アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【エピローグ】王であれ農民であれ、家庭に平和を見出すものこそ最も幸福である。 ②(残り3話です)
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【エピローグ】王であれ農民であれ、家庭に平和を見出すものこそ最も幸福である。 ドイツ人詩人・小説家 ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ ②
基地から宿舎までは、道路が空いていれば車で十分強の距離。夕食の材料は土日に敏生が買い出してくれているので、寄り道もせずに帰宅すると、朝、敏生が干してくれた洗濯物を取り込み、お風呂を沸かし始めてから、夕食の仕度を始める。
恋人時代から、手料理だけはどうしても彼に食べて欲しいので、これだけは譲れない。
敏生、まだかな。
手際よく夕食の仕度を終え、テーブルにお皿を並べると、洗濯物を畳みながら夫の帰りを待つ。目黒の学校を出る時に、SNSでメッセージを送ってくれていたので、そろそろ帰ってくるはずだ。
と、ガチャガチャ、とドアを開ける音がして夕陽は席を立った。
「ただいまー」
「おかえりなさーい!」
パタパタと彼に駆け寄ると、ぎゅっと抱きつく。
「はぁ、天使だ……。癒される……」
敏生はホッとしたように呟くと、ぎゅっと夕陽を抱きしめた。
「ね? ごはんにする? お風呂にする? それとも……あ、あたし?」
彼に仕込まれたセリフを照れながら言ってみせると、彼は相好を崩して夕陽にキスした。
「一緒にご飯食べながら夕陽も食べる! そのあと一緒にお風呂入って夕陽を食べる!」
「そっ、そんなお行儀悪いのはダメぇ!」
「じゃあ一緒にお風呂入ろ?」
「もーぅ。分かりました、準備するから先に入ってて」
「やった」
敏生は家に上がると、嬉しそうに鼻歌を歌いながらスーツを脱ぎ始めた。
彼に求められるのはこの上なく嬉しい。医者からは夫婦生活はしても良いと言われているが、当の敏生は夕陽を気遣い、裸で抱き合ったまま、キスと愛撫を繰り返すだけ。夕陽自身はそれだけでも充分に満たされるのだが、男の敏生はそれだけでは満足できないと思うので、最後は夕陽が色々としてあげることにしている。
下着とタオルを準備すると、夕陽も浴室へ入る。軽く身体を洗ってから、既に湯船に浸かっている彼と向かい合うように、お湯に身を沈めた。
「お腹、だいぶ大きくなってきたね」
敏生が愛おし気に夕陽のお腹を撫でる。
「うん。えへへ、敏生とあたしの赤ちゃんだよ」
夕陽は敏生の肩に手を掛けると、そっと唇を重ねた。彼もまた、夕陽の腰をやさしく抱き寄せると、舌を返してくる。
ぬるめのお湯に二人でゆっくりと浸かりながら、こうして愛を囁き合ったり、その日にあった出来事などを話し合ったりするのが、夫婦の暗黙のルールだ。
「夕陽、妊娠してからますます綺麗になっている気がする」
「本当に? 嬉しい。きっとね、敏生のこと毎日想い続けているからだと思う」
「うん?」
「飛んでいた時はいつも一緒にいれたけど、今は平日だと朝と夜しか会えないでしょ? だからひとりでいると、敏生のこと、ずっと思い浮かべちゃって」
彼の頬を両手で包む。愛おしくて堪らない。
「どんどん敏生のこと、好きになっていくの。重いかな? あたし」
「重くなんかないよ。すごく嬉しい。俺だって夕陽のこと、毎日想い続けているもん」
「ほんと?」
「ああ。CSに入ったのだって、夕陽と離れたくなかったからなんだよ?」
「え? 一家の主としての責任、ってやつじゃなかったの?」
「もちろんそれもあるけど……身重の夕陽をひとり残して長期航海に出たくなかったし、CSに入校すれば少なくとも家には毎日帰れるな、って」
もっとも入校してからも毎晩、夕陽が寝た後に隠れてレポート作成に追われていることは知っている。自分のことを気遣ってくれる彼の為にも、ここはあえて気づかないふりをした方が良いのだろう。その分、彼を全身全霊で癒してあげるのが妻のつとめだ。
「……ありがとう。あたし、すごく幸せだよ」
「俺の方こそありがとう。いつも可愛いお弁当作ってくれて。毎日、どんな言葉が描かれているのか開けるのが楽しみでさ。今日の〝大好きダーリン♥〟は悶絶だったよ」
思わず赤面する。
「……ほ、他の人たちに冷やかされない?」
「その冷やかしが嬉しいんじゃん。みんなびっくりしているよ。噂に聞いていた魔女がこんな可愛いお弁当作るのか、って」
彼の言葉に耳まで真っ赤になる。
「好きだよ。俺しか知らない夕陽の可愛さ、ずっと独り占めしていたい」
