見出し画像

アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その弐】女はティーバックみたいなもの。熱湯につけられるまで、あなたがどんなに強いか知ることは無いのです。 ②

Season1をお読みでない方は、まずはこちらからお読みください ↓

【その弐】女はティーバックみたいなもの。熱湯につけられるまで、あなたがどんなに強いか知ることは無いのです。 米国大統領夫人 エレノア・ルーズベルト ②


「分かってないな、夕陽」
「え?」
「俺はいつだって、夕陽の喜ぶ顔が見たいんだ。夕陽と楽しく過ごしたい。笑顔の夕陽と、ずっと一緒にいたい。だから、夕陽に何か買ってあげるのは俺のためでもあるんだよ?」

 分かっている。これもまた、敏生の偽らざる本心だ。嬉しくないわけがない。

「それは……ありがとう。でもあれは高すぎだよ。エンゲージリングを買いに来たわけじゃないんだから」

 何気なく言ってしまって、しまった、と口を噤む。これじゃ、逆に意識してると思われてしまう。だが、彼は優しく微笑むと、
「そうだな……」
 と呟いて、夕陽の頭を撫でた。

「じゃあ、他に夕陽がドン引きしない程度のものを探すか」
「……うん」

 アラモアナの時と違い、あっさりと引き下がったところを見ると、やはり彼も結婚までは意識していなかったのだろう。

 ホッとするはずなのに、胸の奥に湧き上がった一抹の不安。結局、その日は、そのことばかりが引っ掛かって、彼のために笑顔を装うも、心の底から楽しむことは出来なかった。


「ふーん、そんなことがあったんですね」

 顎に手を当てて、ふむ、と考え込む美鈴を、縋るような思いで見つめる夕陽。美鈴はしばらく考えたのち、パッと顔を上げた。

「まあ、あたしは夕陽さんの勘違いだと思いますけど?」
「あたしの……勘違い?」
「はい」

 美鈴がしたり顔で頷く。

「だって、普通は、彼女連れて気軽にステファニーなんて入りませんよ。結婚を警戒しているなら、なおさらです」

 確かに美鈴の言う通りだ。

「大方、夕陽さんの指輪のサイズを確認したくて、あわよくば好みも探ろうとしたんじゃないですか?」
「そ、そうなのかな……」

 確かに、すごく積極的だった彼。

「聞いてみればいいんですよ、恋人同士なんですから。お兄ちゃんはそんな狭量な男じゃないって、夕陽さんが一番知ってるでしょ?」

 分かっている。分かってはいるのだが。

「でも、もし違ってたら……」
「そんときゃ、引っ叩いてやればいいんですよ」
「そんな……」

 まるで、女子会の時の敏生のような強気なアドバイス。坂本と上手くいったことで、自信を深めたのだろうか?

「ほんと、夕陽さんってパイロットの時はすごく凛々しくてかっこいいのに、恋愛になると中学生みたい。可愛過ぎます」

 ぎゅっと抱き着いてくる年下の親友。

「ちょ、ちょっと、美鈴ちゃん」

 美鈴は夕陽を見上げると、
「ダメですよ? 恋人だからって、油断しちゃ」
 と、諭すように言った。

「そういう些細なすれ違いが、やがて大きな亀裂になって取り返しのつかないところまで行っちゃうんです。コミュニケーションは超大事ですよ?」
「う、うん。ありがとう」

 これもまた、美鈴の言う通りだ。こと、彼との恋愛となると、肝心な時にはいつも臆病で逃げ回ってばかりの自分が嫌になる。でも、すれ違いの末に、彼に嫌われてしまうのはもっと嫌だ。

 今は航海中なのでどうしようもないが、陸に戻ったら、今度こそ彼の気持ちを確かめてみよう、と、夕陽は美鈴のアドバイスを心に刻んだ。

           *

 小笠原諸島沖、北緯26度52分、東経138度45分の海上を遊弋する艦影は、海上自衛隊が誇る「最強の盾」イージス艦、DDG178「あしがら」。

 ギリシャ神話の最高神・ゼウスが娘のアテナに与えたという、あらゆる邪悪を払う盾、それがイージス。
 その名を冠された「イージス艦」は、450キロ以上離れた、数百以上の標的を同時に追尾できるフェーズドアレイレーダーを艦橋上部の四方に配し、脅威の度合いを瞬時に分析・判定できる高度な索敵・情報処理能力と、複数の目標と同時交戦できる驚異的な射撃指揮能力を備えた、現代に於ける最強の戦闘艦だ。

