見出し画像

【Log.2-02】呪いの手錠で繋がれたので、先輩とトイレまで一緒です

怪異の数だけ、愛が深まる!? 変人先輩×苦労人後輩がおくる、恐怖と爆笑のオカルトBLコメディ【怪奇同好会シリーズlog.2】全6話完結

呪いが解けないまま迎えた翌朝。二人は物理的に繋がれた状態で登校することに。 授業参観のような距離感、好奇の視線、そして最大の試練「連れション」。悠斗の尊厳と羞恥心が限界突破する、公開処刑の1日が幕を開ける。

 ▶︎[1話から読む]| ▶︎ [マガジン一覧]


第2章:羞恥のスクールライフ

 翌朝。
 俺、悠斗の高校生活は、登校初っ端からクライマックスを迎えていた。

「おい見ろよ、あれ……」
「1年の悠斗くんと、3年の真白(ましろ)先輩じゃない?」
「なんで手繋いでんの? 罰ゲーム?」
「いや、なんか赤い紐で結ばれてないか……?」

 校門へと続く坂道。
 突き刺さる視線の雨あられ。

 その中を、俺は死んだ魚のような目で歩いていた。右腕をだらりと下げ、その先にある紅白の組紐が、隣を歩く長身の男――真白先輩の左腕へと繋がっている。

「……先輩。俺、もう帰りたいです」
「奇遇だな。俺も『早く二人きりの愛の巣(俺の部屋)に帰りたい』と思っていたところだ」
「意味合いが違う! あと声がデカい!」

 先輩は爽やかな笑顔で手を振っている。メンタルが鋼すぎる。
 昨晩は結局、物理的に離れられないため、俺が先輩の家に泊まることになった。
 不慣れな環境と、寝返りを打つたびに紐が引っ張られるストレスで、俺は完全に寝不足だ。

「悠斗、もっと胸を張れ。堂々としていれば、周囲も『ああ、そういうファッションか』と納得する」
「するわけないでしょ! どんな最先端モードですか!」

 抗議する俺をよそに、先輩はグイグイと進んでいく。
 紐の長さは50センチ。
 俺が立ち止まれば先輩の腕が引っ張られ、先輩が早歩きすれば俺が引きずられる。
 結果として、俺たちは恋人繋ぎスレスレの距離感をキープしたまま、校舎へと吸い込まれていった。

 
◆◆◆

 1時間目。1年B組、数学Ⅱ。
 教室のドアが開くと同時に、クラスメイトたちの会話がピタリと止んだ。

「おはよー。……あー、席につけー」

 担任の教師が気だるげに入ってきて、教壇で動きを止めた。

 黒板の前。

 俺の席の真横に、見慣れないパイプ椅子が置かれ、そこに3年生の真白先輩が優雅に脚を組んで座っていたからだ。

「……えーと。真白?」
「はい。おはようございます、先生」

 先輩は眼鏡をキラリと光らせ、爽やかに挨拶した。

「なぜ3年のお前がここにいる。しかも悠斗と紐で繋がれて」
「家庭の事情です」
「家庭」
「はい。悠斗は現在、我が家の厳重な監視……もとい、保護下にあります。片時も離れるなという家訓により、私が付き添うことになりました。授業の邪魔はしませんので、空気だと思ってください」

 先輩は真顔で言い放ち、文庫本(タイトル:『呪術と緊縛の歴史』)を開いた。

 先生はこめかみを押さえ、俺を見た。俺は必死に目で訴える。
 『助けてください。俺も被害者なんです』
 先生は深く、深ーくため息をつき、

「……まあ、真堂の家のことなら仕方ないか。お前ら、騒ぐなよー」

 諦めた!

