雪の降る街で 第十三章 「終幕」 ①
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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件・出来事とは一切関係ございません。
第十三章 「終幕」 ①
中東歴訪の途上から引き返してきた「ながと」は、第一護衛隊群隷下の七隻の護衛艦と合流し、新潟沖を遊弋していた。
F35BⅡライトニングをはじめ、二十機の航空機を搭載する戦後日本初の「空母」は、東アジア諸国からは軍国主義復活の象徴として警戒される一方、東南アジア諸国からは強力に軍拡を推し進める中国に対抗できる艦として、プレゼンスが期待されていた。
その「ながと」が今、慌ただしく臨戦態勢に入ろうとしている。
ターゲットは領海侵犯を目論む中国艦でも、日本を目掛けて飛んでくる北朝鮮のミサイルでもない。
アイビスタワーに立て籠もる、かつて同じ釜の飯を食べた仲間達。
重苦しい空気が艦を、いや、艦隊全体を包み込む中、とあるエリアだけはいつも通りの騒々しさを見せていた。
「えーっ!?」
素っ頓狂な声を上げたのは敏生。
新潟上空での空中戦以来塞ぎがちだった彼も、夕陽や仲間のフォローで立ち直りを見せていた。
「あの戦車、藍が乗ってるのかよ!?」
ながとにも戦況はリアルタイムに送られてきており、たった一両でタワーに突入した戦車のことも衛星画像と共に伝わっていた。
「ああ、間違いない。さっき、槙村が艦に直接電話してきてさ。敏生か俺に代われって」
刑部が呑み込めない様子で肩を竦める。
「誰?」
夕陽が訝しげに口を挟む。
「メッセに突入した戦車に乗ってるの、防大の可愛い後輩なんだ。若葉と同期の女の子」
「えっ?」
眉をひそめる夕陽。
「あ、いや、可愛いってのは、後輩としてで」
敏生が言葉の選択を誤ったかと焦るが、夫を信じている彼女は、苦笑すると首を振った。
「そうじゃなくて、女性の車長なの?」
妻の興味が職種にあると分かり、ほっと胸を撫で下ろす。
「うん。でもあいつ、防衛駐在官が夢だったはずなんだけど、なんで戦車になんか……」
「それを言うならあたしも同じよ? もう忘れて?」
そうだった。共に戦ったのはつい先日の事。彼が愛しい妻の髪をくしゃっとかき混ぜる。
「よーし、座れ。ブリーフィング始めるぞ」
勝野が手を叩きながら部屋に入ってくると、パイロット達が急いで席に着いた。
作戦会議が始まる。
周辺諸国の動き、現地の戦況。真剣な表情で耳を傾ける面々。だが、最後に今回の作戦内容が伝えられると、一瞬にして顔色が変わった。
「バンカーバスター!? どうしてそんなものを……」
核兵器を除く通常兵器の中で、最凶最悪の威力を持つと言われている地中貫通爆弾、通称「バンカーバスター」
「米軍からの提供だ。確実に仕留める為、弾数は二個。こいつをタワーの根元にぶち込み、核もろとも仲木戸を葬り去れとのお達しだ」
静まり返る室内。
「暗殺かよ。もしかして米軍が裏で手を引いていたという証拠隠滅を、俺らでやれってか?」
不貞腐れた様子で敏生が吐き捨てる。
陸自の戦車隊が万代島付近で米軍の戦車と一戦を交えたらしい、との情報は、ながとにも漏れ伝わっていた。
「滅多なことを言うな、トシ! 俺らは何も知らない。知らなくていいんだ」
勝野の怒りに満ちた表情にパイロット達が固まる。やるせない想いは勝野も同じだった。
「この任務に失敗は許されない以上、実力で決めるぞ。トシ! 太一! 異論は無いな?」
敏生が眉間を押さえ、刑部が天を仰ぐ。
「それ以外の者は作戦終了まで周辺空域で戦闘空中哨戒。全機で上がるぞ。この期に及んで裏切る部隊が出るとは思えんが、念には念をだ。作戦開始は一時間後の一五〇〇。トシと太一はこのあと残るように」
「待って下さい!」
