商品企画担当が実践する「インサイト」の見つけ方
「インサイト」という言葉、マーケティングやSNSでよく見かけるようになった。
なんとなく「消費者の本音」というイメージはあるけれど、具体的に何を指しているのか、説明できる人は意外と少ないかもしれない。
今回は、商品企画の現場で実際にインサイトをどう見つけているのか。そのプロセスを、分かりやすい例と化粧品を交えて紹介したい。
「ニーズ」と「インサイト」の違い
まず整理しておきたいのが、「ニーズ」と「インサイト」の違いだ。
ニーズ:本人が自覚している欲求。「毛穴が気になるから、毛穴ケア化粧品が欲しい」
インサイト:本人も気づいていない、行動の裏にある本音。「本当は、毛穴そのものより“肌がキレイに見えないことで自信が持てない自分”が気になっている」
ニーズは本人に聞けば出てくる。
インサイトは、本人に聞いてもすぐには出てこない。だからこそ、企画する側が見つけにいく必要がある。
エレベーターの例
有名な例として、あるオフィスビルの話がある。
出勤時、エレベーターの待ち時間が長く、社員から不満の声が多くあがっていた。
表面的なニーズ 「待ち時間を短くしてほしい」
このニーズだけを見ると、「エレベーターの台数を増やす」「もっと速い機種に交換する」といった対策が浮かぶ。しかし、どちらも大きなコストがかかる。そこで、ある会社が行ったのは、エレベーター前に鏡を設置することだった。
結果 待ち時間そのものは変わっていないのに、苦情は大幅に減った。
見えてきたインサイト
社員が本当に困っていたのは、「待ち時間の長さ」そのものではなく、「何もせず、ただ待たされている時間の退屈さ・手持ち無沙汰(ぶさた)」だった。
鏡を見て身だしなみを整えたり、なんとなく自分の姿を確認したりすることで、「待たされている」という感覚そのものが薄れていった。
このように、表面的なニーズに対してそのまま対策を打つのではなく、その裏にあるインサイトを見つけることで、まったく違う(そして低コストな)解決策にたどり着けることがある。
商品企画の現場でインサイトを見つける4つのステップ
① 市場調査・データ分析
売上データ、購買データ、検索キーワードの推移などから、「なぜ今この商品カテゴリーが伸びているのか」を数字から読み解く。
数字はあくまで結果であり、そこに至った「理由」までは教えてくれない。だからこそ、次のステップが欠かせない。
② ユーザーインタビュー
実際に商品を使っている人、使っていない人に話を聞く。
このとき大事にしているのは、「なぜその商品を選んだのか」だけでなく、「その商品を使う前、どんなことに困っていたのか」「使った後、生活はどう変わったのか」まで掘り下げること。
表面的な回答の奥に、本人も言語化できていない本音が隠れていることが多い。
③ 生活シーンの観察
インタビューだけでは出てこないものもある。
朝の身支度の時間、化粧ポーチの中身、実際にどんな手順でケアをしているのか。生活の中でどう使われているかを観察することで、「本人も無自覚だった不便さ」に気づけることがある。
④ 口コミ・SNSの声の分析
レビューやSNSの投稿には、企業側のアンケートでは出てこない、率直な言葉が並んでいる。
「良かった」「悪かった」だけでなく、どんな言葉で表現しているか、どんな場面を語っているかに注目すると、その人の本音に近づける。
パッケージのコピー、広告で使う写真、価格帯まで、インサイトひとつで変わることがある。
機能するインサイトの5つの条件
インタビューを重ねる中で、今でも忘れられないエピソードがある。
あるニキビケアの開発現場で ニキビケア商品を開発していたときのこと。20代後半の男性に、1対1でお話を聞く機会があった。
その方は、ニキビを治療したいと思っている。でも、皮膚科やクリニックには行きたくないという。理由を尋ねると、こう答えてくれた。
「この歳になってもニキビで悩んでいるなんて、恥ずかしくて誰にも言えない。クリニックの受付で名前を呼ばれるのも嫌なんです」
この言葉を聞いた瞬間、思わずハッとした。
表面的には「ニキビを治したい」というニーズに見える。けれど本当は、「治したい気持ち」よりも「年齢的にニキビで悩んでいることを、誰にも知られたくない」という気持ちのほうが強かった。
だからこそ、効果の高さだけを訴求しても響かない。「人に知られずに、自宅でこっそりケアできる」という体験そのものが、価値になる。
この瞬間、聞き手である自分自身が強く共感し、企画の方向性が一気に見えた感覚があった。この経験から、私は「機能するインサイト」には共通する5つの条件があると考えている。
① Surprise(意外性)
聞き手の内面に気づかせ、ハッとさせる新たな発見や驚きがあるか。
「ニキビを治したい」ではなく「恥ずかしくて誰にも言えない」という言葉を聞いた瞬間のように、想定していなかった角度からの気づきがあるかどうか。
② Inspiration(発想の広がり)
人の発想を拡げるインスピレーションを感じさせるか。
「効果」だけでなく「誰にも知られずに使える」という切り口が見えたことで、パッケージやコミュニケーションの発想が一気に広がった。
③ Commitment(納得感)
自分が心から腑に落ちているか。
頭で理解するだけでなく、「たしかに、それはそうだ」と心から納得できるかどうか。このエピソードでは、共感がそのまま確信につながった。
④ Wording(言葉の分かりやすさ)
1行で言い表せて、誰もが理解できる明確な言葉にできているか。
「年齢的にニキビで悩んでいることを、誰にも知られたくない」というように、シンプルな一文に落とし込めるかどうかが、その後の企画のブレを防いでくれる。
⑤ Essential(人間らしさ)
人間の本質があるか。
小手先のテクニックではなく、「恥ずかしさ」「人に知られたくない」といった、誰もが抱きうる人間らしい感情に根ざしているかどうか。
おわりに
インサイトとは、本人も気づいていない「本当はこう感じている」という本音のこと。商品企画では、データ・インタビュー・観察・口コミという複数の視点からそれを探りにいく。
こうした視点を知っておくと、自分が何かを買うときにも、「本当は何が欲しかったんだろう?」と一歩立ち止まって考えられるようになるかもしれない。
