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雪の降る街で 第五章 「警報」 ③(Special Thanks 譬喩様)

本編に進む前に、譬喩様に第三章「大社」、第四章「榊」①の記事をご紹介いただきました!!
本当にありがとうございます(ノД`)・゜・。
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この作品はフィクションです。実在の人物団体事件出来事とは一切関係ございません。


第五章 「警報」 ③


「宮本部長が言われたように、既に間接侵略は始まっています。我々の手の届かない地方行政に巣食う、革命勢力の首長達を尖兵として。恐らく仲木戸はこの状況を打開するため、何らかの行動を起こすものと考えています」
「何らかの行動とは何だ。クーデターでも起こそうというのかね?」

 信じられない様子で久峨が首を横に振る。

「勿論そのような事態も想定し、特に首都圏に駐屯する第一師団及び、中央即応集団については末端幹部に至るまで、警視庁公安部殿・・・・・・・と協力して徹底調査済みです」

 公安調査庁に充てつけるような福山の返答に、宮本が鼻を鳴らす。

「首都圏以外の部隊は大丈夫なのか?」
「現在調査中です。我々も公安警察も人員不足でまだまだ時間が掛かりそうです」
「国家の一大事に何が人手不足だ。来年度は予算を付けてやるから今は大至急、総力を挙げて徹底的に洗い出すんだ。小菅長官、君ももっと公安部に応援を回してやらんか」
「お言葉ですが総理、公安警察官は専門性が高く、一般の捜査員では足手纏いになります」

 警察庁長官の小菅大剛が苦虫を噛み潰したように答えると、久峨はバンッと机を叩いた。

「そんなこと言ってる場合ではないだろう! 今にも奴は事を起こさんとしているんじゃないのか!? このリストを残していったこと自体が我々に対する挑戦じゃないのか!?」

 槙村は目の前の茶番を冷めた目で見つめていた。

 保身しか考えぬ政治家達、事なかれ主義の官僚達、そしてそんな彼らを許している、無関心でお気楽な国民達。

 こうしている間にも彼の国は徐々にこの国を侵食し、勢力下に収めんと爪を研いでいるというのに。

〝もう待てぬ。自ら冒涜する者を待つわけには行かぬ。しかしあと三十分、最後の三十分待とう。共に起って義のために共に死ぬのだ。日本を日本の真姿に戻して、そこで死ぬのだ〟

 三楯会を追い始めてから繰り返し読んだ三島由紀夫の「檄」。それは「日本」への愛に満ち溢れた、美しく甘美なまでの遺言。

 五十年を経た今でも、この国を思えばこそのもどかしさに共感せずにはいられない。

 もう待てぬ。

 仲木戸もその心境にいるに違いない。槙村には彼が敵だとはとても思えなかった。

 そう、久峨の言う通りだ。だが今更気づいても遅い。恐らく置き手紙が意味することは挑戦というよりむしろ―――

「失礼します!」

 バンッと扉を開け、転がるように入ってきたのは槙村の配下の田辺類たなべるい三等陸尉。彼は槙村を見つけると、慌てて駆け寄ってきた。

「槙村一尉! これを……!」

 手渡されたメモに槙村の顔色が変わる。

「これは……。部長!」

 槙村が急いで福山に取り次ごうとすると、

「槙村君と言ったな? 遠慮はいらん、直接報告しなさい」

 と、久峨に遮られた。福山が頷く。槙村はすうっと息を吸うとメモから顔を上げ、この国のトップに向き直った。

「……仲木戸の居場所が特定出来ました」
「本当か!? どこだ!?」

 会議のメンバー達が一斉に立ち上がる。

「新潟です」
「新潟? 何でそんなところに……」

 情報本部長の藤川が呻く。

「事情は後回しだ。小菅長官、直ぐに新潟県警に連絡して彼を拘束するんだ」
「無理です!!」

 久峨の指示を遮ったのは、槙村の悲鳴にも似た叫び声。

「新潟は……仲木戸の手に落ちました。チェックメイトです」

 その場に居た誰もが槙村の言葉の意味を理解出来ず、ただ呆然と彼を見つめていた。
 
           *
 
 しんと鎮まり返った新潟市街。

 まだ日没前だったが、行き交う車も人も皆無。静寂の中、駅前のオーロラビジョンだけが音声を発しており、それはとても奇妙な光景だった。

〝テレビをご覧の皆さんはどうか、落ち着いて行動して下さい。繰り返します。この地域にゲリラ攻撃の可能性があるとの警戒警報が出ています。これは誤報ではありません。現在、想定される事態に備えて市内各所に自衛隊が出動しています。市民の皆さんは絶対に外出をせず、テレビ・ラジオを点けたままにして下さい〟