突然上がった強い女性の声。
集まった視線の先には立ち上がった夕陽がいた。
「なんだ、神月」
「刑部一尉には歩くことさえ覚束ないお子さんが居ます。他の皆にも家庭がある。万が一の場合、路頭に迷う人は少ない方が良い」
その意見具申に室内がざわつく。
「何が言いたい?」
不機嫌そうに刑部が声を上げる。
「あたしが行くわ」
「夕陽! 駄目だ!」
敏生が血相を変えて立ち上がる。
初めて扱うバンカーバスターを、対空砲火を避けながら低空で侵入し、ぶっつけ本番で超高層ビルの根元にピンポイントでぶち込むのだ。
正直、自分も自信が無い。万が一、離脱に失敗したら爆発に巻き込まれて確実に死ぬ。
「あたしの爆撃の腕は刑部一尉に次ぐ三番手。あたしでも任務は充分に務まります」
「いやそうじゃなくて」
「ちょっと待てよ。お前、G空域の悪魔と呼ばれた俺様を戦死前提で語ってんじゃねえよ」
刑部がいきり立つ。
「あんたなんか心配してないわ。心配なのは葵さんと姫子ちゃん。あんたに何かあったら、あの二人はどうやって生きて行くの?」
妻と娘の名前を出されて詰まる刑部。
「夕陽……」
「あたし達、夫婦でしょ? 夫婦なら宿命は……十字架は二人で背負うものよ?」
「いや、でもさ」
「敏生!」
夫を見据える眼差し。
それは敏生が一目惚れした、強く、揺ぎの無い女の瞳だ。
「あたしもファイターパイロット。この道に進んだ時点で覚悟は出来てる。それに……貴方と一緒なら地獄に落ちたって構わないわ」
「……分かった」
敏生は立ち上がると妻の下に歩み寄った。
「終わらせよう、俺たちの手で。同胞同士で血を流す、このふざけた状況を」
彼の目にももう迷いは無かった。
*
ロビーを窺うも、敵がいる様子は無かった。物陰から物陰へと、素早く移動しながら中へ進んでいく藍と光一。
相原は一人、戦車で待機している。冬季遊撃レンジャー徽章を持ち、戦車の操車全般に長けた彼を残した方が、万一の事態にも対処できるとの藍の判断だ。
もっとも、仲木戸をぶっ飛ばしてやると前のめりだった当の本人は、不満たらたらであったが。
根っからの戦車兵である光一のぎこちなさに比べ、藍はまるでレンジャー隊員のような身のこなし。
陸幕ではデスクワーク、駒門では戦車乗務。一体どこで身につけたのだろう、などと考えていると、藍がスッと立ち上がり、エレベーターに向かって駆け出した。
え? そっち? 慌てて後を追う。
「えーっと、藍さん。いいんでしょうか? その、エレベーターなんか乗っちゃって……」
上階へのボタンを押し、辺りを警戒する藍に光一が不安げに聞く。
「何? 階段で行きたいの? 最上階の三十一階まで?」
「いや、そりゃエレベーターの方が楽ですけど……。罠とかあったりしないですかね?」
「その時はその時よ。ほら、来たわよ」
「あっ、はい」
促され、一応、小銃を構え、中に敵がいないことを確認して乗り込む。
敵の本拠にたった二人で乗り込んでいるのに、泰然自若の彼女。光一としてはもっとシビアな状況を想定していただけに、いささか調子が狂う。
「……そうね、何かあるといけないから一つ下で降りとこっか」
藍は呟くと、三十階のボタンを押した。
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雪の降る街で 第一章 「鼓動」 ①|京
あとがき
新潟のランドマーク・アイビスタワーをバンカーバスターで爆撃することになったアホウドリカップル。
やはりトリはこの二人ですが、果たして大丈夫なのでしょうか?
一方の藍たちはそんなこととは梅雨知らず、仲木戸を仕留めにアイビスタワーに殴り込んでしまいました。
彼らは一体どうなってしまうのか? そして仲木戸は?
次回、11月30日(日)に掲載予定です。
残りもあと5回、最後までお付き合いいただけますと嬉しいです🙇♀️
