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ボイスドラマ視聴紀行 #06

 今回ご紹介するのは、こひら みかんさんが企画されたボイスドラマ『【介護】あなたが眠る家【シチュエーションボイスドラマ】』です。
 なお、視聴を推薦されたのは、池谷夏子 役でご出演の水沢とおるさんです。元気ハツラツな職員さんとして、とても明るく出迎えてくれますよ!

 以下、文章表現の都合上、敬称略とさせていただく箇所が存在します。あらかじめご了承の上、本記事をお楽しみください。
 また、ボイスドラマを視聴・聴取した上で感想を書き進めるスタイルのため、あえて備考やクレジットを見ずに執筆している場合もございます。

 なお、本作は約38分の長編になります。
 このドラマには明確な切れ目がないこともありますが、個人的には一気に視聴・聴取することを強くオススメします。
 それ以前に、スタートしたら止められない系のボイスドラマですので、視聴する際はしっかりと時間に余裕を作ってからお聞きください。

 こひら みかんさんは、数多くのボイスドラマを制作されておられます。
 YouTubeに掲載されている作品だけでも、そのジャンルの幅広さは多岐に渡ります。フットワークが軽いのか、何でも形にしたくなるのか……この辺は類稀なる感性と想像力の持ち主としか言いようがありません。
 サムネイルとタイトルを追うだけのウィンドウショッピングでも、誰もが驚かされることでしょう。



作品を聞いた上での率直な感想

 最初にいきなり蛇足ですが、とても重要なので話しておきます。
 この作品を推薦された時、タイトルとサムネイルが見える状態でした。それを見て、私は直感的に「これは難しい作品が来たぞー!」と思いました。ここだけ見せられたら、そりゃ誰だってそう感じるでしょう……と思っていたのは、聴取を始める直前までのこと。

 聴取の5分も経たないうちに、私は恐るべきボイスドラマに出会ったことを痛感しました。心底「とんでもないモンを薦められたな」と思いました。

 皆さんもお分かりの通り、本作は現代劇です。
 しかし、この恐ろしいまでの没入感は「物語の題材が現代だから」なんて簡単な理由ではありません。聞き出して5分後、あなたも私が抱いた感情に辿り着くでしょう。

 簡潔に言うなら「介護に携わる全ての人々を描いたボイスドラマ」です。これ以上でもこれ以下でもありません。本作をシンプルに説明するなら、たったこれだけの文字数で済ませられます。
 しかし、恐怖すら覚える、あまりにもリアルなストーリーの奥行きは、その耳で聞かねば絶対にわかるまい。
 そして、そのままラストまでハマって終わる。その後に残る余韻は視聴者の心を打ち、各人の感想や思考という形で残響し続けるのです。

 その真の姿は「非日常と錯覚しそうだが、実はどこにでもある日常をリアルに描き過ぎたボイスドラマ」と評したいです。

実際の風景と水面に映る景色の境目を往く

恐ろしいまでのリアルは、どこで得たのか?

 ひとたび再生させた視聴者に向けて、徹底的に没入感を与えるための手段が数多く散りばめられています。これは企画段階で相当に考え抜いた上で、トコトンまでブラッシュアップしたのでしょう。
 介護の現場をしっかりと取材したのか、それとも実体験のクリアーな具現化なのか……本当にリアルな構成になっています。

 皆さんは普通のタクシーの運転手がご年配の方の手を引いたりしているシーンを見たことがあるかもしれません。しかし、原則的にタクシーの運転手は乗降の時ですら乗客の介助をすることは認められていません。
 例えば、車椅子の方が普通のタクシーを利用する場合、『車椅子は運転手がトランクに入れてくれますが、乗降は自力でお願いします』という流れが一般的なのです。
 高齢者や身体の不自由な方をサポートするためには、運転手が介護の資格を得る必要があるのです。

 送迎だけでなく、介護サービスも提供する場合は、運転手が介護福祉士などの介護関連の資格を取得しているか、介護職員初任者研修を受講していることが必要である。

「職業情報紹介サイト「jobtag」/ 介護タクシー運転手 / どんな仕事?」より抜粋

 物語の舞台は「特別養護老人ホーム」、通称「特養」です。
 基本的に「要介護3~5」と認定された方が利用する施設ですが、これは簡単に「自力で生活することが困難であり、何らかの介助が必要な方を指す指標」と捉えてください。
 しかし、どんな状態にあるのせよ、介護の現場では「日常生活に復帰することを目的とした介助支援を行う」という方針の元に動いています。
 ただ、とても言いにくいのですが、この段階まで来ると「回復の見込みは少ない」です。それでもなお、介護の現場がスクラムを組んで頑張っているのは「これ以上の悪化を避けるため」の措置であり、何よりも「いくら不便があろうとも、人間として生きていただくため」という信念があってこそなのです。

 上記した内容の詳細を、この作中においてはとても緩やかに、そして丁寧に説明されているので、違和感なくストーリーを追えると思います。ここは手放しに「制作者さんの配慮が非常に素晴らしい」と評すべき部分だと強く感じました。
 裏を返せば、このボイスドラマで描かれている物語は「ほぼ現実」なのです。つまり、皆さんは「聴覚的なバーチャルリアリティーの世界」に誘われたことになります。
 描きたい舞台の時代考証が秀逸なドラマがある一方で、ここまで圧倒的なリアルで今を描くドラマも存在する。しかもコレ、同人作品ですからね?
 この作品は、まるで「日本のクリエイティブはまだまだ終わっちゃいないよ?」とでも言いたげなド迫力を耳と心に響かせてくれます。

