オリジナル漫画「scope」原作-36
【飛山篇】VS臓器売買組織(黄)第6話
怪我人 「 ぜぇ ぜぇ ぜぇ。スイマセンー!! ち、父が事故に遭ってしまいまして… < ビー! ビー! ビー! > 」
ナース 「 < ガチャ > …あらっ どうされました!急患ですか?? えっ 交通事故!? こんな時間に大変だわ! 」
まるで大事故にあったかのような、全身血だらけの怪我人を背負った男と、その付き添いが、慌てた様子で救急病棟へと入って行く。 病棟に入った途端、変装していた衣装を勢い良く投げ捨てる3名。< バサッ > 怪我人役の寺野と、付き添い役の条、そして飛山だ。
飛山 「 バタバタと急に悪かったな。 で、準備は万全だな? 舞。 」
舞 「 えぇ、全く問題無いわ。それにしてもその怪我人役のヒト、ヤバくね? …瀕死の河童でも拾って来たのかと思っちゃったよ。 ププッ 」
急患を迎え入れたナースは、今回の協力者である、飛山の妹 「舞<マイ>」であった。 容姿端麗の兄、翔<ショウ>に負けないぐらいの美貌の持ち主である。さらには、飛山不在時に、代わりに“ケツアゴデス”会議に参加出来る程、IQも抜群に高い。 巷では、選ばれし稀有な存在という意味で、少数派の「ショウ」、マイノリティの「マイ」と称されている。
寺野 「 これはこれは、初めまして、寺野です。 飛山さんの妹さんですね? いきなり褒められても困ってしまいますよ… 兄妹揃って全く。 」
条 「 …全然褒めてねぇから。 まぁ、切り干し大根界なら、レジェンド級の容姿だがな。 おっ 妹さんか? 迷惑かけてスマンが、宜しくな。 」
舞 「 アハハ、どもども。 お兄ちゃんって一人でいる事が多かったから、誰かと行動するのが意外だけど、それとは違う意味で意外なメンバーね… 」
飛山 「 …んまぁ 色々あってな。 たまたま行動を共にしているだけで、決して友達じゃないから安心しろ。」
舞 「 へぇ~ そうなんだ? 何かお揃いのパーカーとか着ちゃって、仲良さそうに見えるけどねぇ。 」
飛山 「 It's just your imagination. 」

条 「 くだらねぇ話はそこまでだ。 んで、具体的にどうするつもりだ? 」
舞 「 簡単に説明するから、ナースステーションまで移動しましょ。お兄ちゃんから作戦の共有もあるんでしょ? …って単独プランか。 」
ナースステーション目指し、深夜の緊急病棟の廊下を進む一行。 時間外と言う事もあり、非常に薄暗い廊下は今にも幽霊が出そうな不気味な雰囲気である。本来大規模な総合病院には複数のスタッフが常駐しているのだが、舞が前もって準備していたおかげで、病院側の人間は誰一人見当たらない。うっすらと車いすに乗った少年が微笑みながら近づいて来たようにも見えたが、きっと気のせいだ。 一時の猛ダッシュを経て、目的のナースステーションへと辿り着いた。
飛山 「 どうやら、抜群の効き目のようだな。 闇サイトから仕入れた裏匠の調合。 飲み物にでも混ぜたのか? 」
舞 「 えぇ。 麻酔と睡眠薬をベースに、無臭サイシンをちょい足し… “麻眠薬”ってヤツ。 一度眠っちゃうと、痛覚も無いから全然起きないよ。」
条 「 …お前らの方が闇の人間に見えて来たな。。 オレも寝つきが悪い方でね、悪夢を見ないで済むってんなら、処方してもらいたいもんだ。」
舞 「 悪夢ねぇ… ある程度、夢ってコントロール出来るんだけど、まだ解明できてない要素が多いの。 万人が理想の夢を見られる、眠るのがエンターテイメント化する世の中になるには、もう少し先になるかな。 まぁ そのころには、人間が寝なくても良い身体になってそうだけどね。 」
条 「 そうかぁ 悪夢ってのは、意外と厄介だな。 それにしても、眠らなくて良いってのは楽でいいけど、ロボ化するのだけは勘弁だな、味気ねぇ。 」
