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【Log.1-01】因習村の生贄に選ばれたんだが 〜相手が変人先輩(男)な件〜

🔒〈 怪奇同好会へようこそ 〉🔒
~変人先輩と巻き込まれ俺の、受難な日々~
BLコメディ×オカルトミステリー / 6話完結 

「先輩、ここ令和ですよね?」因習村の生贄に選ばれた俺と変人先輩の、災難だらけの儀式(デート?)が始まる!

どんなシリーズか気になる👂という方、(あらすじ・キャラ紹介)は以下のリンクからどうぞ👇

🔗 【初めての方へ】怪奇同好会シリーズの歩き方(全話あらすじ・目次)


第1章:生贄は突然に


「結論から言おう。今年の『禊(みそぎ)の儀式』の生贄、もといカップル役には、俺と君が選ばれた」

 放課後の旧校舎。カビと埃、そしてなぜか線香の匂いが染みついた「怪奇同好会」の部室で、その男――同好会会長の真白(ましろ)先輩は、さも重大発表のようにそう告げた。

 窓から差し込む夕日が、彼の無駄に整った顔立ちと、サラサラの黒髪をドラマチックに照らし出している。

 俺、高校一年の悠斗(ゆうと)は、手元の入部届(強制加入)を丸めたくなりながら、呆れた声を出した。

「……あの、先輩。ここ日本ですよね? 令和ですよね? 生贄ってなんですか。それにカップル役って、俺たち男同士なんですけど」

「甘いな、悠斗くん。近年、我が村の過疎化は深刻だ。若者の流出により、かつてのように『結婚前の男女』を揃えることが困難になっている。そこで神職会議の結果、『仲の良い者同士なら性別は問わない』という多様性に配慮した解釈変更が行われたのだよ」

「へえ、SDGsですね。で? なんでそれが俺たちなんですか」

「厳正なる抽選の結果だ」

 真白先輩は、懐から取り出した二つ折りの紙を、バサリと広げて見せた。 俺が呆れてため息をついた、その時だ。
 部室の隅で、漆黒のテディベアの耳をイジイジしていたもう一人の部員、詩音(しおん)がボソリと口を開いた。

「……霊魂にジェンダーは関係ないもの」

 詩音は俺と同じ一年生だ。制服の上から黒いゴシック調のカーディガンを羽織り、ヘッドドレスで髪を飾っている。普段はどこを見ているかわからないおっとりした女子だが、この村で唯一「本物」の霊感を持っている(らしい)。

「むしろ、生物学的な性差よりも魂の波長が重要。禁忌とされる組み合わせほど、呪いは愛に、愛は呪いに転じやすい……。この村の神様、遅れてるようで霊的見地ではリベラルなのよ」

「……だ、そうですけど?」
「よくわからんが、詩音が言うなら間違いないだろう」

 真白先輩は適当に頷き、紙に書かれた筆文字を指差した。
『本年の儀式担当:真白 & 悠斗』

「……先輩」
「なんだ」
「その紙、先輩の字ですよね?」

 俺の指摘に、真白先輩はふっと口元を歪め、眼鏡のブリッジを中指で持ち上げた。

 怪しい。
 胡散臭い。
 顔がいいだけに余計に腹が立つ。

 この人は、地元の由緒ある神社の息子でありながら、重度のオカルトマニアだ。そして俺は、入学早々「霊感はないが、霊に好かれそうな顔をしている(先輩談)」という訳のわからない理由で、この部活に拉致された被害者である。

「細かいことを気にする男はモテないぞ、悠斗。これは名誉なことだ。数十年に一度の『海神(わだつみ)の祠』での宿泊イベントだぞ? オカルトファン垂涎の的だ」

「俺はファンじゃないです。絶対に行きませんからね」

 俺が席を立とうとしたその時、部室の隅で紅茶を飲んでいたもう一人の部員、詩音(しおん)がぽつりと口を開いた。

「……行ったほうがいいかも」

 彼女はカップに残った茶柱をじっと見つめたまま、不穏なことを言った。

「断ると、良くないものが来る気がする。……すごく、大きな災いが」
「えっ」
「それに会長、もう準備しちゃってるし」

 詩音の視線の先には、すでに登山リュックを背負い、満面の笑みを浮かべた真白先輩がスタンバイしていた。

「さあ行こうか、愛の逃避行へ!」
「逃避行じゃねえよ! 嫌な予感しかしない!」

 こうして俺は、なし崩し的に「村の因習」という名のデートに連行されることになったのだった。



 舞台となる「海岸の祠」は、村外れにある切り立った崖の下にあった。 満潮時には道が海に沈んで孤立するという、ミステリードラマの殺害現場としておあつらえ向きの場所だ。