イヤホンやヘッドホンでお楽しみいただけます

声優の演技が、演技に聞こえない……

 この企画と脚本である以上、もはや演者さえも「本当にこの人、実在するよね?」という錯覚に陥ります。
 もちろん担当した声優さんはキャラを真正面から受け止め、演技プランを練ったとは思います。その結果として、全ての声が集まった末に「現実と非現実の間を漂うかのごとく、とても不思議な雰囲気が生み出された」のだと強く感じました。

 正直、序盤は「リーダーの中野明彦(CV:大森ショージ)が主人公だ」と思いました。前述した雰囲気は、中野というキャラから湧き出してくるといっても過言ではありません。この演技はよほど勉強されたのか、実体験しているのか……当然ながら、声優さんもリアルの形成には不可欠ですので、このチャレンジで得たモノは大きかったと思います。

 その後、若き新人介護士の木原翠(CV:望月なつ)が登場し、そのまま彼女が主人公として物語が描かれます。彼女の経験を通して、皆さんも介護のリアルな現場を知ることになるのですが……
 私は木原さんではなく、敢えて望月さんに語りかけたい。
 オールアップまで、本当によく頑張ってくれました。こんな一視聴者が生意気を言いましたが、ついでに一言。忘れ得ぬ熱演を、ありがとうございました。

 その他、施設のおっかさん(?!)である池谷夏子(CV:水沢とおる)、クールビューティーとして紹介された杉村明美(CV:永マツリ)、そして私たちを出迎えてくれた相談員の石田清二(CV:ミンク)……
 その誰もがこのリアルを構成した魅力あるキャラであり、素晴らしい声優さんたちです。私は池谷のおっかさん、スゲー好きです。

BGMが少ないので、特に演技が際立ちますよ!

ある人物の誤解を解く必要があると思い……

 このボイスドラマは圧倒的にリアルであるが故に、必ずしも綺麗事だけでは済ませてくれません。
 施設の面々を演じるのにもとんでもない難しさがあるのですが、その一方で月岡一家の演技もまた難しく、場合によっては辛かったろうと思います。

 声優だって人間です。
 そりゃ、依頼を引き受けたら、制作陣の納得する形によりよく収録するのが仕事なのは当たり前です。ただ、企画立案から脚本に至るまで、恐ろしいまでのリアルを突き付けられてもなお、粛々と月岡の一族を演じるのには迷いや戸惑いもあったのではないかと推測します。収録に挑む直前までのテンションも維持しなくてはならないので、プレッシャーもあったと思います。

 冒頭より登場する月岡勝江(CV:加藤ねい)のどこか素っ気なく冷たい態度に思うところのある視聴者もいるでしょう。夫・月岡誠(CV:おーたむ)は本音が完全に出ちゃってますし、弟の月岡亘(CV:くれは)は別の意味でリアルすぎてちょっと引くほどです。
 この3人の演技も称賛されるべきだと感じたので、私はここで明文化することにしました。

 しかし、月岡一家の描写や演技に対して、あらぬ誤解はしないで頂きたい。私が言いたいのは、実はここから先です。
 火中の栗を拾うかのごとき配役を見事にこなしてくださった声優さんに報いるべく、そしてこの展開を用意した制作陣に報いるべく、皆さんにお伝えしたいことがございます。

 それは「月岡一家もまた、施設関係者と同じく父を人間扱いしている」ということです。
 制作陣は物語における悪役をポッと出したかったのではなく、別の角度からこの事象を見つめる人間を出すべきと判断したから、このキャスティングをしたのです。そして、そのメッセージが「誰もが人間として見ている」ということだと感じました。

 息子たちの言い分や言い争いは醜く、決して激しい感情を抱いてのやり取りではありませんでしたが、あれは紛れもなく一時の感情であって、その場面のために切り抜かれたシーンに過ぎないのです。
 だって、施設の料金を支払ってるじゃない。自分が生きるのに精一杯じゃない。だから、自分たちにできる手を打った。フラットな目線で見れば、そんなのは一目瞭然です。口から出た言葉だけが真実ではないことは、皆さんもよくおわかりでしょう。

 人間は悲しいかな、大事なモノを失わないと理解できない生き物です。
 月岡の者たちは、いずれ何かに気付くのかもしれません。いや、気付かないのかもしれません。
 皆さんが聞いた彼らの言葉は、あくまで物語の中を揺蕩うリアルだった。そう受け取っていただけると、私も嬉しいです。

こういう注釈を書くほどにリアルな作品

総評「今をよりよく生きるために、本作は聞いてほしい!」

 今回の感想は非常に膨大で、途中で説教くさい文言もいくらか並んだと思います。皆さんの「長げーよ!」というご批判については真摯に受け止めます、どうもすみませんでした。
 ただ、そこまで語り尽くさせるだけの魅力を持った魔性のボイスドラマ作品……それが「あなたが眠る家」なのです。

 私はついに最後まで「ある事柄」について、できる限り言及を避けることができました。この記事を書く上で最も気にした部分は、感想が長くなることでも、一部の誤解を解消することでもありません。「ある事項を巧妙に隠した上で脱稿を果たすこと」が最大の目的だったのです。

 「何を隠してたか」って?
 それは聞けばすぐにわかりますよ。難しくも何ともない。
 もし、それを知ったなら、もう一度ここへ戻ってきてください。私はうまく書けてたかどうか、コッソリ教えてください。

 では、あなたも。いってらっしゃい。


クレジット(敬称略・リンクあり)

▢キャスト
 木原翠:望月なつ
 中野明彦:大森ショージ
 池谷夏子:水沢とおる
 杉村明美:永マツリ
 石田清二:ミンク
 月岡誠:おーたむ
 月岡勝江:加藤ねい
 月岡亘:くれは

▢スタッフ
 企画・脚本・音声/動画編集:こひら みかん

途中で止めるな! 最後まで聞くべし!

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