飛山 「 さて、あんたらに共有しても仕方ない気もするけど… 一応作戦を共有しようか? 」
寺野 「 是非宜しくお願いします。私が活躍するCパターンでお願いしますね!」
メチャクチャ言ってそうでCパターンを想定する、健気な寺野。
飛山 「 …元々1人でやろうと思ってた計画だから、複数パターンなんて無いよ。作戦は… シンプルに1対1の状況を強制的に作るってだけさ。 」
条 「 ほぅ、随分と腕に自信がおありな作戦だな。 いくら“ケツアゴデス”メンバーで闇に精通しているとは言え、リアルでは対峙した事ねぇんだろ? 」
飛山 「 対峙した事は無いけど、退治は簡単さ。どんなに屈強な大男でも、雷が直撃したら一巻の終わりだろ?それに新兵器も仕込んであるし。」
条 「 チッ 闇の人間も、随分と舐められたもんだな。こちとら毎回必死だってのによ。 何を仕込んでるか知らんが、そんなに上手く行くもんかね? 」
舞 「 反射角度に微妙に誤差が生じるだろうから、完ぺきとまでは行かないと思うけど、ひとたまりも無いには変わらないんじゃないかな。 」
寺野 「 …何だか、舞さんもスゴイ人なんですね。 切開マニアのビッチでサイコなナースかと思ってましたよ。 」
舞 「 何それ?? …かなりトゲあるよね、寺野さんて。 確かに、切開はそこら辺のドクターよりも上手いけども。 ビッチでもサイコでも無いわ! 」
飛山 「 ……さっきの続きだけど、地下フロアの簡単な見取り図は、これね。 闇組織への入り口は2つ。 ここと、ここ。 」
ナースステーションに置かれたLEDボードに、フロアマップを表示させる飛山。「 Y総合病院 」の地下2階、最奥に配置されている霊安室。この霊安室にある隠し扉が、地下の闇の組織へと繋がっている。それが極悪人だろうが悪魔だろうが、費用を支払う人間に対しては処置を施す主義の 「 Y総合病院 」。臓器移植に関しても同様の考えで、どんなルートだろうが受ける人間が誰だろうが、費用面さえ担保されれば問題無い。そんな裏の顔を持つ病院であった。
このような病院は、臓器売買系闇組織(黄)にとっても恰好の取引先である。いつしか黒く強固な癒着により、病院地下に組織が共存するようになった。無論、病院の大半の人間は何も知らない良識人だが、極一部の上層部に関しは、限りなく黒に近い闇の人間と言っていいだろう。
飛山 「 …それと、もう一つの入口は、裏の搬入口だ。 日中はロックが掛かっているが、深夜に限り、直接の搬出入が可能になっている。」
条 「 なるほど、んじゃオレは裏の搬入口から行くぜ。 お前らはどうする? 二手に分かれた方が良いと思うが。 」
飛山 「 オレは予定通り、霊安室ルートから行くよ。 臓器売買系闇組織(黄)の代表と、サシで話がしたいからね。 」
条 「 そうか、んじゃ寺野のおっさんも霊安室ルートから行ってくれ。どうせ構成員とか、わんさかいるんだろ? サポートしてやってくれ。 」
寺野 「 …わ、分かりました。 条は1人で大丈夫ですか? 」
条 「 あぁ、むしろ1人の方がイイぜ。 遠慮なく試せそうだからな、ニヤっ 」
舞 「 あたしは、オペレーターとして、ナースステーションで皆のサポートに徹するね。トラップも色々発動しちゃおっかなぁ。 」
飛山 「 OK、諸々承知した。では、行くぞ。 (…怒りの感情が沸き上がって来る準備をしてるようだ… 後は冷静を保てるかだな。) 」
条 「 あいつが代表とやり合うってんなら、オレは用心棒ってとこかな? …望むところだぜ!! おっさん、くたばるなよ! 」 < タッタタタタ >
寺野 「 えぇ、大丈夫です! 私にも目的がありますから、絶対にくたばりません!<キメ顔の寺野> …あっ 待ってくださいよー 飛山さーーん 」

< カツ コツ カツ コツ >
