【Log.1-04】因習村の生贄に選ばれたのだが〜相手が変人先輩(男)な件〜
📕〈 怪奇同好会へようこそ 〉📗
~変人先輩と巻き込まれ俺の、受難な日々~
BLコメディ×オカルト / 6話完結
怨念の正体は、引き裂かれた純愛だった。憑依が解ける時、俺たちは本当の「愛」を知る――涙と疾走の解決編。
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第4章:百年の嘘と真実
「いいか、これより『オペレーション・古都の夜』を開始する。目標は本殿裏にある土蔵(どぞう)。敵勢力は、我が父・厳格(げんかく)神主だ」
「作戦名がダサい上になんか腹立ちますね……」
時刻は深夜二時。 真白先輩の実家である神社の境内は、静まり返っていた。 砂利を踏む音がやけに大きく響く。俺たちは足音を忍ばせ、影のように移動していた。
「先輩、鍵はどうしたんですか? あの蔵、簡単には開かないんじゃ……」 「フッ、抜かりはない。父が風呂に入っている隙に、脱衣所の籠からスペアキーを拝借した」
「完全な窃盗じゃないですか!」
「息子による親孝行(家宅捜索)だ」
先輩は悪びれもせず、鳥居の影から手招きした。 その後ろを、詩音が塩とお札を握りしめて警戒しながらついてくる。
「……ここ、結界が張ってある。悠斗くん、大丈夫?」
「え? あ、うん。今のところは」
詩音の言葉に少しビビる。俺の中の「彼女」は、神聖な結界に反応して暴れだしたりしないだろうか。 不安を抱えながら、俺たちは本殿の脇を抜け、裏手の蔵へと向かった。
その時だった。
「――誰だ?」
砂利を踏みしめる音と共に、野太い声が響いた。
懐中電灯の光が、俺たちの数メートル先を薙ぎ払う。
見回りの神主(お父さん)だ!
「ヤバッ……!」
「こっちだ!」
真白先輩が俺の腕を掴み、強引に引き寄せた。 俺たちは巨大な石灯籠の裏側に滑り込む。狭いスペースに男二人が重なるように隠れる形になった。
「んぐッ……!」
「シッ。声を出すな」
先輩の手が俺の口を塞ぐ。
近い。顔が近すぎる。
先輩の整った顔が目の前にあり、眼鏡の奥の瞳が鋭く光っている。吐息がかかる距離だ。
俺の背中は冷たい石灯籠に押し付けられ、前からは先輩の硬い体が押し当てられている。心臓の鼓動が、自分のも先輩のも混ざり合って聞こえそうだ。
(ちょ、この状況……!)
神主の足音が近づいてくる。
ザッ、ザッ、ザッ……。
光が石灯籠の周りを照らす。
俺は息を止め、先輩のシャツをギュッと掴んだ。
「……猫か?」
幸い、神主はオカルトマニアの息子ほど勘が鋭くなかったらしい。足音はそのまま遠ざかっていった。
「……ふゥ。行ったか」
先輩が口元から手を離し、安堵の息を漏らす。その息が耳にかかり、俺は変な声が出そうになった。
「せ、先輩! 近いです! 離れてください!」
「おっと、すまない。悠斗の匂いが意外と良くて、つい堪能してしまった」 「変態!」
「二人とも、イチャイチャしてないで早くして」
暗闇から詩音が呆れた顔で顔を出した。
どうやら彼女は手水舎(ちょうずや)の陰に隠れていたらしい。
土蔵の前には、巨大な南京錠がかかっていた。
先輩が鍵を差し込むと、ガチャンと重い音がして開錠された。
「開いたぞ。……入るぞ」
重い引き戸を開けると、中からは古本の匂いと防虫剤の匂いが漂ってきた。 懐中電灯で中を照らす。古びた掛け軸、儀式用の祭具、年代物の箪笥(たんす)などが所狭しと並んでいる。
「うわ、ホコリ凄……っくし!」
「静かにしろ。……お目当ての『桐箱』は、一番奥の棚にあるはずだ」
数分後。
「あった……これだ」
棚の奥、厳重にお札が貼られた桐箱を見つけた。
先輩が躊躇なくお札を剥がし、蓋を開ける。
中に入っていたのは、古びた銀色の懐中時計と、一冊の日記帳だった。
「日記……?」
俺は震える手でそれを手に取り、パラパラとめくった。
そこには、達筆な文字で、ある男の苦悩が綴られていた。
『〇月×日。今日も彼女に会えない。父は「認めない」の一点張りだ』
『〇月△日。彼女を守るためなら、豪徳寺の家名など捨ててもいい。明日、二人で逃げよう』
「豪徳寺って、当時のこの村の名家じゃ……日付、100年前だな」
そこまでは、愛に溢れた言葉だった。
だが、ページが進むにつれ、筆致は乱れ、インクの染みが目立つようになる。
『嘘だ。全て嘘だと言ってくれ』
『彼女が消えた。父が手紙を見せてきた。そこには「あなたの家柄が重荷になりました。探さないでください」と書いてあった』
「え?待って。確か100年前って、海岸の洞窟で『禊の儀式』が始めた頃じゃ……」
俺はスマホを取り出した。
詩音は何かを感じ取ったのか、冷静な声で言った。