「えへへ。敏生の本当のカッコよさを知っているのもあたしだけだもん」
「俺のカッコよさ?」
「なーいしょ。ね、イチャイチャ、しよ?」
「お。珍しいね、夕陽からなんて。何かあった?」
「ふふ。敏生の気持ちが嬉しくて、幸せでたまらないの」
「こんなの序の口だぜ? 夕陽のこと、もっともっと幸せにしてやるから」
「敏生……」
「夕陽……」
二人がゆっくりと唇を近づける。
「あー!!」
「ど、どうした!?」
「大切なこと話し忘れてたっ。あのねっ、美鈴ちゃん結婚するんだって! 坂本君と!」
敏生は驚いた様子で夕陽を見つめていたが、やがて、ふうっ、と息をつくと、今度は彼が夕陽の頬を両手で包んだ。
「夕陽……」
「なに?」
「それは確かに大ニュースだけど、今はこっちが先」
「あっ」
「ご飯のときにでもゆっくり聞くよ。いいね? 俺の可愛い魔女さん」
「う、うん……あっ」
敏生の舌が首筋を這うと、夕陽は堪らずぎゅっと彼の頭にしがみついた。
その後、ひとしきり盛り上がり、風呂から上がると、レンジで温め直してから夕食を摂る。
いつも、美味しい美味しいと食べてくれる彼だから、作り甲斐がある。その後、二人で協力して洗い物を済ませると、いつものようにソファに腰を下ろして夫にしな垂れかかった。結婚して宿舎に入居してからの、二人のルーティン。敏生が嬉しそうに夕陽の肩に腕を回すと、心得たように夕陽は彼の胸に頬ずりした。
お互いがいくら求め合っても満ち足りない程に愛おしい。彼の唇が夕陽の額に触れる。
「はあー。ほんと俺の嫁さん可愛くて、幸せ過ぎる。一生離さないから」
「はい、旦那さま」
笑い合いながらどちらからともなく額を擦り合わせる。
「そういえばあたし、この子の名前、決めちゃった」
男の子だったら夕陽が、女の子だったら敏生が名前を決めることにしていた。
「はやっ。どんな名前?」
「和生。最愛の人から一文字貰ったわ。平和の中を生きて欲しい、平和に生きて欲しい、平和を生む人でいて欲しいって。どうかな?」
「いいじゃん! 素敵な名前だね。ありがとう、門真家の命名を踏襲してくれて」
「ううん、大好きな人の字を貰うのは当たり前よ。で、女の子だった場合はまだ考え中?」
「へへ。実は俺も決めちゃった。夕奈。もうこれしかないって思って、さ」
「それって……」
「うん、俺も最愛の女性から一文字貰いました。奈はカリンを意味する漢字で、花言葉は唯一の恋、努力、優雅、なんだって。画数も最高だったし」
得意げな彼に思わずクスッと笑ってしまう。
「何?」
「ううん。あたしたち、似た者同士だなって」
「今さら」
どちらからともなく唇を合わせる。
「ね。せっかくだから両方とも使いたいね、名前」
「え?」
「敏生との子供、二人は欲しいな。あたし、一人っ子だったから、妹か弟が欲しかったの。敏生はどう?」
「夕陽との子供ならそりゃいっぱい欲しいよ。でもパイロット続けるのが難しくなるよ? 出産の度に体力の低下と戦わなくちゃいけないし」
「敏生はあたしにパイロット続けて欲しい?」
「それは……夕陽が決めることだよ。君の選択を俺は夫として全力でサポートするだけだ」
夕陽はプクッと膨れると、両手で夫の頬を包んだ。
「それじゃだめ。あたしは敏生の気持ちを聞きたいの。前にも言ったでしょ? これから先の人生で、あたしはほんの少しも敏生とすれ違いたくない。人生の選択をする上でお互いの気持ちはしっかりと擦り合わせておきたい、って」
「夕陽……」
油断していると、彼は直ぐに夕陽のことを優先してしまう。もちろん、その気持ちはとても嬉しいのだが、自分だって彼を幸せにしたいという想いは負けていない。
「俺は……夕陽と一緒に飛び続けたい」
「言うと思ったわ。大丈夫、あたしも同じ気持ちよ」
夫の手を取り、握りしめる。
「あたしも敏生と一緒に飛び続けたいし、子供も二人は欲しい。だから今まで以上に頑張る。気遣いは無用よ」
もちろん、言うほど簡単ではないことは百も承知。だが、何よりも、愛する彼との幸せを妥協無く追求したい想いの方が強かった。
「ありがとう。俺も一緒に頑張るよ。仕事も育児も、夕陽の復帰サポートも全力で頑張る。賑やかで幸せな家庭を築いていこうな」
「うん!」
二人して相も変わらずストイックだと、改めて思う。
恐らく、夫が敏生じゃなかったら、相手は息が詰まり、とっくに結婚生活は破綻していたに違いない。その自覚はある。
だからこそ、公私ともに尊敬できる最高のパートナーにめぐり逢うことができたこの奇跡には、ただ感謝しかなかった。
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