸見の死でした。
殺るか殺られるかが戦場の掟である以上、人間の、平時の崇高な倫理などは後回しです。
次回は11月15日(土)に掲載予定です。傷ついた光一は、そして藍は果たして?
引き続き、お付き合いいただけますと幸甚です🙇♀️
