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理由のない日、王子駅でコーヒーを飲む

今日は、どこかに行く理由が特にない日だった。
王子駅で降りた。
コーヒーを飲む場所だけは、決めていた。

京浜東北線のホームを出ると、王子駅は思ったよりも生活の匂いがする。
乗り換えの駅で、路線も多い。
それなのに、駅前はどこか落ち着いている。

東京で、いまも路面電車が当たり前のように走っている。
都電荒川線は、観光用という顔をしていない。
ちゃんと、生活の足として、そこにある。

ガード下を抜けると、急に空気が変わる。
不動産屋、豆腐屋、古本屋。
どれも派手ではないけれど、
「ここで暮らしている人」が見える店だ。

北区は、たしかに地味かもしれない。
でも、暮らしの輪郭がはっきりしている。
居酒屋も町中華も、特別な説明を必要としない。

コンビニで、缶ボトルのブラック無糖を買った。
飛鳥山公園のベンチに腰を下ろす。
少し冷たい風が、冬の終わりを知らせている。

2歳くらいの男の子と、若いお母さんが遊んでいる。
都内でも、こういう時間がちゃんと流れている場所がある。
それだけで、少し安心する。

飛鳥山の桜は、きっと何百年も前からここにあった。
建物は変わり、人は入れ替わる。
変わってきたのは、街ではなく、
「時間の感じ方」なのかもしれない。

西日が長く影を落とし始めた。
そろそろ、戻ろうと思う。
京浜東北線の大船行きが、静かにホームに入ってきた。


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