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アホウドリの空_Season2〜自衛隊ラブストーリー〜【その弐】女はティーバックみたいなもの。熱湯につけられるまで、あなたがどんなに強いか知ることは無いのです。 ①

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【その弐】女はティーバックみたいなもの。熱湯につけられるまで、あなたがどんなに強いか知ることは無いのです。 米国大統領夫人 エレノア・ルーズベルト ①


 「ながと」が入渠から戻り、久しぶりの航海任務。

 今回は横須賀から小笠原諸島を回遊し、その後、数隻の艦艇と合流して与那国島を回り、さらに米艦艇とも合流した後は、台湾海峡と尖閣諸島を突っ切るルート。その後、佐世保に寄港してから横須賀に戻る、二カ月弱ほどの航海だ。

 何かときな臭い紛争地への示威行動が含まれていることもあり、艦内にはどことなく張り詰めた雰囲気が漂っていたのだが。

「で……、美鈴ちゃんは、どうなったの?」

 女性居住区での非番のおしゃべりタイム。坂本との、その後の状況を恐る恐る尋ねる。

「実は……」

 美鈴が暗い顔になり、俯く。ダメだったのか、と思い、応援していた身としては、じわりと涙が滲みそうになる。と、

「いぇーい!」
 顔を上げて満面の笑顔でVサインをしてみせる彼女。

「え? え? えー!? もしかして」
「おかげさまで上手くいきました!」
「きゃーっ、やったー!」

 手を取り合って、ぴょんぴょんと飛び跳ねる二人。非番とはいえ、緊張感の無いことこの上ない。ひとしきり喜び合ったあと、美鈴が少し切なげに俯く。

「でも、ここからなんですよね……。航クン、全く女性に免疫無いみたいで、手を繋ぐことすらひと苦労というか……」

 坂本よりも階級も年齢も下なのに、既にクン呼び。その関係性は推して知るべしだ。その後、ほぼ惚気のろけでは? としか思えないような彼女の悩みごとをひとしきり聞く。親友の彼女の幸せ報告が自分のことのように嬉しい。

「まあ、でも上手く行って良かったわ。佐那ちゃんも彼氏さんと上手く行ったみたいだし」
「辞めちゃうのは残念ですけど、寿退職なので、帰港したら盛大にお祝いですねー」

 佐那の彼氏は何と、敏生の予想通り、ニューヨーク支店への駐在を会社から打診されていて、彼としては行きたいものの、管制官として輝いている彼女に、着いてきてほしいと言うべきかどうか、振られたらどうしよう、と思い悩んでいたようだ。そんな彼の想いを知り、すっぱりと彼との将来を選んだ佐那。苦渋の決断だったのかと思いきや、

〝アメリカでの駐妻生活、実は昔から憧れだったんです! 得意の英語にも磨きをかけられるし、帰ってきたら、夢だった子供向けの英会話教室を開こうかと思うんです!〟

 と、すごく嬉しそうに話をしてくれた彼女。退職と出国を数カ月後に控え、今回の航海には参加せず、基地管制のサポートで厚木に居残ることになったのだった。

「で、夕陽さんの方はどうなんですか? お兄ちゃんとは順調そうに見えますけど」
「あ、うん。でも」

 相談ごとが出来ていたのでちょうど良かった。

「何かありました?」
「それがね、出航前の週末の話なんだけど……」

 敏生、どうしたんだろ。

 今日は長期航海前の完全オフ。久しぶりに都心デートしよう、とのことになり、一緒に彼の部屋を出たのだが、銀行に行くから先に駅で待ってて、と言われたので、駅前の本屋で時間潰し。

 そういえば最近、本読んでないな、と考えながらあてもなく店内を見て回る。

 あ、ノンノン最新号。

 愛読の雑誌の発売日だったことを思い出す。荷物になるから、帰りに買おうかな、と一旦出した手を引っ込めようとして、横に並んでいる雑誌が目に入った。

「ウェディング特集……」

 あの日以来、意識しないように努めていたものの、佐那のこともあり、やはりふとしたことで目に飛び込んできてしまうワード。躊躇いながらも、つい手に取ってしまい、パラパラとめくってみる。 
 華やかなドレスに身を包んだモデルや、おすすめの式場レポートがこれでもか、というくらいに訴えかけてくる。

「結婚、か……」

 いつか自分も、彼に結婚を切り出してもらえる日が来るのだろうか?