 地方局の女性キャスターが深刻な表情で画面に向かって繰り返し原稿を読み上げている。

「ゲリラ、ね……」

 市内のホテルの一室でソファに身体を埋めながら、彼はつまらなさそうに呟いた。

「彼らも市内に展開している我々がそのゲリラだとは、夢にも思っていないでしょうね」
「鶴見二佐、我々はゲリラでは無いよ? れっきとした正規軍だ」

 彼は傍らで冷笑している配下を窘めると、テレビを切り、リモコンをテーブルに置いた。

「失礼しました。確かに、この国を侵略から護らんとする我々がゲリラのはずがない」

 頷くと、すっと立ち上がり窓辺に立つ。

「で、首尾は?」
「市内各所の制圧は完了しました。死傷者も今のところおりません」
「よし、上出来だ。この段階での犠牲者は怨嗟となり今後の統制に支障を来たすからな」
「思いの外Jアラートが効いたようです。最初は誤報と思っていた市民達も、我々の姿を見るなり素直に指示に従っています」
「それが日本人だよ。実に統制の取りやすい国民性だ。もっとも、いいように利用されやすいのもまた事実だがね」

 曇天の下に広がる寒々しい日本海は、この国の行く末を暗示しているようだ。唇を噛み締める。

 戦後日本が国の大本を忘れ、自らこの国の歴史と伝統をとくしてきた結果、彼の国につけ入る隙を与えてしまった。

 だがこれ以上好きにはさせぬ。私が起った以上は。

「で、これから如何されますか?」

 仲木戸が涼しげな笑みを浮かべる。

「うん、しばらく様子を見よう。彼らの出方を、ね」
 
           *
 
 非常呼集が掛かったのは、課業が終わってから程なくしてのことだった。

 独身隊員達は風呂や食事に向かおうとしていたところを、家族持ちの隊員達は帰宅途中を呼び戻された。

 全員が各部隊長の下に足早に集合する。

「みんな集まった!? 全員いる!?」

 緊迫した面持ちで藍は配下達を見回した。

 皆、使命感に駆られ、目に強い光を湛えている。藍は少し逡巡した後、口を開いた。

「落ち着いて聞いて。先ほど一七〇〇ヒトナナマルマル、内閣総理大臣から治安出動命令が下った。警察力では対処出来ない事態が発生したらしいの」

 藍の言葉に全員が唖然とする。

 当然だ。自衛隊創設以来、発令されたことが無い治安維持の最終手段。災害出動だと思っていた面々は、信じられない面持ちで藍の顔を見つめている。

「場所は新潟。仔細は不明。ゲリラ・コマンドーの類と思われるわ」

 どよめきが起こる。

 ゲリラ・コマンドー。

 演習で嫌というほど聞き慣れた単語も、いざ出動となると中々理解が追いつかない。

「第一師団にも出動命令が下った。あたし達、静岡と山梨の部隊が新潟へ向かうことになったわ。二時間後に出発よ。東名から圏央道を使って関越に抜ける。弾薬は実弾を装填。履帯はゴムパッドを装着、防滑鋲も忘れないで。何か質問は?」
「敵は北朝鮮なのか?」

 間髪入れず相原が声を上げる。ゲリラと聞いて真っ先に思い浮かぶのは北朝鮮しかない。

「分からない。だけど最悪の事態は想定しておく必要がある。みんな、覚悟は決めて」

 皆が一様に押し黙る。覚悟。あまりにも重い言葉。無理も無い。家族や仲間と課業後の団らんを迎えようとしていた最中の出来事。

「これまでに経験のない長距離移動ですが、戦車はトレーラーに載せないんですか?」

 沈黙を破ったのは二号車車長の菊名きくなさとる陸曹長。

「自走で行けとの命令。いつ何が起こるか分からないそうよ。ルートとなる高速道路と一般道は既に警察が全面交通規制を敷いている。駐屯地を出発したら常時警戒。他に質問は?」
「新潟は十六旅団の管轄だと思うのですが」

 四号車車長の大口おおぐち嘉人よしと一等陸曹が腑に落ちない感じで手を上げる。

「出るとは思うけど、十六旅団は軽装備の緊急展開部隊。彼らだけでは都市制圧には火力不十分との判断じゃないかしら」

 機甲部隊を投入してまでの都市制圧。要はそれほどの状況になっているということだ。


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雪の降る街で 第一章 「鼓動」 ①|京

あとがき

 譬喩様の紹介記事、本当にありがたいです。一話毎に見どころポイントを抑えていただいていて(ノД`)・゜・。

 さて、そのお話の方は、仲木戸が本格的に何かを始めようとしていますね。そして「治安出動」。

 ここでは多くは語りません。(というか語れません💦)
 
 重苦しくなってきましたが、この物語の根底に流れるテーマは愛、そして神。宗教ではありません。日本人の深層に宿る何かを書ければ、と思っています。

 次回は9月22日(月)。

 光一や藍、そして菜々ちゃんはどうやってこの「命令」に折り合いをつけるのか。お待ちください。