「とりあえず最後まで見よう」
『なぜだ。彼女を愛していたのに。彼女も同じだと思っていたのに。……彼女は私を捨てて、故郷へ帰ってしまった。』
『もう私は、父の決めた許嫁と結婚するしかないのか』
俺たちは息を呑んだ。
「先輩、これ……!」
日記の間に挟まっていたのは、古びた便箋だった。
震えるような字で『探さないでください』と書かれている。
「え、彼女の言っていたことと違う……」
「どういうこと?」
「続きを読もう」
日記の続きを見て俺たちは固まった。
『〇月△日。なんてことだ。なぜ気づかなかった。彼女の手紙、彼女の書いた字じゃない。一体どういうことだ。彼女はどこへ行ったんだ』
『〇月△日。あれから何年経っただろう……海岸に祠が建てられた。村に災いが起こるからだという。私は確信した。父親たちは私に隠していたが、かつてあそこに捨てられていた遺体は、彼女なのだ。』
戦慄が走る。
詩音がスマホを落とした。
真白先輩が、ギリリと歯を食いしばる。その手には彼女の偽の手紙があった。
「……そういうことか。彼らは、これを信じ込まされたのか」
「豪徳寺家は息子を騙し、彼女を殺害し隠蔽した。その怨念で災いが起こり、息子が気づいた……」
「……ひでえよ」
村ぐるみでの隠蔽工作。
邪魔な娘を殺し、息子には「捨てられた」と嘘を吹き込んだ。
息子は絶望し、生きる気力を失って、言われるがまま許嫁と一緒になるしかなかった。 裏切ったのではなかった。彼もまた、騙され、引き裂かれた被害者だったのだ。
***
「お前たち! 何をしている!」
突然、怒号が響いた。
入り口に、懐中電灯を持った神主(先輩の父)が仁王立ちしていた。
「親父……」
「それは禁忌だぞ! その封印を解けば、村に災いが起こる! 直ちに元に戻せ!」
神主が血相を変えて詰め寄ってくる。その剣幕に、俺は思わず身をすくませた。
神主は俺たちの手にある桐箱を奪おうと、強引に腕を伸ばしてきた。
だが。
トン、と軽い音がして、神主の巨大な体が宙を舞った。
「……ッ!?」
神主がたたらを踏む。真白先輩だ。
掴みかかろうとした瞬間、流れるような体捌き――剣道の『すり足』で懐に入り込み、手首を返して力を受け流したのだ。
いつものチャラついた姿からは想像もできない、静謐(せいひつ)で、研ぎ澄まされた動きだった。
「落ち着け、親父」
「ま、真白……お前……」
「神職が、取り乱すな」
先輩の声は低く、そして冷ややかだった。
眼鏡の奥の瞳が、射抜くように神主を見据えている。そこには、ふざけた『怪奇同好会会長』の顔はない。由緒ある神社の跡取りとしての、冷徹な威厳が満ちていた。
「先祖は裏切ってなんかいなかった。騙されていただけだ。……神職が『偽り』を祀ってどうする。見ろ、この日記を」
先輩は静かに、しかし有無を言わせぬ迫力で、手紙と日記を突きつけた。
詩音が横から補足する。
「彼女は殺されたんです。でも、彼はずっと彼女に捨てられたと思い込んでいた。だから彼女の霊は『なぜ助けに来なかった』『なぜ私を捨てた』と恨み続けていたんです」
「そ、そんな……まさか……」
神主はその場に崩れ落ちた。
「我々は……被害者を加害者として封じ込め、100年も嘘の上塗りをしていたというのか……」
先輩はため息をついた。
「豪徳寺家は絶えた……息子は真実を明かす気にはなれなかったんだな。それだけしがらみが強かったということか」
「続きを見て」
詩音が遮るように言った。
日記には続きがあった。空白のページをめくると、最後にそのメッセージはあった。
『今は父の監視の元、家に造反することはできないが、私はこの日記と彼女の手紙を封印し、神社に保管してもらうことにする。もしもこの先、「禊の儀式」の謎を解き、彼女の無念とこの封印を解く者が現れたとしたら、私たちの大切な思い出の、この懐中時計を、彼女に届けてくれることを期待してーー』
沈黙が広がる。
真実が明らかになった。
隠されていたのは、村の罪そのものだった。
その時だった。
「……そういうことだったのか」
重い空気を破るように、先輩は手の中の懐中時計を見つめ、ボソリと言った。それを全員が注目している。
俺は、先輩を囲むみんなの姿を見ていた視界が、次第に遠ざかるのを感じた。
「……あ……」
意識が、急激に遠のいていく。
視界が歪み、知らない記憶が雪崩のように流れ込んでくる。
……騙されていた男の絶望。
……それでも捨てきれずに隠し持っていた、二人の思い出の時計。
……死ぬ間際まで彼女の名を呼び続けた、悲痛な愛。
会いたい。
いますぐ、彼に会いたい。
俺の体は夜の闇を駆けていた。
向かう先は一つ。彼らが引き裂かれた場所――海だ。
(続く)