 この村における「神社」の権力と、先輩の「奇行キャラ」が浸透しすぎていて、誰もツッコまない。

 授業が始まった。
 だが、俺は数式どころではなかった。

 カサッ。

 先輩がページをめくるたび、紐が揺れて俺の右手に触れる。
 隣からの視線を感じる。
 チラリと見ると、先輩は本を読んでいるフリをして、じっと俺のノートを覗き込んでいた。

「(……ちょ、近いです)」
「(悠斗、その計算間違ってるぞ。そこは因数分解だ)」
「(うるさい!)」

 小声で言い争うたびに、クラス中が生温かい視線を送ってくる。
 地獄だ。これは公開処刑だ。
 だが、本当の地獄はこれからだった。

 2時間目が終わった休み時間。
 俺は、朝から我慢していた「生理現象」の限界を感じていた。


◆◆◆

「……先輩」
「ん? どうした、顔色が悪いぞ。貧血か? 人工呼吸するか?」
「違います。……ト、トイレ」

 俺が蚊の鳴くような声で言うと、先輩は「ああ」と察したように頷いた。

「生理現象は止められないな。行こうか」
「……ついてくる気ですか」
「当たり前だろう。1メートル離れたら感電死だぞ。俺の膀胱はまだ余裕だが、付き合ってやる」

 先輩は席を立ち、俺の手を引いた。
 廊下に出る。男子トイレに向かう足取りが重い。
 処刑台に向かう囚人はこんな気分なのだろうか。

 男子トイレに到着する。
 幸い、授業中なので誰もいない。

「……個室に入ります」
「どうぞ」
「いや、どうぞじゃなくて! 先輩はどうするんですか!」

 狭い個室。二人で入るのは物理的に無理だ。いや、入れたとしても密着度は限界突破する。
 俺は必死に提案した。

「先輩はドアの外にいてください! 紐はドアの隙間から通しますから!」「ふむ。だがこの紐、50センチだぞ? 俺がドアの外に立つと、お前の体勢がキツくないか?」
「頑張ります! 壁に張り付きますから!」

 俺は先輩を押し留め、個室に飛び込んだ。
 ドアを閉めようとするが、当然、手首が繋がっているので完全には閉まらない。
 数センチの隙間を残し、先輩の左手だけが個室の中に侵入している形になる。

(……気まずい……!)

 ドア一枚隔てて、すぐそこには先輩がいる。
 息遣いすら聞こえそうな距離だ。
 これじゃあ、音だって丸聞こえじゃないか。

「あの……先輩」
「なんだ」
「……なんか、歌ってください」
「は?」
「音が……その、聞こえるのが嫌なんで! 大声で歌ってください!」

 俺の無茶振りに、ドアの向こうで先輩が沈黙した。
 怒ったか? と思った次の瞬間。

「♪かぁ〜けぇ〜まァ〜くもォ〜、かしこきィ〜〜!」

 朗々とした美声がトイレ中に響き渡った。
 まさかの『祝詞(のりと)』だ。
 しかも、地元の祭りで神主が読み上げる、ガチの節回しだ。

「(なんでそっち!? もっとJ-POPとかあっただろ!?)」

 だが、ツッコんでいる余裕はない。
 先輩の荘厳な詠唱がかき消してくれている間に、俺は速攻で用を足した。  羞恥心で死ぬかと思った。


◆◆◆

「……ふゥ。スッキリしたか、悠斗」
「魂が削れました……」

 トイレから出た俺は、手洗い場で顔を洗った。
 鏡に映る自分は、げっそりとやつれている。
 隣では、先輩がハンカチで俺の濡れた手を丁寧に拭いてくれていた。こういう無駄な甲斐甲斐しさが、余計に周囲の誤解を招くということに、この人は気づいていない。

「さて、次は3時間目・体育だぞ」
「……はい?」
「着替えも一緒だ。安心しろ、俺のジャージを貸してやる(萌え袖になるがな)」

 先輩が爽やかに笑う。
 俺は目の前が真っ暗になった。

 そうか。
 まだ午前中なのか。

「……詩音ちゃん。早く解呪方法を見つけてくれ……」

 俺の祈りは天に届くことなく、その日の午後のSNSには『真白先輩と1年の公開プレイ』というトレンド入りワードが爆誕することになったのだった。


(続く)


← 前の話次の話 →


▼怪奇同好会シリーズ第一弾はこちら
因習村の生贄に選ばれたんだが〜相手が変人先輩(男)な件〜


いいなと思ったら応援しよう!