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【前編】「知」を世界に放つ、スタートアップ -「知の循環」を起動する、自律型エコシステムへの挑戦-

大学の「ディープテック」によるイノベーション創出の機運が世界中で高まっています。
研究を社会に届ける手法として、日本政府の 5 か年計画でも鍵とされるスタートアップ。
本編では、世界を変える「ディープテック」をどのように社会へ届けるか、未来へ知を還流し続けるための京都大学成長戦略本部の取り組みに迫ります。
※本記事は、成長戦略本部広報誌『IAC Newsletter vol.04』(2026年7月発行)の巻頭特集をnote向けに掲載したものです。

PROFILE|プロフィール
吉田 竜也  YOSHIDA Tatsuya

京都大学成長戦略本部エコシステム構築領域統括。2004 年に京都大学入職後、知財管理および知財渉外に携わり、その後、産学連携法務に従事。2024 年より成長戦略本部に着任。


社会のための知と価値の循環


世界的な流れとして、イノベーションの源泉が、大企業の研究開発から大学の基礎研究に基づく「ディープテック」へ徐々にシフトしている状況があります。大学の独創的な研究は、成熟した産業構造を変革する潜在力を持っているのです。ただ、その「知」を社会実装することは研究者や経営者個人の力だけでは困難であり、大学、企業、起業家、投資家、政府などの多様なプレイヤーを動的・有機的につないでいく仕組みが不可欠です。
私たちが取り組んでいるのは、まさにその仕組み、つまり「エコシステム」の構築です。
大学の知(研究)、資金、人材、社会実装とその失敗も含めた経験、そして生まれる果実(経済的価値、社会的価値)が、一時的ではなく自律的にくるくると回り続ける循環システム。大学の知を社会に実装して課題を解決し、そこで生まれた果実を再び大学へ還流して、新たな知と価値を生み続けていく。この持続的・自律的に循環するエコシステムが、私たちの社会と未来にとって必要な仕組みなのです。

変革のエンジンは「スタートアップ」


そのエコシステムの中で軸となるもの、いわばエンジンとなるものが「スタートアップ」です。研究の社会実装として、共同研究や知的財産(IP)のライセンスももちろん大切な手法ではありますが、技術の性質や産業構造に応じた「最適な選択肢」として、スタートアップの重要性が増しています。
ディープテックには、失敗も内包する「不確実性」と「長期的」な研究開発・事業化期間という特徴があります。
そのため、既存企業にとってディープテック領域での意思決定が難しいことがあります。それに対し、スタートアップは、そもそも失敗や事業転換(ピボット)を前提とした、試行錯誤に極めて強いアプローチです。
また、成長ステージごとに異なるリスク許容度を持つ投資家・ベンチャーキャピタル(VC)等から資金を呼び込めるため最短コースで社会実装へつなげることも可能です。だからこそ、スタートアップによってこれまで超えられなかった壁を突破していくことが期待できるのです。

世界レベルの「質」を導く、組織主導型の支援


京都大学がめざすのは基礎研究(ディープテック)を起点とするスタートアップです。私たちは単に起業「数」を追うのではなく、世界に通用する「質」を意識しています。
サイエンスへの高い敬意とリテラシーを基盤とした「サイエンスオリエンテッド」の哲学が最大の特徴かもしれません。
この質を実現する強みが、創業前から創業後までシームレスに支援する「組織主導型」の厚い体制です。システムが自走している米国とは異なり、日本では放っておいても自律的な創業は起きません。だからこそ本学はリソースを意識的に投下し、組織主導で牽引する試みをしています。
具体的には、研究者が研究に専念できるよう、産業界出身のプロフェッショナル「水先人」を専属配置し、創業前から伴走して事業の解像度を高めます。さらに、民間 VC が投資できない初期段階で、実証データを積み上げるための「GAP ファンド」を大学自ら提供し、グループ会社の京都大学イノベーションキャピタル(京都iCAP)による本格的な投資へバトンをつなぎます。「研究(技術)」「経営(人材)」「資金」を自前で支援することで、不確実性を可能な限りカバーしています。
最初から世界市場への接続を意識している点も特徴です。大きな社会的インパクトをめざす場合、市場となるのは日本国内に限りませんが、京都大学の研究は大きな潜在性を持つものが多いと感じています。海外拠点を活用した創業前のアクセラレーション・プログラムなど、生まれたシーズを世界へ接続していく試みにも取り組んでいるところです。

未来を塗り替える京大発スタートアップ


現状、本学からは新次元のスタートアップが活発に誕生しています。
例えば、次世代の計算機として世界的な期待が集まる「中性原子方式」の量子コンピュータ開発に挑む株式会社Yaqumo。また、反応工学研究をベースに、独自の非燃焼技術によってエネルギーを創出しながら高純度なCO2 回収を実現し、「発電すればするほど脱炭素に貢献する」という未来のクリーンエネルギーに挑むライノフラックス株式会社などが挙げられます。さらに、究極のエネルギーとされる核融合炉の関連装置開発で世界をリードする、本学発のメガスタートアップ、京都フュージョニアリング株式会社もその代表格です。
核融合のような技術が真に実を結ぶのは、おそらく30年後といった少し先の未来になるでしょう。ただ、こうした長い時間軸を見据えたスタートアップ創出ができるのも、本学だからこその強みだと思います。

「知の循環」を広げ、ともに未来の仕組みを


私たちがめざすエコシステムは、スタートアップが生まれて終わりではありません。研究成果が社会に実装され、そこで得られた果実が大学へと還流し、次の自由な基礎研究を支える資金となり、またよりよい未来が生まれる。この「知の循環」が回り出すことが私たちの目標です。
産学連携やスタートアップ創出の推進により、大学本来の使命である基礎研究に影響が出るのではないかという懸念もあるでしょう。だからこそ、私たちの成長戦略本部のような部署が、研究組織と意思決定フローを分けることで、大学と社会の双方にとって良好な仕組みがつくれたらと考えています。
そして、このエコシステムを発展させるためには、多くの方々の力が必要です。
学内の研究者の方で、ご自身の研究を社会につなげたいという思いが少しでもあれば、ぜひ私たちの扉を叩いてください。最適な支援領域へとスムーズに接続します。そして同時に、この非常にチャレンジングなエコシステムの構築に、「プレイヤー」としてともに挑んでくれる仲間も募集しています。大学の枠を超え、社会の前提を変える仕組みを、私たちと一緒につくっていきましょう。


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【後編】研究と事業の化学反応で既知を越える


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