見出し画像

【20周年記念企画リポート・後編】座談会のトーク全容~第20回ホームカミングデイ2025~

前編のイベントリポートでは、当日のハイライトをお届けしました。
後編では、ハイライトには収まりきらなかった、座談会でのトークの全容を、当日の雰囲気そのままにお届けします。

2025年11月1日に開催された京都大学ホームカミングデイ20周年記念企画。卒業生特別ゲストによる座談会では、かつて「日本一有名なニート」として話題を集め、今は文筆家・書店員として活動するpha氏、起業家として、リーダー向けのコーチングサービス等を展開する株式会社コーチェット代表取締役の櫻本真理氏、子育てや働き方の政策の研究者として、NHK Eテレ「すくすく子育て」等の番組にも出演する京都大学人間・環境学研究科の柴田悠教授の3名が登壇。
モデレーターを柴田教授が務め、それぞれのユニークなキャリアや人生観を通して卒業後の20年を振り返り、今後の展望についてざっくばらんに語り合いました。


自己紹介と京大生時代の過ごし方

柴田 「人生には正解がない」という大前提のもとで同窓生の皆様がご自身の価値観や生き方を深く見つめ直すヒントを提供できれば、との思いからこの企画が生まれました。まずは自己紹介ですが、専門は社会学で、人々の幸せを支えるための政策が本当に幸せを支えているのか、どういう効果があるのかを定量的に研究しています。より働きやすい社会の実現に向けた言論活動にも取り組んでいます。
櫻本 私は2005年に教育学部を卒業後、モルガン・スタンレー証券、ゴールドマン・サックス証券に勤務しました。2014年にオンラインカウンセリングサービスを提供するcotreeを設立、2020年に2社目の会社となるコーチェットを立ち上げ、現在は主にリーダー育成や組織開発、人材育成といった事業を行っています。
pha 総合人間学部を2003年に卒業後、大学職員として就職しましたが社内ニートに。その後は東京でシェアハウスを運営し、メディアに露出するようになりました。現在は高円寺の「蟹ブックス」で働く傍ら、文筆活動を通じて自分の生き方を発信しています。
柴田 では早速、お二人が学生時代だった頃の学校の雰囲気や学風、それらが社会に出た後の人生にどう影響を与えたのかなどをお聞きできれば。
櫻本 学生時代の前半は、サークルも早々に辞めて、とにかく家で天井を見て過ごしていました(笑)。河合隼雄先生の心理学を勉強したくて入ったのですが、心理の根拠などについて突き詰めるほどに迷宮入りしてしまって。でも3~4回生は経済学部の興味がある分野を勉強し始め、比較的アクティブに活動できて就職活動も順調にいきました。
pha 僕は熊野寮に入ったら寮生活が楽しくて、影響を受けすぎてしまった感じ。社会に出てからも学生寮みたいなことをやりたくて、シェアハウスをつくって暮らしていました。京大にいたころは周りがみんな人の評価を気にせず好きなことをやっていたので、それに影響を受けて変な生き方になってしまいましたね。

