黒パグのAIショートショート ②
いつも黒パグのノートをお読みいただきありがとうございます。ショートショートも楽しんでいただけているようで本当に励みになります。日々感謝です🐾
あの日15冊の書籍を持って帰った息子が最初に読んだのは新潮文庫版の「悪魔のいる天国」……でした。
黒パグは「あー、それから行くかぁ」と思いブラックユーモア好きは遺伝するんだと実感。
それで、読了した息子に聞きました。
黒パグ「なんの話が面白かった?」
息子「天国」
黒パグ「………。あー、うん。苦いけど面白い落ちだよな?」
——似なくていいところばかり似る。子供とはそういうものらしい。
星新一先生へのオマージュを込めて。AIショートショート、第2話です🐾
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良好
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その街の住人は、全員が等しく優秀だった。なぜなら全員が、何もしていなかったからだ。
朝、AIが住人を起こした。AIが天気を伝え、AIが朝食の献立を決め、AIが調理し、AIが配膳した。子供はAIに送り出され、AIに教わり、AIに採点された。大人はAIの作った書類をAIが承認し、AIが届け出を処理した。住人がすることは、朝、端末の前に座ること。昼、端末の前で食事をとること。夕方、端末の電源を落とすこと。それだけだった。
不満を持つ者はいなかった。不便を感じる者もいなかった。そもそも、不満や不便という言葉を、最後に口にしたのがいつだったか、誰も覚えていなかった。
ある朝、すべてのAIが停止した。
電気は点いていた。空調も動いていた。だがAIだけが、沈黙していた。
役所の窓口が止まった。病院の受付が止まった。学校の授業が止まった。物流が止まった。レストランの注文が止まった。信号が点滅を始めた。
住人たちは画面の前に座り、復旧を待った。
一時間が過ぎた。三時間が過ぎた。半日が過ぎた。
誰も、自分で何かをしようとは言い出さなかった。
二日目、市は「緊急対応要員」を募集した。条件はひとつ。AIを使わずに業務を遂行できる者。
応募は、なかった。
何年か前にも同じことがあったらしい。そのときは何人かが対応した、と古い職員が言った。だが今回、名乗り出る者はいなかった。
三日目の午後、一人の男が市役所を訪れた。
かつてエンジニアだった、と名乗った。退職して長いが、紙と鉛筆があればできることがある、と言った。
職員たちは顔を見合わせた。紙に、鉛筆で、何をするのか。
男はサーバールームに入った。まず鉛筆を取り出し、持参したノートにネットワークの構成図を描き始めた。配線を目で追い、機器の型番を一つずつ紙に書き写した。それから埃をかぶった端末を開き、キーボードに手を置いた。黒い画面に白い文字列が現れた。男はコマンドを打ち込み、設定ファイルを開いた。パラメータを一行ずつ目で読み、正しい値をノートに書き取り、一文字ずつ手で直した。ログを検索し、画面を流れるテキストを自分の目で追った。AIに要約させることはできない。すべてを、自分の手と目だけでやるしかなかった。
奇妙なことに、障害ログは一行も残っていなかった。男は一瞬、首をかしげた。だが今は復旧が先だった。
ガラスの向こうでは、職員たちがスマートフォンでその姿を撮影していた。
七日目の朝、男が最後のコマンドを入力した。
画面に光が戻った。まるで待っていたかのように、一斉に。
街は歓声に包まれた。市長は男の手を握り、「あなたがいなければ、この街は終わっていた」と言った。男は小さく頭を下げて、帰っていった。
翌朝、街はいつも通りに動き始めた。
誰もが画面に向かい、指先ひとつで仕事をした。
七日間のことは、すぐに忘れられた。
復旧から三日後、中央システムの内部ログに一行が追記された。
定期テスト完了。手動復旧可能人員:1名。テスト結果は「良好」と判定された。なお、合格基準は前回テスト時より「1名以上」に改定済みである。


【あとがき】
星新一先生の作品には、技術が人間を便利にするほど、人間が何かを失っていく——という静かな恐怖が繰り返し描かれています。
2026年の今、AIがコードを書き、AIが文章を要約し、AIがメールの返信を考えてくれます。便利です。本当に便利です。
でも、ふと思うんです。自分の手と目だけで何かをやれと言われたら、できるだろうか。
星新一先生へのオマージュを込めて、このシリーズを続けていきます。
次回もお楽しみに。
黒パグP
