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氷河期世代AD、テレビの片隅で。#11「無茶ぶりロケ!ガマガエル10匹、100万円のフェラーリ、そして3万円(自腹)のキャバ嬢」

AD時代。

無駄に深夜から始まる会議があった。

26時開始。

夜中2時である。

そこから朝まで7時間くらい。

でも、そんな会議に限って、

何も決まらない。

面白い企画も出ない。

ただ全員、眠そうな顔でタバコを吸っている。

たまに誰かが、

「なんかないかな〜」

と言う。

いや、それを考える会議では?

と思っていた。

たぶんディレクターたちは、

「深夜から会議してる俺」

カッコいいとか思っていたのだと思う。

ナルシストである。

しかも、

そういう会議のあとに限って、

急に思いつきが飛んでくる。

ある日の夜中1時。

ディレクターから電話が来た。

「明日のロケの罰ゲームでさ」

「ガマガエル10匹くらい用意しといて」

次の日のロケ開始は朝10時だった。

急すぎる。

というか、

ガマガエル10匹って、どうやって集めるのか。

コンビニ感覚で言わないでほしい。

僕は一瞬、

「今から千葉の田んぼとか行くのか……?」

と思った。

でもADは、

“無理です”

と言ってはいけない空気があった。

なので僕は、

いろんな制作会社のADに電話した。

夜中の1時に電話しても
普通に出てくれる、それがADだ。

すると奇跡的に、

最近、爬虫類ショップでロケをしたADがいた。

僕はその店の店主の携帯番号を聞き、

朝7時に電話した。

すると、

「ありますよ」

とのことだった。

マジか。

急いで店まで引き取りに行った。

でも、そこにいたのは、

僕の知っているガマガエルではなかった。

なんか、

やたらカラフルで、

絶対に毒がありそうな
外国のカエルだった。

でももう時間がない。

僕はそれを持ってロケ現場へ向かった。

するとディレクターは、

開口一番こう言った。

「なんだこの気持ち悪い色のカエル!」

「ガマガエルって言ったろ!」

いや知らん。

でも結局、

その“よく分からない外国のカエル”でロケは行われた。

テレビとは、そんな世界だった。


今思うと、

無茶ぶりはガマガエルだけではなかった。

ある日、

「100万円のフェラーリを探せ」

みたいな事をディレクターから言われた。

まず、

そんなものが存在するのか分からない。

でもADなので探す。

僕は片っ端から中古車屋に電話した。

「100万円のフェラーリありませんか?」

今思う。

失礼だったかもしれない。

案の定、

ほとんどの店で笑われた。

しかし、

ある店だけは違った。

ものすごく怒った。

「ふざけてんのか!」

「舐めてんのか!」

電話越しでも伝わるほど怒っていた。

そしてなぜか、

ディレクターと一緒に謝りに行くことになった。

場所は確か横浜方面だったと思う。

店へ行くと、

社長はまだ怒っていた。

僕は正直思った。

そんなに怒ることだろうか。

でも、

とにかく謝った。

すると社長は言った。

「じゃあウチの子を番組で使え」

どうやら芸能プロダクションのようなこともやっていたらしい。

結局、

その事務所の女性が番組に出ることになり、

なぜか話は丸く収まった。

テレビ業界には、

時々よく分からない解決方法が存在する。


こんなこともあった。

別の日。

キャバクラ嬢に、

有名人の裏話を聞く企画があった。

僕は出演してくれそうな女性を探していた。

するとある嬢が聞いてきた。

「で、出たらいくらもらえんの?」

当然の質問だったと思う。

僕は上のディレクターに確認した。

すると返ってきたのは、

「ギャラなんて出せるわけないやろ」

だった。

さらに、

「なんとかせえよ」

とも言われた。

まるで、

“テレビに出してやる”

みたいなスタンスだった。

いや、

お願いしているのは、こっちである。

こんなスタンスだからテレビは嫌われる。

最近、「テレビマンはなぜ転職市場で評価されないのか?」みたいな事を
書いていた放送作家がいたが、

そりゃ、評価されるわけない。

話は戻る。キャバ嬢の有名人暴露の
ロケ日は決まっていた。

だから僕は、

自分の財布から3万円を出した。

ADの給料15万円時代である。

かなり痛かった。

でも、

「これでお願いします」

と言うしかなかった。

嬢は普通に喜んでいた。

たぶん、

ボロボロのAD個人が払っているとは、

思っていなかったと思う。

放送後、

ちょっとした事件もあった。

番組では、

暴露される有名人の名前は出さない。

代わりに、

「人気俳優」

とか、

「大物ミュージシャン」

とか、

ヒントだけを出す。

その回では、

「高音ボーカリスト」

というヒントを出した。

すると放送後、

ある事務所から電話が掛かってきたらしい。

「本人が放送を見たんですけど、

あの高音ボーカリストって、

うちの〇〇のことですよね?」

結構怒っていたらしい。

するとプロデューサーは、

「ああ、違います違います。

あれは別の高音ボーカリストの✖️✖️さんです」

と説明した。

相手は、

「なんだ、そうなんだ」

と言って納得したらしい。

今考えると、

何も解決していない気もする。

でも、

当時のテレビは、

演者さんもスタッフも、

今より少し大らかだった。

たぶん、

みんな今ほど怒っていなかったのだと思う。

今思うと、

あの頃のADは、

制作スタッフというより、

テレビ業界の“緩衝材”だったのかもしれない。

上の無茶と、

現場の現実の間に立って、

全部なんとかする役だった。

そして、

なんとかできてしまうADほど、

辞められなくなるのだと思う。

でも僕はだんだん嫌になってきていた。。。


#氷河期世代  
#創作大賞2026   #お仕事小説部門


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