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45億年前の宇宙からの「手紙」は、地球に着くと書き換えられていく。― リュウグウ試料の最新研究からたどる、研究のおもしろさ

京都大学成長戦略本部では、社会連携の一環として、本学の研究や「知」を広く社会にお届けする活動をしています。
今回はその一環として、少し宇宙研究の話を。
民間企業の参入も進み、宇宙探査や宇宙開発が加速するなか、「宇宙へ行く」だけでなく、「宇宙から持ち帰ったものをどう読み解くか」も重要な研究テーマになっています。今回は、宇宙から持ち帰った物質の「その後」をめぐる話題です。
 
探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから持ち帰った粒子が、地球帰還後わずか数週間で変質し始める——。そんな研究成果が、2026年6月に発表されました。

発表したのは、京都大学理学研究科の野口高明教授らを含む共同研究グループ。成果は国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。
実は野口先生、以前の公開講座「京大知の森」にご登壇いただいた先生でもあります。
本記事では、最新の発見について、その研究背景や過去アーカイブとあわせてご紹介します!


1. 宇宙から届いた手紙は、地球で変わり始める

「隕石は、小惑星から送られた手紙である。」
 
2024年12月に実施した公開講座「京大知の森」(全体テーマ:「宇宙を拓く」)で、野口先生はこう語りました。雪の研究者・中谷宇吉郎博士による「雪の結晶は、天から送られた手紙である」という言葉になぞらえたものです。
 
野口先生によれば、その手紙は文字ではなく、鉱物の組織や化学組成、同位体組成という暗号で書かれています。研究者は、その暗号を読み解くことで、45億年前の太陽系で何が起きていたのか?今の地球はどのように形づくられたのか?といった問いを探っています。
 
しかし今回、その「手紙」をめぐる新たな事実が明らかになりました。
宇宙から届いた手紙は、地球へ着いたあとも書き換えられてしまうというものです。

2. 「持ち帰ること」が研究のゴールではない

宇宙探査ミッションというと、「試料を持ち帰ること」が最大の成果のように思われます。しかし実際には、地球へ帰還したその瞬間から、地球環境の影響を受け始めます。本当の挑戦は、試料を持ち帰った後に始まります。
 
だから研究者たちは、どの鉱物がどのように変質するのか、本来の宇宙の情報をどう守るのか、という課題にも向き合っています。今回の研究は、その問いに真正面から取り組んだ成果です。

3. この研究が初めて示したこと

試料が地球環境で変質するだろうという懸念は以前からありました。しかし、「どの鉱物が」「いつから」「どのくらいの速さで」変質するのかはわかっていませんでした。
野口先生らのチームは、リュウグウ粒子を室温付近の環境で数週間から数か月にわたり観察し、初めてその過程を定量的に明らかにしました。
 
今回の実験で最初に変質したのは、鉄と硫黄からなる鉱物「磁硫鉄鉱(pyrrhotite)」。
この鉱物が数週間で酸化し変質層を形成し、その反応が引き金となって数か月かけて周囲の鉱物や有機物へ連鎖的に広がることが確認されました。
 
変質速度は1日あたり約0.1ナノメートル。髪の毛の太さの数十万分の一という極めて小さな変化ですが、イトカワ粒子の「宇宙風化層」は数十ナノメートル程度しかありません。45億年前の情報が刻まれた微細な構造にとっては見過ごせない速度です。

4. リュウグウを超えて広がる、この発見の射程

今回の研究は、現在の標準的な保管条件だけでは十分ではなく、「低温・低酸素・低湿度」を組み合わせた保存環境が重要であることを、科学的根拠をもって示しました。
 
この成果は、リュウグウだけでなく、
 ● NASAが持ち帰った小惑星ベンヌの試料
 ● JAXAが進める火星衛星探査計画(MMX)
 ● 将来の火星サンプルリターン
など、今後のサンプルリターンミッション全体にも大きな影響を与えると期待されています。
 
リュウグウ試料からは、有機物や水との反応の痕跡、太陽系初期の歴史など、宇宙誕生の謎に迫る成果が次々と報告されてきました。今回の研究は、そうした貴重な情報を未来へどう残すかという課題に挑んだもので、宇宙探査の未来を支える「保管の科学」の発展につながるものです。
参考:小惑星リュウグウ試料中の黒い固体有機物(京都大学プレスリリース)

5. この話、「京大知の森」でも語られてました

今回のニュースは、「何がわかったのか」を伝えるもの。
一方で、「なぜその発見が重要なのか」という背景は、野口先生が京大知の森の講演で丁寧に解説されています。(アーカイブ動画は「KyotoU Channel」で無料公開されています。)

講演では、リュウグウ試料から明らかになった研究成果も交えながら、
 ● 小惑星が「太陽系の化石」と呼ばれる理由(→太陽系初期の状態から変化していない!)
 ● 「はやぶさ」「はやぶさ2」が持ち帰った試料から何がわかったのか
 ● 宇宙風化(スペースウェザリング)の仕組み
 ● リュウグウ試料が太陽系形成や地球の起源研究へどうつながるのか
など、実際の研究内容をもとに解説されています。
 
印象的なのが宇宙風化の話。イトカワ粒子の表面に、ヒゲ状の金属鉄が形成される現象は、今回の発見内容とも通じるものがあります。
宇宙空間でも、地球へ帰還したあとも、試料は少しずつ姿を変えていく。その背景を知ることで、「なぜ試料を変化させずに扱う必要があるのか」がより深く理解できるはずです。

6. ニュースに触れることもまた、ゴールではない― 研究者の問いとその現場へ

大学の研究は、一つの発見で完結するものではありません。過去の研究が積み重なり、新しい疑問が生まれ、その答えが次の研究へとつながっていきます。
ニュースや発見の背景にある研究の積み重ねや、研究者自身の言葉に触れることができるのが、大学の公開講座のおもしろさです。
 
今回のニュースも、「京大知の森」で野口先生が語られた研究の延長線上にあります。
45億年前の宇宙からの"手紙"。その一文字でも多く"原文"を読み解こうとする研究者たちの挑戦。研究成果の裏側まで知ることで、宇宙探査がより身近に感じられるのではないでしょうか。
 
ニュースで知る。講座で深く知る。現場で体験する。
そんな体験を通して、一つひとつの情報も少し違って見えてくるかもしれません。
 
次の「京大知の森」は2026年12月に開催予定です。
さらに、全国各地の教育研究施設の公開イベント「京大ウィークス」を今年も開催しています。
最前線の研究者による講演や施設公開、体験など、大人から子どもまで研究の現場に触れられるイベントです。2026年度の参加募集も順次開始していますので、ぜひこちらもご覧ください!

▼公開講座 京大知の森について

▼京大ウィークスについて

(ヘッダ画像:生成AIで作成)

(このリポートの執筆者)酒井 惇史 / SAKAI Atsushi 成長戦略本部 統括事業部 主任。2013年京都大学卒業後、政府系機関にて国内・海外拠点での勤務を経て、2024年より京都大学成長戦略本部にて社会連携推進やスタートアップ創出支援等を担当。