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老いと性。川上未映子『花瓶』

こんにちは。今回は川上未映子『春のこわいもの』より『花瓶』を紹介します。川上未映子は『すべて真夜中の恋人たち』しか読んだことないのですが、これはラストのスピード感と引き込みがすごくて印象に残っています。最近では英米で『黄色い家』が刊行されとても話題になっていますね。

川上未映子という作家は不思議な作家で、まるで生々しい肉体の、人の体温を感じるような文章を書いていると思います。私の母語が日本語だからというのもあるかもしれませんが、肌の生ぬるい温度を彷彿とさせる文章を書く作家です。

『花瓶』ではある老人の一人称で物語が展開します。彼女はもう死にかけており、おそらくベッドで一日寝て過ごしていると推測されます。彼女は家政婦がどんな性交をするのか想像し、そして自分自身の過去の性交を思い出します。そして彼女は家政婦にあなたを見ていると若い時のことを思い出す、と言います。

この話で印象的なのは、やはり夫ではない人と性交し家に帰って鏡を見ると唇が真っ赤に染まっていたというところです。唇の赤さはまさに性交のエネルギー、生々しい肉体の接触の象徴のように描かれています。

彼女は彼の肉体がまだこの世にあるのか、あの日々が残っているのか気にします。彼女は彼との性交でいつも帰りは死にたくなったと言いますが、その死にたさよりも生き残った何かがあるのか、と思います。

死にゆく人が思い出す、官能の記憶。全てが終わりつつあるからこそ、その記憶は生々しさよりも郷愁に満ちたものになります。ガーゼのように軽やかに体を包み込む記憶。私自身も死ぬ前には何を思い出すんだろうとふと思いました。


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