霊安室へと向かう、飛山と寺野。 年齢も容姿もかけ離れた存在で、彼らがもし同年代のクラスメイトだったとしたら、絶対に友達にならない関係性であったに違いない。 自ら距離を取る飛山と、他人から距離を取られる寺野。対人への距離感も、同じ距離が開いてはいるが、その質は対局化している。真逆にいる存在だからこそ、互いにストレスさえも交わる事が無いのかもしれない。
寺野 「 随分と不気味ですねぇ、深夜の病院って。 しかも霊安室って遺体を安置する部屋ですよね…? 」
飛山 「 あぁ、アトラクションのような派手な演出が無いってのが、逆に不気味だよ。再現不能な雰囲気、それだけ人の命には重みがあるんだろう。 」
寺野 「 ………………… 。わ、私常識が無いもので、その“重み”というのが何㎏ぐらいなのか、全く想像が付かないんです… 」
飛山 「 …オレも似たような疑問あるよ。 人のぬくもりとか情熱って、何℃が適温なんだろうなぁ とかね。 」
寺野 「 そうなんですか?飛山さんも常識無いんですね、安心しましたよ。 次に疑問に思ったら、その場で体温計を脇に突っ込みましょうよ!ね? 」
飛山 「 そうだな、そりゃいい考えだ。 ハッハハ( さらっと常識無い呼ばわりされたな。)…さてさて、到着したぞ。 」
ただでさえ暗く不気味なのに、さらに二段階ほど、暗く重い空気を纏った霊安室が、目の前に現れた。 室外にも線香の臭いが漏れている。 軽くアイコンタクトを交わし、飛山がゆっくりとドアを開いた。 < ガッチャッ > ひっそりと置かれたベッドに、遺体らしき人影が音も無く横たわっている。 手を合わせ合掌する2人。< ピピッ > 舞から通信が入る。
舞 「 そのまま右奥の突き当りまで行って。 隠し扉を開けるわよ。」
オペレーターとしてナースステーションから指示を出す舞。ヘッドセットをしている。

飛山 「 了解だ。 開閉時は、無音で頼むぞ。 」
< ズズズズッ > 壁面の一部が内側に開く。 その先にはストックルームのような部屋が存在しており、医薬品のカートンや医療機器が雑多に置いてある。この部屋は言わばダミールームで、万が一何かあった時のために作られた、二重扉の役割りを果たす。 この部屋にある棚を開けると再度隠し扉があり、その先に さらに地下へと繋がる長い階段が現れた。 自身の意思で一度踏み入ったら最後、決して戻る事の出来ない闇の階段だ。
寺野 「 地下牢獄? 映画みたいな仕掛けですね。 まさか、この先に闇企業があるなんて… 一つ目のバケモノとか幽閉してないでしょうね…? 」
飛山 「 堂々と日常生活を送る事が出来ない、コソコソと陰に隠れるのが趣味のような連中だ。 まだバケモノの方が可愛げがあるよ。 」
寺野 「 へぇ 私はバケモノの方がイヤですけどね、臭そうだし。 …いやっ …やはり、闇の住人も同じぐらい大嫌いです!」
飛山 「 人体を無下に扱った上に、金儲けまで平然とやってのける。…反吐が出そうだ。許すかよ、絶対に。 」
あまり感情を表に出さない飛山が、怒りのボルテージをマイナス方向に目いっぱい振り切った、至極冷酷な表情をしている。 伏目にて俯く その冷たい視線は、眺めた床をも無差別に切り裂く、カマイタチのように鋭い。 直感的に恐怖を感じた寺野が少し怯えている。
寺野 「 と、飛山さん… 大丈夫ですか? ちょっと怖いですよ。 」 < ぶるるるっ >
飛山 「 オレは冷静だよ。 あんたの方こそ、その震えてるのって武者震いなんだろ? 分かるよ、いざ仇を目の前にした時の感情ぐらいさ。 行くぞ。 」
地下へと続く長い階段を、ゆっくりと降って行く2人。 一段降る毎に覚悟が増して行く。 扉の前で軽く深呼吸をし、いざ禁断の扉を開く。 < ギギーッ バタン >ドアを開けると、談話室のような広い部屋に、豪華なソファが数台並んでいる。 深夜という事もあり、見張り役の構成員が数人いるだけで、閑散としていた。構成員らは、酒を片手に賭博に興じ、もれなく酔っぱらっている状況だ。 負けが越して機嫌が悪い構成員が、急に入って来た見知らぬ顔に詰め寄る。