卒業後の歩みと「転機」

柴田 卒業後最初のキャリア選択は正解だったのか、そこからの転換で苦労されたことや、現在の活動についてはいかがでしょう。phaさんからどうぞ。
pha 大学職員自体は良い仕事だったのですが、僕は合わなくて3年で辞めてしまったんですよね。その後ニートとしてふらふらしながらブログを書いていて、東京に行ってシェアハウスをつくって……。若い頃は働くことへの拒否感が強すぎましたね。今思うとそこまで働くことを拒否しすぎなくてもよかったかなと思いますね。
柴田 ニートをやめて、文筆活動をメインにそれで生活して、というのもまた転機ですよね。自分も子どもからの「パパの夢って何?」という質問に、「エッセイストかなあ」とよく答えています。自分の興味ある事を書いて、人々が喜んで、ちゃんと買ってもらえてお金が回るって最高だと思うんですよね。phaさんの今のあり方がそれにすごく近い気がしていて、そのターニングポイントは何でしたか?
pha 仕事をしたくなくて、ニートやシェアハウスをやりながらコミュニティやネットワークをつくっていたんですが、10年もやるとやり切って飽きましたね。若い頃は用もなくただ集まっていたけど、中年になるとみんな集まらなくなってきたり。その点、“仕事”はそんなに友達じゃない人ともつながることができるのが良いな、と最近気づきました。
柴田 リーダー的になると対等じゃなくなりますよね。友達じゃなくても仕事だったら会ってコミュニケーションを取り、生産的な何かを一緒につくることができますよね。
pha それが、ニートの時は気づかなかった仕事の価値じゃないかと。それはそれで楽しいですね。
櫻本 私も本当に紆余曲折ありまして、新卒で入った会社を6カ月で辞めたり、その後外資系証券に転職してもリーマンショックが起こったり。でも正解かどうかは別として、その時々で自分が納得できる選択をしてきた結果、今ここにいるなという気はしています。
柴田 櫻本さんは2022年に日経WOMANの「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」を受賞されています。経営者としてどういった点が評価されたと考えますか。
櫻本 ちょうどコロナの時期に、オンラインコミュニケーションが普及したタイミングで、私が手がけていたメンタルヘルス事業の必要度が上がりました。またコロナ禍に苦しんでおられる方に対して無償でメンタルサポートを提供する仕組みをつくったところ、企業様から寄付をいただいたり、さまざまな方がお金を出してくださいました。それは善意を回すという形での無償提供でしたが、そういった活動を評価されたのかなと受け取っています。
柴田 CSR的な活動ですね。
櫻本 経営してきた中で一貫しているのは、「会社だけが儲かってもしょうがない」という感覚です。いかに社会の中で“循環”をつくれるか。従業員、クライアント、お金を出してくださる人、それらすべての間で価値のやり取りが行われているのが面白いなと感じます。
柴田 phaさんが自分の生き方を書いているのも、世間の人にも何かヒントになれば良いなといった、全体を見ながらの活動だったりするんですかね。
pha 最初は自分のことを自分のために書いていただけなんですが、読んだ人が楽になったみたいに言ってくれて、「そういう需要があるんだ」というのがわかって、今はそれが仕事になってますね。

そして、これから

柴田 なるほど。我々が今40代で退職まで20年、さらに退職後も人生は長い。櫻本さんは今後のプランをどう考えておられますか。
櫻本 先ほどの“循環”への信頼がすごくあります。良い循環なのか、悪い循環なのか。どちらに自分の身を置いているのかはものすごく重要で、良い循環の起点になることも大切です。悪い循環の中にいると感じたら入り直す、つくり直す。そういう意味では、どんなキャリアとか何の仕事をするかは何も考えていない。循環は他者との関係性の中で巡っていくものですし。その時々に最適なものを選べば、良いところに波が連れてってくれる。そんな感覚を持っています。
柴田 ありがとうございます。phaさんはいかがでしょうか。
pha いつまで働けるかわかりませんが、働けるうちはできるだけ働いておこうかな、と。僕はふらふらと生きてきたので結婚もしていないし、子どももいない。昔は皆結婚したけど、今は婚姻率が下がって未婚の人の割合も増えてきていると思います。僕のような人が、どうやって老いて、どうやって死んでいくかとか、そんな生き様のようなものを発信していくのもいいかもしれないですね。

左からphaさん、櫻本さん、柴田教授。

参加者からの質問

柴田 会場からオンラインで質問が寄せられていますので、いくつかピックアップします。まず、「“働き方のウェルビーイング度合い”による測定・管理に向けた研究の現在地は?」という質問です。働く現場に近い櫻本さんからいかがですか?
櫻本 ウェルビーイングがない職場のリスクやロスが大きくなっていて、「心理的リソース」という概念がそうしたところで重要になると思っています。同じ8時間働いても、「やりたいことを楽しくやっている時間」と「意味のわからない指示に振り回される時間」では、心理的リソースの残り方がまったく違います。後者はどんどん消耗して、結果としてメンタル不調や離職、やる気の低下につながります。社員がどんな目的や願いで心理的リソースを使い、何にそれを消費する組織をつくるか。その“デザイン”がすごく重要になってくると思います。
柴田 ありがとうございます。大手口コミサイトの大量の社員の口コミデータをAI分析した調査では、働きやすさ・働きがい両方が満たされている会社の利益率や各指標が良いという傾向が示されています。単に働きやすさだけでなく、働きがいも企業の業績にとって重要という結果になっていて、こうした「ワークエンゲージメント」の研究がいろいろと進んでいると思います。

