氷河期世代AD、テレビの片隅で。#4「良い人ばかりの芸能人、曲者ばかりのスタッフ」
初出勤の日のことを覚えている。
京王線だった。
初台駅から会社へ向かう朝の電車は、
びっくりするくらい混んでいた。
人と人が、
ほぼ一体化していた。
東北の田舎で生まれ育った僕には、
あんな満員電車は初めてだった。
「東京の人は毎朝これに乗るのか……」
と思った。
でも不思議と、
少し嬉しかった。
東京に来た感じがした。
僕が入った制作会社は、
芸人さんの番組を多く作っている会社だった。
スタッフは50人くらい。
同期は7人いた。
高校生クイズ王者。
20代なのに、
50代の相撲部屋の親方みたいな男。
モーニング娘。にいたら、
センターになれそうなくらい可愛いのに、
性格のキツさでもセンターだった女子。
個性的というか、
テレビ業界っぽい人間ばかりだった。
その制作会社は、
関西系の会社だった。
あるプロデューサーから、
こんなことを言われた。
「キミ、東北出身やから根暗やろ?」
なぜそうなるのかは、
今でもよく分からない。
関西の人は、
たまに“偏見こそ笑い”みたいな文化がある。
もちろん全員じゃない。
でも当時の僕には、
ちょっと独特だった。
他にも、
普通の会話でもすぐ、
「で、オチは?」
と言うディレクターもいた。
いや、
そんな毎日オチあるかいな、
と思う。
ちなみにその人の作るVTRには、
特にオチはなかった。
僕が思うに、
関西の人は新喜劇を見て育つので、
自分も面白いと思いがちなのかもしれない。
もちろん偏見。
でも、
サンドウィッチマンも、
狩野英孝も、
パンサー尾形も東北出身だ。
さらに言うと、
佐久間宣行さんも、
マッコイ斎藤さんも東北出身である。
だから別に、
東北は暗くないと思う。
たぶん寒いだけだ。
初めてのロケは、
商店街でおばさま方に街頭インタビューする企画だった。
詳しい内容は覚えていない。
テレビ業界には、
「今思うと何だったんだろう」
という企画が結構ある。
僕の仕事は、
商店街でおばさま方に声を掛け、
インタビューをお願いすることだった。
最初はかなり緊張した。
東京の人は冷たいと思っていたからだ。
でも実際は違った。
「お願いしまーす!」
と声を掛けると、
かなりの確率でおばさま方は立ち止まってくれた。
東京のマダムは優しかった。
あと、
みなさん意外とテレビに出たがっていた。
スタジオ収録にも行った。
当然、
芸能人もいた。
初めて見た時は、
かなりテンションが上がった。
「本物だ……」
と思った。
この前までテレビの中にいた人が、
普通に目の前を歩いていた。
でも不思議なもので、
1か月くらいすると慣れてくる。
人間は怖い。
よく、
「芸能人は裏では態度が悪い」
みたいな話がある。
でも僕は、
25年以上この仕事をしてきて、
本当に嫌な態度だった芸能人をほとんど見たことがない。
みなさん、
テレビのままか、
むしろテレビより優しかった。
嫌な人もいたと思うけど
そんな人は芸能界に
残れないと思うので
よく覚えてもいない。
こんなこともあった。
日本一有名な、あの占いの先生と、
打ち合わせをした時。
テレビでよく、
「ご先祖様を大事にしなさい」
みたいな話をしていた先生。
打ち合わせ中、
僕は先生に言った。
「ご先祖様の話、すごく分かります」
先生が少し驚いた顔をした。
なので僕は続けた。
「先祖がいなかったら今の自分もいないですし、
先祖あっての自分だと思うんです」
すると先生は、
「あら、若いのにわかってるわね」
と急に機嫌が良くなった。
でも本当にそう思っていた。
そして収録の日。
先生は僕を見ると、
「あんた頑張りなさいよ」
と声をかけてくれた。
ほんの一言だった。
でも嬉しかった。
もちろん「地獄に堕ちるわよ!」
なんて言われなかった。
こんなこともあった。
新人ADだった頃。
大物芸人の番組収録をしていた。
収録が終わり、
僕は台車に荷物を積み、
スタジオの片付けをしていた。
でも廊下には、
隣のスタジオの荷物が大量に置かれていて、
なかなか通れなかった。
どうしようか困っていると、
ちょうど隣のスタジオから、
国民的スーパーアイドルが出てきた。
そのグループの中でも、
“スーパースター”の
アノ人。
するとその人は、
立ち止まって僕を見て、
「通れない?」
と言った。
そしてすぐに、
隣の番組スタッフへ向かって、
「狭くて通れないから、
ウチの荷物もっと寄せて!」
と言った。
さらに僕に、
「ごめんね!」
と笑いながら言ってくれた。
別番組の、
名もなき新人AD相手に、
この対応。
全部がカッコよすぎた。
でも、
「ちょ、待てよ」
とは言っていなかった。
芸能人にはいい印象が多いけど
問題は僕の周りにいたスタッフだった。
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#5 「激ヤバ業界人と顔面凶器の優しいディレクター」
怒鳴られる毎日。灰皿が飛び、広辞苑で頭を叩かれ、
それでも必死に食らいついていました。そんな僕を救ってくれたのは、
顔は怖いのに誰よりも優しい、一人のディレクターでした。
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