構成員1 「 あ? 誰だ、お前ら? おいおいおい、どうやって入ったか知らんが、部外者は立ち入り禁止だぞ。 “間違えました”じゃ済まないと思え。 」
構成員2 「 なんだ?その目つきは。 …生意気だな、お前。 ここがどういう所か分かってねぇようだな? おいっ! この負けはお前のせいだ!! 」
機嫌の悪い構成員が、力任せに飛山の胸ぐらに掴み掛かった。 …と同時に、合気道の要領でグルンっと高速回転して地面に叩き付けられる構成員。
< ドガッ!! >
あまりの速さで、自分が何をされているか全く理解をする間もなく、心身が強制的にシャットダウンした。 床に後頭部を強打されたため、口から泡を吹いたまま全身がヒクヒクと痙攣している。 何も無かったかのように、もう1人の構成員を冷たく睨みつける、飛山。
飛山 「 近づき過ぎだ、ガーベッジが。 」
寺野 「 ひぇぇえ 今、何しました?? …飛山さんって重力の能力者か何かなんですか? それにしても、お強いんですねぇ。 」
構成員1 「 何だとぉ!? き、貴様!! やってくれたなぁ!! 覚悟せいや! 」
< ドダダダダダ >
ウィスキーボトルを持って殴り掛かって来る。
< ヒョイッ > 殴り掛かって来たボトルを華麗な体さばきでかわすと、不運にも後ろにいた寺野の首あたりに思いっきりヒットした。
< ベチンッ!! > 殴られた勢いでガクンと跪く寺野。 倒れはしないが、俯いたまま、しばし動かない。
構成員1 「 あ? 何なんだよ、テメェ… 分厚いゴムの塊みてぇな感触じゃねぇか… 」
< ビリビリビリ > 殴った方の手が痺れている模様。
寺野 「 急に避けないでくださいよ、飛山さん。 …それで、どうしました?」
ムクっと起き上がる寺野。負けじと何事も無かったかのようなリアクションだ。
飛山 「 え? まともに入ったように見えたけど?( …始めて会った時から、只者では無い感じがしたけど、これは ) 」
構成員1 「 テメェは後回しだ… まずはそっちのクソガキッ < グルンっ > 」
勢い良く殴って来る力を利用して、カウンターによって倍増させ、激しく床へと叩き付ける、飛山。 < ドガッ!! > 先程の構成員同様、既に意識が無い。
構成員3 「 …おいおい、しゃれになってねぇぞ。 」
バーカウンターテーブルの裏にあるエマージェンシーボタンを押した。
深夜にも関わらず、奥の扉からぞろぞろと出て来る構成員たち。たちまち約20数人の構成員たちに周りを取り囲まれてしまう。完全に多勢に無勢だが、この場は2人で何とか立ち向かう以外に無い。
飛山 「 全員相手しても良いけど、時間の無駄だな。 2分半だけ相手して、終わらせよう。時間が来たら、これ使いなよ。 」
寺野 「 あまり良く分かりませんが… わ、分かりました。え? 私まだ誕生日じゃないですけど、もらっちゃって良いんですかね? 」
飛山 「 こんなアンハッピーなサプライズなんて無いでしょ… 先に進みたかったら受け取る事だね。ホラッ ぼさっとしてるとヤラれるよー 」
次々と襲い掛かって来る構成員たち。特殊拳銃を使う暇も無く、防戦一方の寺野。 格闘に関しては完全に素人だが、古の鬼の棍棒をリメイクして造られた、木魚のような その打たれ強さは一級品である。 無論、防戦をメインとした耐久戦に限っては、打って付けの逸材である。 あらゆる打撃を、華麗にかわしては反撃を繰り返す飛山と、全打撃を受けた上で全てを吸収・帳消しにしてしまう寺野。対戦相手にとっては非常に厄介な存在で、打つ手が見当たらない。そうこうしているうちに、間もなく予定の2分半が経過する。