〝結婚を言い出した途端に逃げ出す男は多い、って言いますもんねー〟

 そんな会話を繰り広げていたことを思い出し、いけないと思い直す。もちろん、敏生はそのような男ではないが、深追いは禁物だ。

 夕陽はため息をつくと、雑誌を閉じ、棚に戻した。

「よ、お待たせ」
 ポンと肩に手が乗り、ビクッとする。

「あ、と、敏生。早かったね」
 何を読んでいたか、見られてしまっただろうか?

「ああ、ちょい確認だけだったから。さ、行こうぜ」

 訝しむ様子もない彼に、夕陽はホッとすると、

「うん!」
 と返事をして、いつものように腕を絡めた。

 やって来たのは六本木ヒルトップ。厚木への赴任以来、夕陽が来たくて仕方なかった場所。既に二年が経過していたが。

「だって敏生が一人で来ちゃダメって言うんだもん」
「そりゃそうだろ。夕陽みたいな可愛い子が一人で歩いてたら、変なのが沢山寄ってくる危険な街だからな」
「すっごい偏見」
「あはは。さて、どこ見ようか?」
「んー、時間もあるし、片っ端から!」
「了解。お、いきなりステファニーがあるじゃん」
「ほんとだ。でもステファニーはいいよ。だってこのペンダントがあるし」

 ハワイで彼に買ってもらった首元のペンダントに手を添える。あの時、切れてしまったチェーンは問題なく修理済みだった。

「まあまあ、女の子なんだから、ジュエリーは幾つ持ってても良いんだよ」
「あっ」

 手を引かれて店内に入る。このタイミングでのジュエリーショップは、いやでも結婚を意識してしまうので避けたかったのだが。

「何かお探しでしょうか?」

 お店に入るなり、女性の店員が近寄ってくる。

「ああ、半分冷やかしですけど、何かいいものがあればな、と思って。いいですか?」
「もちろんでございます」

 仕方ない。もともと、ジュエリーショップを覗くこと自体は大好きなので、目の保養だと思って、割り切ることにする。彼について、ゆっくりと歩きながら、陳列されているネックレスやブレスレッドを眺めていると、彼が立ち止まった。

「おっ? これなんか可愛くないか?」

 促されて、ショーケースの中を覗き込み、戸惑う。彼が指差したのは、煌びやかに輝くリング。彼は一体、どういうつもりなのだろうか? とはいえ。

「ほんとだ、可愛い……」

 確かに可愛い。いや、心臓を撃ち抜かれたと言うべきか。夕陽の好みを誰よりも熟知している彼。思わず見惚れてしまう。

「すみません、これ着けてみてもいいですか?」

 敏生が夕陽の手を取りながら店員に尋ねる。

「もちろんでございます。サイズをお測りしますね」
「え? あ……」

 女性店員が夕陽の左手を取り、薬指のサイズを測ってくれる。

「ではこちらのサイズになりますね。どうぞ」

 店員に促され、おっかなびっくり、薬指に嵌めてみる。

「すごく綺麗……」
「すごい似合うじゃん。超可愛い」
「本当によくお似合いです」

 ぼーっと見入ってしまう。

「気に入った?」
「うん。すごく綺麗で可愛いわ」

 うっとりするも、ふと、我に返り、値札を確認する。

 いち、じゅう、ひゃく、せん、まん、じゅうまん、ひゃ……、え、え、ええー!?

「あ、ありがとうございます。とても良い、目の保養になりました」
 夕陽は指輪を外すと、そっとトレーに戻した。

「また来ますね」
 努めて冷静に、にっこり微笑んで頭を下げると、彼の手を取ってお店を出る。

「なんだ、気に入らなかったの?」
「気に入ったわ、すごく。でも……」

 振り返り、キッと睨みつける。

「値札見なかったの!? いくらなんでも高すぎるって!」
「んー、俺、知っての通り普段、あんまりお金使わないから貯まる一方だし、夕陽が気に入ったのなら、買ってあげたいんだけど」
「あたしはその気持ちだけで嬉しいの!」

 だめだ。こんなことされたら、どうしようもなく勘違いしてしまう。

「それに……、敏生のお金はもっと自分のために使って欲しい。だって敏生が毎日、どれだけ大変な思いをして、身を削って得たお金かを知ってるから」

 これは夕陽の、紛れもない本心。一方の敏生は頭を軽く掻くと、ふっと息をついた。



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