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JR町田駅と横浜線の人の流れ──ゼルビアの旗が揺れる街で見た通勤と境界の風景

 横浜線 の車両が減速し、ホームに滑り込む。
 扉が開くと同時に、人の流れが一方向へと動き出した。押されるようにして外へ出る。

 町田駅 のコンコースは、朝でも夜でもない時間帯にもかかわらず、すでに混雑していた。頭上にはサイネージがいくつも並び、絶えず映像が切り替わっている。
 化粧品、転職サービス、不動産、スマートフォン。何かしらの広告が流れていたはずだが、不思議と一つも思い出せない。

 視線は確かに向けていた。だが、何も残っていない。
 自分がターゲットではない広告というのは、こういうものなのかもしれない。

 人だけが、はっきりと残る。


 改札を抜けると、流れはさらに複雑になる。
 小田急小田原線 への乗り換え口へ急ぐ人、そのまま外へ出る人、立ち止まってスマートフォンを見ている人。

 町田は東京だが、どこか神奈川の匂いが混じっている。
 言葉にできる違いではない。歩く速さや、店の並び方、空気の抜け方のようなものだ。

 二つの路線が交差することで、二つの生活圏が重なっている。
 どちらにも属しきらない感じが、なぜか落ち着く。

 自分もまた、どこかに属しているわけではない。


 コンコースの一角に、FC町田ゼルビア の旗が並んでいる。
 青を基調にしたその色は、人の流れの中でもはっきりと目に入った。

 町田のチーム。
 最近、強くなっているらしい。

 詳しくは知らないが、「強くなっている」という事実だけは、どこかで耳にしていた。
 それだけで十分な気もする。

 勝つことよりも、ここにあること。
 この街に、応援される対象があること。

 自分には、そういうものがあっただろうか、と考える。
 思い出そうとするが、うまく形にならない。


 改札前のスペースに立ち、人の流れを眺める。
 スーツ姿の男、リュックを背負った学生、買い物帰りらしい人。誰もが、どこかへ向かっている。

 町田から都内へ通うのは、決して近くはない。
 それでも、毎日同じ時間に電車に乗り、同じ方向へ向かう。

 その繰り返しの中で、何かを積み上げていく。
 疲れている顔もあるが、足取りは止まらない。

 自分も、かつてはこの流れの中にいた。
 どこへ向かっていたのか、今となってはうまく思い出せない。

 ただ、止まらないことだけが、重要だった気がする。


 少し人の少ない場所へ移動し、壁際に寄る。
 カバンを開けて、ボトルのコーヒーを取り出す。ブラック。

 キャップをひねる。
 一口飲む。

 苦味はあるが、温度は一定で、感情の入り込む余地がない。
 コンビニで買った、ただのコーヒーだ。

 それでも、手に持っていると、少しだけ落ち着く。

 改札の向こうでは、相変わらず人が流れ続けている。
 どこから来て、どこへ向かうのか。

 さっきまで外に向けていた問いが、そのまま自分に返ってくる。

 自分は、どこへ行くのか。

 答えは出ない。
 だが、急ぐ理由もない。

 もう一口飲む。
 コーヒーの量が、わずかに減る。

 それだけのことが、今はちょうどいい。

 町田の流れの中で、自分は立ち止まったままではあるが、完全に取り残されているわけでもない気がした。

 今日は、ここまででいい。


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