氷河期世代AD、テレビの片隅で。#12「線路側を歩けなくなった僕が消費者金融で5万円を借りたわけ」
制作会社Aに出向している中で、
僕は少しずつ疲れていた。
いや、
たぶんかなり疲れていた。
でも当時は、
それが普通だと思っていた。
寝ていない。
家に帰れない。
怒鳴られる。
殴られる。
BB弾が飛んでくる。
そういう毎日だった。
ある日、
田中が言った。
「今日飲み行くぞ」
スタッフ数人で、
歌舞伎町のゲイバーへ行くことになった。
店には、
オネエさまたちがいた。
みんな明るくて、
接客も上手かった。とにかくトークがおもしろい。
たぶん、
普通に飲みに行けば楽しい店だったと思う。
でもその日は、
少し空気がおかしかった。
酒が回った田中が、
僕を指差して言った。
「お前、三郎さんにしてもらえや」
三郎さんは、
その店で働いている人だった。
元気が出るテレビに出ていた
日出郎さんみたいな感じの人。
僕は困った。
というか、
三郎さんも少し困った顔をしていた。
しかもその頃の僕は、
何日も家に帰れていなかった。
当然、
風呂にも入っていない。
僕が戸惑っていると、
田中は笑いながら言った。
「サランラップ巻けばええやろ!」
何が「ええやろ!」なのか、
今でもよく分からない。
でも当時の僕は、
逆らえなかった。
僕はサランラップを巻いた。
三郎さんも、
断ることができず
申し訳なさそうな顔をしていた。
気まずかった。
誰も幸せになっていなかった。
当然、
全く気持ちよくもなかった。
というか、
僕は全然反応しなかった。
すると田中が言った。
「しらけるわ、おもろないねん」
たぶん、
あの場にいた誰も、
面白いとは思っていなかった。
店を出たあと、
歌舞伎町の街を歩いた。
歌舞伎町はいつも通りネオンが輝き明るかった。
でも僕は、
なんだか急に疲れてしまった。
この頃から、
少しずつテレビ業界が嫌いになりかけていた気がする。
というより、
自分が壊れ始めていたのかもしれない。
駅のホームでは、
なるべく真ん中を歩くようにしていた。
線路側を歩かない。
ふとした瞬間、
頭の中に変な考えが入ってくる気がしたからだ。
もし線路側を歩いたら、
自分で自分を押してしまう気がした。
だから避けた。
無意識に、
自分で自分を守っていたのだと思う。
でも当時の僕は、
そんな自分の異変にも、
あまり気づいていなかった。
そんな毎日を送りながらも、なんとか暮らしていた。
冷凍弁当を駆使しながら。
その日、消費者金融のATMの前にいた。
初めてお金を借りた。五万円。
機械から簡単にお金が出てくる。
気をつけないと、クセになりそうだと思った。
五万円を財布に入れて、新宿へ向かった。
待ち合わせ場所には、母とおじいちゃん、おばあちゃんがいた。
祖父母が僕に会いたいと言って、母が東北から連れてきてくれたのだ。
祖父母は農家だった。
二人とも、手がゴツゴツしていた記憶がある。
東京で暮らす僕を心配し、
よく米や野菜を送ってくれた。
小学生の頃、夏休みになると毎年泊まりに行った。
僕が行くと、祖父母はすごく喜んでくれた。
ファミコンソフトを買ってくれた。
スーパーマリオも祖父母に買ってもらった。
もしかしたら僕は、ゲームが欲しくて泊まりに行っていたのかもしれない。。。
その日、新宿で寿司を食べた。
高級店ではない、普通の寿司屋だった。
久しぶりに会う、おじいちゃん、
おばあちゃんは、少し小さく見えた。
「とにかく無理すんな」
二人とも、そればかり言っていた気がする。
会計の時、僕は消費者金融で借りたお金で支払った。
祖父母に、東京で頑張っている姿を見せたかったから。
おじいちゃんもおばあちゃんも、
すごく喜んでくれた。
後日、母から聞いた。
おばあちゃんは友達に、
「孫に寿司をご馳走してもらった」
と、ずっと話していたらしい。
おじいちゃん、おばあちゃん、ごめん。
あれ僕のお金じゃないんだよ。
疲れ切っても、家族の前では
東京で頑張る姿を演じていたと思う。
でも、もう限界が近かった。
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