柴田 では次の質問です。「京大は“人と違う”ことを邪魔・制限されない文化があります。それは今後も維持され進化するものなのか?」 この校風・文化にはphaさんがまさに恩恵を受けて人生にも影響を与えたと思います。phaさんがもし京都大学総長になったらどんな大学にしますか?
Pha もうめちゃめちゃ自由にしますよ。その辺の路上に畳を敷いて皆でマージャンとか(笑)。でも今の時代はそんなノリではないですよね。授業にちゃんと出たり、お金を稼がなきゃという焦燥感があったり。僕がいた熊野寮は学生が自治することで、いろいろ自分たちでアイデアを出したり、責任を持って運営することを学んだりできて、創造的な場所だったと思います。そんな文化が残っていけばいいなと思います。
柴田 櫻本さんがもし京都大学総長になって、京大をどういうところにしたらより良くなると思いますか?
櫻本 京大って、「同じ土俵に立たず、お互い傷付けない」ところが良いと思うんです。人をちゃんと放っておく、人の世界を邪魔したくない気持ちがあったり、競争もあんまりしたくない。皆がやっていることをやりたくないのも、別に誰かに勝ちたい訳じゃないみたいな。だからこそ独自性に見える。東京でも京大卒の起業家コミュニティがあるんですが、ピッチコンテストでも誰も勝とうとせず、笑わせに来る(笑)。そんなに群れ過ぎないから良い距離感があるし、その人らしさを活かしやすい心地よさがある。これって、これからの時代に求められる心地よさではという希望があります。
柴田 ハラスメント概念が普及して、いかに傷付けずコミュニケーションするかは皆の命題になっています。いかにお互いの領域を守りながらコミュニケーションするかという点では、実は、京大は皆自分の好きなことをしたいのは共通だから、下手に介入しないのは昔から伝統的にあって、これからの時代に大事なスキルや生き方になるかもしれませんね。

柴田 次は「研究や創作の中で、壁にぶつかった時どのように自分を立て直されましたか?」。良い質問ですね。櫻本さんはいかがでしょうか?
櫻本 やはり心理的リソースの話なんですが、壁にぶつかった時に一番エネルギーを奪うのは「私にはこの壁を乗り越えることができない」という無力感なんです。なので、壁を小さくしてみる。壁を細分化するというか、先に進むために壁のこの辺を切り取ってみるみたいに、ちょっとずつで良いんです。大きな壁を大きなまま捉えない。壁を変えるのも選択肢だし、実は後ろを向いたらもっと良い道があるかもしれない。でもひたすら動き続けることが大切です。前に進むこと、正しく他者とつながること、それこそ“良い循環”に身を置き直すこと。他者とつながるのもそうですし、目の前の壁を壊すために、あるいは解決するために、ちょっとずつでも前に進むことが大切です。
柴田 何もできない、進めない。無力感で動けなくなってしまうのが一番しんどいかもしれないですね。
pha 僕は3年前ぐらいに文章を全然書く気になれなくて、実際その時は休んでみました。大した仕事をせずに、今は書かなくてもいい時だと思って。1年ぐらいブラブラしていたら自然と書く気や能力が復活していた。休むのもいいんじゃないかな。しっかり休むことで変わっていくところがあるし。僕らの世代は、40歳くらいまではそれまでのやり方でやってきたけど、なんとなく通用しなくなって、自分の中で何かを組み替えなければいけない時期が来るのかもしれない。でもすぐに組み替えるのは無理だから、ちょっと距離を取って別のことをしていると、だんだん自分の中で整理されて自然とできるようになる。ちょっと離れてみるのもいいかなとは思いますね。
柴田 ありがとうございます。お二人の話から、互いを尊重しながらそれぞれが好きなことをする京大の気風が土壌となり、さまざまな可能性や多様性を羽ばたかせて活躍される方が多いのだということを再認識しました。

(文責:京都大学ホームカミングデイ事務局)

 なお、2026年3月31日まで、第20回ホームカミングデイ2025の一部イベントのオンデマンド配信を行っています。こちらもぜひご覧ください!