「いいか悠斗。この儀式のルールは簡単だ。日の入りから日の出まで、この洞窟の中で一晩過ごすこと。その間、決して外に出てはならない」

 懐中電灯の明かりを頼りに、俺たちは洞窟の奥へと進んだ。 波の音が反響して、ゴォウ、ゴォウと不気味な唸り声をあげている。湿った空気が肌にまとわりつき、背筋がゾクゾクした。

「……先輩、本当に何も出ないんですよね?」

「基本的にはな。過去の記録では『禊(みそぎ)』を済ませたカップルが朝まで静かに過ごすだけだ。まあ、稀に発狂したとか行方不明になったとかいう記述もあるが」

「帰ります!!」

「冗談だ(半分は)。大丈夫、俺がついている」

 洞窟の最奥には、古びた木の扉がついた小さな祠(ほこら)が鎮座していた。しめ縄が巻かれ、明らかに「触るな危険」のオーラを放っている。
 真堂先輩は慣れた手つきで祠の前にレジャーシートを広げると、リュックからペットボトルのお茶と、コンビニのおにぎりを取り出した。

「さあ、ディナーといこうか」
「……ピクニック気分かよ」

 緊張の糸が少し緩む。 俺たちは並んで座り、コンビニおにぎりを食べた。波の音以外は何もしない、静かな時間。
 ふと横を見ると、真白先輩がじっと俺を見ていた。暗闇の中で、懐中電灯の光が彼の瞳を怪しく光らせている。

「……なんですか」
「いや。こうして二人きりで静かに過ごすのも、悪くないと思ってな」

 先輩がじり、と距離を詰めてくる。狭いシートの上、逃げ場はない。

「悠斗。お前は、自分の可愛さをもう少し自覚したほうがいい」
「はあ!? いきなり何言って――」
「ほら、米粒がついてる」

 先輩の指が俺の頬に触れた。ひんやりとした冷たい指先。 ドキリと心臓が跳ねる。 悔しいが、この人は顔だけは本当にいいのだ。至近距離で見つめられると、正常な思考が飛びそうになる。

「……とって、くださいよ」
「ああ。とってやる」

 先輩の顔が近づいてくる。え、まさか舐めとる気か? そう身構えた瞬間。

 ヒュオオオオオオ……

 どこからともなく、冷たい風が吹き抜けた。 ただの風ではない。明らかに温度の違う、生温かくて腐ったような臭いのする風だ。

「ッ!?」

 先輩が動きを止め、鋭い目つきで洞窟の入り口を睨んだ。 さっきまでの軟派な雰囲気が消え、獲物を狙う獣のような空気を纏う。

「……来るな」
「え? 何がですか?」
「悠斗、俺から離れるなよ」

 先輩は俺の肩を抱き寄せ、強く引き寄せた。 その腕の力強さに安堵すると同時に、俺の背中には嫌な汗が流れていた。 暗闇の向こう。波の音に混じって、何かが聞こえる。

 チャプ、チャプ、ズズッ……

 水音。そして、何か重いものを引きずるような音。

(これ、マジなやつじゃん……!)

 俺たちは息を潜め、朝が来るのを待った。
 先輩の心臓の音だけが、やけに大きく聞こえていた。



 結局、その夜は何も起こらなかった。 あの不気味な足音もいつの間にか消え、気がつけば洞窟の入り口から朝日が差し込んでいた。

「ふあ……生きてた……」

 俺は僵直(きょうちょく)していた体を伸ばし、大きく息を吐いた。 隣では真白先輩が、何事もなかったかのように涼しい顔で髪を整えている。

「言っただろう? ただの儀式だ」
「いや、夜中に変な音しましたよね!? 絶対何かいましたよね!?」
「波の音だろ。ビビりすぎだ、悠斗」

 先輩はニカっと笑い、俺の背中をバシバシ叩いた。 なんだよ、やっぱり脅かしただけか。俺は脱力し、リュックを担ぎ直した。

だが。

 洞窟を出て、朝日に照らされた海を見た瞬間。 俺の視界の隅に、奇妙なものが映った。

 先輩の背中。 白かったはずのシャツの背中に、べっとりと黒い手形のようなシミがついていたのだ。 泥? いや、もっとどす黒くて、粘着質な……。

「……先輩、背中」
「ん? ああ、岩肌に擦ったかな」

 先輩は気にする様子もなく、さっさと歩き出してしまう。 俺はその後ろ姿を見つめながら、言いようのない寒気を感じていた。

 昨夜、先輩はずっと俺を抱き寄せていた。俺と壁の間には先輩がいた。 なら、先輩の背中は「誰」に向けられていたんだ?

「……悠斗、置いていくぞー」
「あっ、はい! 今行きます!」

 俺は慌てて駆け出した。 足元に転がっていた小さな石を蹴飛ばす。 カラン、という音が、誰もいないはずの洞窟に虚しく響いた。

 俺たちはまだ知らなかったのだ。 儀式は終わったのではなく、ここからが本当の「始まり」だったということを。

(続く)


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