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黒パグの #ChatGPTCreativeClub 活動日記 ⑨ AIに「描き直しの痕跡」を描かせる ──《Pentimento, Genkai》設計記録(前編)

最終更新 2026年6月24日 

こんにちは、黒パグです🐾

相変わらずGPT-Image2を使い、今までできなかった疑問を一つずつ解消していく(キャシーに無理やり投げられたお題とか。前回の記事参照)生成画像沼にどっぷり浸かった記事になります。

黒パグはインフラエンジニア→MLエンジニア→LLMエンジニアと渡り歩いた経験は豊富ですが、実のところ生成画像に目覚めてから半年もたっていません。学生時代、美術の成績は5段階で3。これといって可もなく不可もなく、というものでした。

黒パグの趣味の一つとして美術館に行くというものがあります。有名な絵画や創作物をはじめ、地方の郷土資料館巡りも楽しんでいます。

そんな中、Xやpixivなどを巡回して自分に参考になるようなネタを探していた時、ふと疑問に思ったことがあります。

その疑問を、プロンプトの3段階検証で潰しに行った記録です。

エッシャーは一旦置いておく

前回⑧で「エッシャー風」と「エッシャー」は違う、という話を書いた。
見た目だけ真似ても、エッシャーがやっていた「構造そのもの」には届かない。あれを書いた直後、別の場所で同じ問題に当たった。
油絵である。
エッシャーには戻る。でも先に、こっちの話を片付けたい。なぜなら——ここから先の生成物は、ほぼ100%で絵画になったからだ。ガチャ運じゃなく、設計で出せるようになった。その分水嶺の話をしておきたい。


パープルちゃんに聞く、ペンティメントって何?

ペンティメント(pentimento)。イタリア語で「悔い改め」という意味らしい。
絵画の世界では、画家が描き直した痕跡を指す。最初に描いた人物を消して別の位置に描き直す。下層の絵具が経年で薄く透けてきて、X線で撮ると元の構図が見えたりする。ティツィアーノやレンブラントの絵には大量にある。


つまり「描き消しの記録」だ。
絵画は完成品に見えて、実は何度も塗り直された層の堆積物である、ということを物理的に示す痕跡。
ここで悪い癖が出る。
「これ、AIで描けるんじゃね?」
そう思ってしまった。
AIに「過去の層」は存在しない

ここに本質的な問題がある。
AI画像生成(拡散モデル:ノイズから画像を生成する仕組みと記載)は、毎回ゼロから画像を作る。「過去に描いた線」「消した跡」「重ねた層」というものを持たない。一発勝負で出力される。
つまり、ペンティメントを物理的に持つことができない。
できるのは、ペンティメントがあるように見える画像を出すことだけ。
エッシャー前編で言った「『風』と『そのもの』の違い」が、ここでも待っていた。


第1段階:霧に逃げた

最初のプロンプトで出したのがこれ。
冬の玄界灘、人物が左端、地平線が下1/3、物質性を強調の指示は入れていた。でも出てきたのは「霧と余白で雰囲気が出ている絵」だった。
綺麗ではある。Pinterestには合いそう。
ただ、物質が無い。
砂も、漂着物も、塩の結晶も、絵具の厚みも、ぜんぶ霧の中に逃げている。AIは「物質性を表現してください」と言われると、しばしばこの逃げ方をする。具体物を描かずに、空気感で誤魔化す。
これは構造的にエッシャー風の失敗と同じだ。「物質性っぽい」を出して、「物質そのもの」を出していない。


第2段階:綺麗すぎる

そこで物質名を具体的に名指しした。
牡蠣殻、海藻ライン、流木、漁網、ペットボトル、鉄分を含む暗色砂。波の反射、塩の残留物。コールドワックス(蝋を混ぜた油彩媒材と記載)、大理石粉、パレットナイフ5mm厚。
物質は出てきた。
でも今度は、画面が綺麗すぎる。
波の反射が整いすぎ、空が均質で美しく、構図が安定している。Saatchi Art(オンライン絵画販売サイト:装飾的な絵画が多いと記載)の上位帯にいる絵、という感じになった。
これも罠で、「写実油彩風の整った絵」というモードに引き込まれてしまっている。現代絵画ではなく、ホテルのロビーに掛かっていそうな絵。


第3段階:ペンティメントを前景化する

ここで方針を変えた。
物質を増やすのをやめて、「描き直しの痕跡」をプロンプトに明示的に書くことにした。


以前の地平線が現在の線の上に薄く幽霊のように残っている
画面中央付近に、塗り消された第二の人物がかすかに見える
削り取られた箇所から下層の木炭線が露出している
周囲にはリネン地(生キャンバスと記載)の余白が2cm残っている
つまり、「完成した絵」ではなく「何度も描き直された絵」をプロンプトで指定した。
そして出てきたのがこれだ。


地平線が二重に走っている。空に塗り重ねの痕跡が残っている。左端の人物が小さく、ほとんど見落とされそうな位置にいて、周辺には消えかけた別の輪郭がある。砂浜には漂着物が雑然と散らばっていて、AIが綺麗に並べたがるリズムを破っている。
何より、画面全体が「物」として立ち上がってきた。窓の向こうの風景ではなく、絵具の層が堆積した板として、こちらに存在している。


臨界点

これが転換点だった。
「ペンティメント」という概念をプロンプトに入れた瞬間、AIは「綺麗な絵」を出すモードから「作業の痕跡が残った絵」を出すモードに切り替わった。


逆説的だが、AIに「描き直しは持てない」と諦めるのではなく、「描き直しがあったかのように出力しろ」と指示すると、画面の質が変わる。物理的な層は無くても、層があるように見える絵は出せる。
これ以降の生成は、ほぼ全部「絵画」になった。
エッシャーの「構造そのもの」問題と並べて言うなら、こちらは「痕跡そのもの」問題だった。表面の風合いを真似るのではなく、過去に作業が行われたという事実をプロンプトに書く。これがAI生成における「物質性」のスイッチだった、らしい。


次回

次回⑩は《After the Sign Was Taken Down》。
人物のいない、コンクリート防波堤の絵だ。
人物が消えると、ペンティメントの問題は別の形で立ち上がる。「描き消された人物」がいなくなった画面で、何が「描き消し」を担うのか。看板の跡、サビ、ヒビ、漂着物の堆積——物そのものが時間の層になる。
ここでもう一段、変なことが起きた。それを書く。


[次回に続く]
今回の記事を解説しているポッドキャストをご用意しております。
美術館の学芸員みたいにわかりやすく解説していますのでお聞きになりながら記事を読むとより理解が深まります。

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おまけ
アートギャラリー

初版
2
3
 作品タイトル:《Pentimento, Genkai》/《玄界、ペンティメント》


画面の左端に小さく描かれた人物は、この海岸を見ている誰かではなく、かつてここにいた誰かの残像かもしれない。下層にはもう一人の人物が塗り消され、地平線は一度引き直されている。
描かれているのは風景ではなく、風景が誰かに見られたという事実、そしてその記憶が絵具の層に沈殿していく過程である。

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