 現在、海上自衛隊はこのイージス艦を8隻保有しており、「あしがら」は初代「こんごう」型4隻の次級となる「あたご」型の2番艦。基準排水量は7,750トンで、諸外国では巡洋艦クルーザーに位置づけられる巨艦。

 兵装は主砲の127ミリ単装砲一基、近接防御システムCIWSシウス高性能20ミリ機関砲が二基、90式艦対艦ミサイル4連装発射筒二基、3連装短魚雷発射管二基。そして、イージスシステムの能力を最大限に引き出す、MK41垂直発射システムが、艦橋の前後に合計で96セル配置されている。

 この96セルには、艦対空ミサイル、対潜水艦ミサイル、そして、弾道弾迎撃ミサイルが、その時々の任務に応じた割合で収められており、まさに日本の盾と呼ぶに相応しい戦闘力を与えられていた。

「艦長がCICに入られた。状況開始まで総員、そのまま持ち場にて待機」

「あしがら」艦長の阿南章大あなみあきひろ一等海佐は、乗組員たちに答礼をしながらCICの中央に進むと、艦長席には座らず、傍らで船務長の槙村和馬まきむらかずま一等海尉が凝視するモニターを一緒に覗き込んだ。

 CICとは戦闘指揮所のことで、Combat Information Centerの略称。自艦のレーダーやソナー、通信から収集した情報だけでなく、C4I(Command、Control、Communication、Computer、Intelligence system)情報処理システムを介して得られた、味方艦艇や航空機からの膨大なデーター情報を基に、諸戦闘の指揮を行う、護衛艦の中枢。高度な機密情報も取り扱うため、資格の無い乗組員は立ち入ることは出来ない。

 まして、「あしがら」は弾道ミサイル防衛能力を付与されたイージス艦であり、そのCICは米海軍とも連携されているため、海上自衛隊の中でも最高機密区画だ。

「さて、リムパックで米艦隊を葬り去った旗艦ながと殿の航空隊のお手並み拝見といこうか」
「……彼らには何ひとつさせやしませんよ」

 槙村が阿南を振り返ることもなく答える。

「ほう。さすが、防大首席卒、海自随一の頭脳と言われる男は言うことが違うな」

 阿南は頼もしげに、彼の肩にポンと手を乗せた。

「首席は俺じゃなかったんですがね。女性問題で減点食らったアホの次席がいたんで」
「ああ、例の〝プリンス〟か」
「はい」

 ククッと愉快そうに大きな肩を揺らす艦長。豪快な性格で鳴らすだけに、古今東西の武勇伝も大好きでたまらない。

「あの高潔な統幕長殿と、海自きっての女傑の息子が、あんな破天荒な奴だとは想像もつかんな。一度会ってみたい」
「いやでも会えますよ、今から」
「お前が撃ち落とすんじゃないのか?」
「ああ、そうでしたね」

 モニターを凝視しながら笑う。

「報告書を読みましたが、無謀なようでいて、ものすごい観察力と緻密さで追い詰めて行ったことが分かります。状況的には米艦隊の弾切れなど、幸運が重なったようですが、普通の奴ならそんなチャンスにすら気づけずに、体勢を立て直されていたでしょうね」

 イージス艦のSpy1フェーズドアレイレーダーは数百キロメートル以上先の目標を探知出来る。だが、それは高空から飛来するミサイルや敵機に対しての能力。

 地球は丸いので、敵が低空で侵入してくると水平線の外側に死角が生まれる。イージス艦のフェーズドアレイレーダーはこの死角を出来るだけ狭めるため、艦橋の上層部に配されているが、それでも十数キロ先の低空に死角が生まれる。ミサイルや戦闘機にとっては一瞬の距離。

 この弱点を補うため、現代の戦闘艦には哨戒ヘリコプターが搭載されているのだが、敏生と刑部はステルス機の特性を生かして、米艦隊の外輪に僅かな隙を見つけ、そこから中心の空母に向かって一隻ずつ沈めていったのだ。最終防御システムであるCIWSの弾薬切れ・装填中の状況まで見極めて。

リンク

次の話 アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その弐】女はティーバックみたいなもの。熱湯につけられるまで、あなたがどんなに強いか知ることは無いのです。 ③|京

前の話
 アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その弐】女はティーバックみたいなもの。熱湯につけられるまで、あなたがどんなに強いか知ることは無いのです。 ①|京

最初から読む
アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その壱】愛は行動よ。私たちは愛する力を持って生れて来た。それでも、筋肉のように鍛えなくちゃいけないの。 ①|京