飛山 「 20、21、22… ぼちぼちだな。 」
懐から出した歌舞伎に出て来るような、般若のお面を被った。
寺野 「 え? 時間って事ですかね。では私も。 」
先程飛山から手渡されたお面を被った。茶色い紙袋に目の部分をくり抜いたようなお面だ。
舞 「 …ほいっ 調合完了! じゃ流すよー 」
< フシュシュシュー >
談話室の天井に細工された、スプリンクラーのような噴霧装置から、特殊なガスが一斉にまき散らされた。 エメラルドグリーン色のガスからは、舞の好物であるシャインマスカットの香りがほんのりと漂う。ガスを吸った構成員たちは、たちまちにバタバタと倒れて行き、起き上がる事が出来ない。
舞 「 ったくさー こんなアホみたいな調合を2分半以内でやれって無茶な話よ、本当に。普通なら余裕で30分は掛かるし。 」
飛山 「 まぁ まぁ 実験サンプルが出来て良かっただろ? いくら何でもシンプルに毒ガスとかじゃ味気ないし、マンガみたいになっちゃうからね。 」
舞 「 この世から重心を無くす調合? 要は神経ガスの類なんでしょ?これ。 自分が今、上下左右どの位置にいるかが分からなくなる幻覚。 」
寺野 「 こ、怖いですねぇ… ベロベロに泥酔した4軒目の部長さんみたいになってしまうって事ですもんね。 」
飛山 「 川で激流に巻き込まれてパニックになったみたいな感じかな。上に行こう行こうと思ってどんどん川底に潜って行ってしまう感覚。これでトラッシュは当分身動きが取れないだろう。意識はあるけど立つ事すら出来ない状態。 これで十分、無駄な殺生は不要だから。」
舞 「 こっから先は二手に分かれる感じ? お兄ちゃんはBOSSと一騎打ちだよね? 寺野さんは… “赤雨部屋”で、変質者退治かな。 」
寺野 「 なんです? 赤穂浪士がなんとかって。 」
飛山 「 OK では先に行くよ。 変態 VS 変質者 …視聴率取れないだろうけど、ガンバッテ 」
< スタタッ シュッ >
臓器売買系闇組織(黄)のアジトがある この地下室には、「赤雨部屋<アコウベヤ>」と呼ばれる“解体場”が存在する。 組織には、商品である臓器のみが持ち込まれるケースと、人間がそのまま持ち込まれるケースがあるが、人間が持ち込まれるケースは、死体の場合と生体の場合とがある。この赤雨部屋は持ち込まれた人間から臓器を摘出する、言わば手術室である。
まるでアンコウの吊るし切りかのように、見るも無惨に臓器を取り除かれる人間たち。その多くは人身売買目的でさらわれた子供か、闇相手にやらかした人間たちの末路だ。 ここを管理する処刑人「 ギャクザン 」 は、完全に精神がイカレており、生きたままの人間を処刑する事にしか興味が無い。
ギャクザンのむき出しになったギョロ目は異様な光景で、一度見ると頭から離れる事は無い。
また、隣室には取り除いた臓器を長期保存できる「絶・冷凍カプセル室」がある。組織の通常の用途は、臓器を高額で売買するために新鮮なまま冷凍保存しているのだが、この冷凍室内にあると噂される「特別保管室」に関しては、別の用途としても使用されており、世界で屈指のセレブや国の重要人物が極秘に冷凍保存されているという都市伝説も存在する。ある権利者の陰謀なのか、はたまた金持ちの道楽なのか、冷凍保存された過去の遺産が、来る日の再生を待っているのだろうか!? その真相はまた別の闇である。
寺野 「 あれっ? 飛山さん!? …すぐ居なくなっちゃって、発情期のキツツキ並みにせっかちですねぇ。…えぇと、この先の部屋かな? 」
談話室を出て右側の通路を進んで行くと、地下室の雰囲気とはまた異質の、禍々しく重たい空気が眼球に纏わりつくかのように流れて来る。 しばらく進むと、突き当りの部屋に手術室を想起させる、「解体中」という赤い電光パネルが掲げてある。現在は明りが消えているが、“処刑時”に点灯するのであろうか?
