ウクライナ危機で威力を増す「移民兵器」
Foreign Affairsの3/4月号に「When Migrants Become Weapons」(https://www.foreignaffairs.com/articles/europe/2022-02-22/when-migrants-become-weapons)という記事が掲載されている。あまり知られていないが、長い歴史を持つ「移民兵器」についての話だ。
追記 日本語版も発売された。「フォーリン・アフェアーズ・リポート 2022年4月号」
「移民兵器」とは、武装化した移民という意味ではなく、なんらかの方法で相手国に移民を送り込むと脅しをかけて、相手国を譲歩させたり、協力や支援を取り付けたりすることである。最近では、ウクライナの隣国のベラルーシがイラクとシリアのクルド人、アフガニスタン人など数千人の亡命希望者をEUに行きやすいと誘い、専用のビザを発行して、ベラルーシにおびき寄せ、西部国境連れて行ってに置き去りにした。冬が近づくと残された者はラトビア、リトアニア、ポーランドに助けを求めて移動しようとするが、ラトビア、リトアニア、ポーランドの国境警備隊は催涙ガス、水鉄砲、ゴム弾を使用し、自国に入ろうとする人々をベラルーシに押し戻そうとした。ベラルーシのルカシェンコ大統領は、その行いを非人道的と非難した。ルカシェンコを批判し、制裁を加えた各国への意趣返しと、国内分裂が狙いだったと考えられている。
記事によれば、1951年の難民条約ができて以来、少なくとも81回移民兵器が使用されており、半数以上は成功し、4分の3では目的を部分的に達成したという。制裁措置や、部分的な戦争、強制的な外交の成功率が40%程度であることを考えると、きわめて高い成功率だ。しかも、移民兵器の人数や相手国の能力とは関係ない。むしろ大規模の場合は、失敗しやすいようだ。
そのターゲットは民主主義を掲げ、人道を謳うヨーロッパとアメリカだ。難民条約ができてからアメリカのほぼ全ての政権に対して、移民兵器が使用された。
1994年、亡命したハイチのアリステッド大統領は、多数のハイチ人を動員して海からアメリカに行くと脅して、アメリカの支援で大統領に復帰した。また、1980年代初頭、パキスタンの指導者ムハンマド・ジアウル・ハクは、核兵器開発に対する反対を止めるなど、様々な譲歩と引き換えに、当時300万人いたアフガニスタン難民を自国で受け入れることにした。
移民兵器への対策は簡単で、移民を受け入れればいいだけのことである。数十人、せいぜい数千人の移民なら欧米の多くの国が毎年受け入れている移民全体から比べてわずかな割合に留まる。しかし、国内の移民排斥感情などそれを阻害する要因がある。もうひとつの方法は他の国に代わりに受け入れてもらうよう交渉することだ。
記事でははっきり言及していないが、移民兵器になりうるのは、欧米以外の国からの移民だけと考えられる。取り上げれている事例はすべてそうだし、今回のウクライナ危機で大量のウクライナの人々を各国が受け入れていることからもわかる。
今回、ウクライナからの移民を大量に受け入れたことで、これまで欧米以外からの受入を渋っていた態度に疑問の声が出ている。ウクライナ移民の受入に際して、関係者が不注意な言葉を漏らしたことも影響しているだろう。
大量のウクライナ移民を受け入れたことと、欧米以外からの移民の差別的な排除が明るみに出たことで、移民兵器の意味と威力があがる可能性が高い。欧米が欧米以外の移民への差別意識をなくして受け入れる可能性は低そうだ。
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