さまざまな声色の断末魔が、耳元で鳴り響いては消える…かのような幻聴に襲われる。恐怖と興奮とが入り混じった表情で、恐る恐るドアを開ける寺野。
寺野 「 ご、ごめんくださいー。 ゾンビアトラクションみたいな雰囲気ですねぇ。 ただ、あちらの腐敗臭とは全く質が違う異臭が充満してますが… 」
ドアを開けた正面に、椅子に座ったまま だら~んと首を後ろに持たれた 1人の男が眠っていた。着用している白衣は、度重なる返り血によって一切の純白さが消滅しており、錆びた銅にタールをぶっかけたような、ドス黒い… いやっ 下衆グロい色をしている。 良く見ると、切れ味悪そうな大型のノコギリを背負っている。
寺野 「 あのぉ すみませーん、ちょっと起きていただけます? …えぇと、“赤雨部屋”というところに行きたいのですが。 」
男 「 < ギシ ギシ > んあ? 夜中になんだってんだ? …緊急解体ならウェルカムだぜ!! ベヘヘヘェ! 」
< ガバッ! >
ギョロ目をカッ!っと開けると同時に、椅子の反動を使って寺野に飛び掛かる不気味な男。ここを管理する処刑人“ギャクザン”だ。 両手には手術で使用するメスのような刃物を持っている。 寺野の目に向けて突き立てられたメス。 とっさにギャクザンの手首を掴み、もみ合いながら床を転げる2人。< ゴロゴロゴロォ >
寺野 「 何ですか!いきなり! …え? ヒィィイイ 」
異様に飛び出た、ギャクザンのギョロ目を見て恐怖する寺野。 下になった寺野の目にギャクザンのギョロ目がくっつきそうな、モストデンジャラスな距離感である。ギャクザンの両手首を抑えたまま、必死に抵抗する寺野。 バタバタさせた足が偶然にヒットし、軽く後方に突き飛ばされるギャクザン。 決死の表情で向き合う。
ギャクザン 「 べへへへェ!じゅるじゅる お前ぇ、誰だ?? “生”解体なら24h受け付けてるがぁ、バラされる気がねぇなら帰れ!」
目の焦点が合ってない。
寺野 「 …さすが闇の住人。 …これが絵に描いたような変質者ってヤツですね? それにしても、こんなところで何しているのですか?」
ギャクザン 「 …ぶわはっ!! 」
口の周りいっぱいに汚垂れている、ヨダレをまき散らしながら、飛び掛かって来る。
寺野 「 ヒィャ! 」
とっさに頭を抱えてしゃがみ込み、襲い掛かって来るギャクザンをかわす寺野。 しばし丸くなって屈んでいると、ギャクザンが追い打ちを掛けて来た。
< ボゴッ ボゴッ ボゴッ >
海辺の亀をイジメる悪ガキのように、何度も寺野を踏みつけては脇腹を蹴り上げる、ギャクザン。 フィニッシュとばかりに振り抜いた止めの蹴りが強烈な破壊力だったため、思いっきり壁に叩き付けられる寺野。
< ドゴーン!>
丸まったまま、アンモナイトの化石のように壁にめり込んでいる。
ギャクザン 「 さぁて、解体ショーでも始めるかー こんな年季の入った臓器なんか売れねぇが …サバきは止めらんねぇなぁ。 まずは血抜きと行くかぁあ! 」
寺野の頸動脈に向けて、メスを突き立てるギャクザン。 自慢の打たれ強さで、食らった蹴り攻撃はほぼノーダメージであった寺野は、反射的にメスを避けた。
…が、しかし、完全に避け切る事は出来ず、肩口にメスが突き刺さってしまう。 < ザクッ >
( つづく )
