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徹夜で巡礼25km | 「面白がる」が人と街をステキに動かす

2025年8月9日、私は夜9時から明け方まで、八人の仲間たちと25kmの道のりを徹夜で歩き続けました。

これは「十十王申す2025~失われた磐城平の巡礼」という、江戸時代の風習を現代に蘇らせる、ちょっと変わった企画。主催者である江尻浩二郎さんが、古い文献を手がかりに、かつて若者たちが行ったという「十王堂」巡りを再現しようという試みです。

なぜ、そんな過酷とも思える企画に心惹かれたのか。そして、その道中で何に感動したのか。今回は、その忘れられない一夜についてお話しします。


「十十王申す」という謎プロジェクト

まずは「十十王申す2025~失われた磐城平の巡礼」がどんな企画か、イベントページからそのまま引用します。

「十十王申す(とじゅうおうもうす)」とは聞き慣れない言葉だと思いますが、大須賀筠軒「磐城誌料歳時民俗記」に、江戸時代の「念仏踊り」について以下のような内容の記述があります。
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村里から鉦太鼓で老若男女がまじり、14、5人連れで城下へくる。神社仏寺を廻って念仏踊りをする。町家新盆の家の前で踊る。また呼び入れて念仏させる家もある。町々を巡り、夜深まって村里へ帰る。若輩の男子は鉦太鼓を打ち鳴らし、十王堂十か所を巡る。これを十十王申す(とじゅうおうもうす)という。
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周辺の村々から御城下に押し寄せた老若男女の混成ジャンガラチームは、町場の新盆の家々で踊り狂ったあと、若輩の男子だけが帰らず、おそらく夜を徹して10か所の十王堂を巡礼しました。
思うに浄土教が盛んであった磐城地方にはたくさんの十王堂があり、決まったコースがあったわけではなく、それぞれ思うままに10か所の堂を選んで巡ったと想像しますが、古い文献に残る十王堂や現存する十王堂の中から、城山を大きくぐるりと廻るような場所を10か所ピックアップし、お盆近くの月夜を選んで何度か歩いてきました。これを「十十王申す復活プロジェクト」といいます。(中略)あまりの過酷さに出入り自由としています。物好きな方、月夜の磐城平を歩きましょう。一区間でも、いや、ほんのちょっとでも。
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日時:2025年08月09日(土)21時〜
所要時間: 8時間程度
出発場所:じゃんがらからくり時計下(Guest House & Lounge FARO iwaki 前)
出発時間:21:00
終了予定時間:05:00頃
参加費:なし
定員:なし
※当日は満月です。雲がかかっていなければライトが要らないほど明るいかと思います。

福島県いわき市には「じゃんがら念仏踊り」という新盆/初盆を迎えた家を供養するための伝統芸能/文化があります。

企画した主催者である江尻浩二郎さんによると、江戸時代は新盆/初盆を迎えた家で念仏踊りをしたあとに、若い男子だけが帰らずに、「十王」が祀ってある「十王堂」を10箇所、夜を徹してまわっていた。江尻さんによる長年&驚異のリサーチで、現存するものや過去の文献から、ご城下周辺の10箇所を特定できたから、満月である旧暦のお盆の夜に、江戸時代のようにその10箇所を歩いてみましょう。というのが、「十十王申す2025」です。


わざわざ「松の木」を用意してくれて

夜9時スタートですが、8時からプレイベントとして「じゃんがらカラクリ時計の下で、焚き火を囲み、かつての磐城平のお盆を感じる会」がスタート地点で開催されました。

「十十王申す」の出発までの1時間、じゃんがらカラクリ時計の下で焚き火を囲みます。「一度来てみな磐城の平、まちは火の海、人の波」と唄われた磐城平。大須賀筠軒「磐城誌料歳時民俗記」の中の短いテキストをヒントに、かつてのお盆の情景を感じてみます。焚き火だけの参加ももちろん可。21時から「十十王申す」を歩く方はこれを知ることで数倍楽しめること請け合いです。

イベントページより引用
プレイベントの様子。カメラを持っている方が北林さん。


お店の前のスペースで、焚き火の許可も取ってくださった上に、焚き木の用意まで全てしてくださったのが、「Guest House & Lounge FARO iwaki」の北林さん。


それだけでも感謝、感謝なのに、この焚き木わざわざ「松」の木を用意してくださってました。というのも、今回の企画の発端となった大須賀筠軒「磐城誌料歳時民俗記」という文献に「松の木」と書かれていたから。

右から5行目「松木を井桁の形に積み重ねる」と書かれている。
左5行が、十十王に関する記載。最後の一行に『これを"十十王申す"と言う」という一文。
で、2025年、令和の時代に、松の木を井桁の形に積み重ねてみてる


これ、「優しい」を飛び越えてませんか?「優しい人ですね」で片付けられない所業じゃないですか。言葉が適切かわかりませんが、この企画を心から「面白がって」くれているから、ここまでしてくださったのではないかと思うんです。北林さん、本当にありがとうございます。本当にサイコーです。

スタート&ゴール地点であり、北林さんのお店「Faro」。「灯台」の意味。いわき平の希望の灯り。

ステキなやさしさ×面白がってくださる北林さんに見送られ、「十十王申す」、出発です!


夜中12時にお寺を開けて、待っててくれて

ここからは、江尻さんがSNSに投稿した写真と時間をもとに道中の様子をお送りしていきます。

21:45頃 一箇所目:長興寺
22時頃 二箇所目:霊山寺跡
22:15頃 三箇所目:飯野八幡宮、十王堂跡

そして、四箇所目である九品寺に到着したのは、ちょうど夜中12時頃でした。九品寺に到着すると、本堂とトイレのある会館に電気が点いている上に開いている。なんとなんと、住職である遠藤弘道さんご自身がお出迎えしてくださったんです!!!

「お盆直前の準備があって、起きていたものですから」と仰られていましたが、「十王に関するイベントということで、通常はお彼岸の時のみ出す掛け軸を掛けておきましたので、どうぞご覧ください」と続きます。その言葉を聞いて、私は確信しました。「これは、"お盆準備のついで"ではない」と。

(左)九品寺・専称寺住職:遠藤弘道さん (右)江尻さん
遠藤さん、現在、クラファン中です。よろしければ是非↓

今回の企画、江尻さんがSNSで発信/募集しただけで、無料ですし、事前申し込みもありません。なので江尻さん自身、誰が参加するか/何人参加するかスタート時点まで分かりません。自分がやってみたいから歩く。それでいい。だけど、もし誰か参加したければ、どうぞ。という感じなので、参加者がいようがいまいが、事前に分からなかろうが、本人的には全く問題ない。

そもそもが、そんな企画ですよ。仮にお盆の準備で起きてるからといっても、何時に何人来るかも分からない、本当に来るかも分からないイベントに対して、本堂と会館を開けて待っていてくださりますか?!

百歩譲って、住職ですから、めちゃくちゃ徳のある、超やさしい人だから、開けて待っていてくれたとしましょう。でも、そこまでです。十王の10枚の掛け軸を、お盆直前の忙しい時期に掛けて準備してくれるのは、やさしさの範疇を超えています。

掛けてくださった十王の掛け軸

このおもてなしも、やはり「やさしさ×面白がる力」だと思うんです。

「わずかに書かれていた江戸時代の文献を見つけ、おそらくこことここだろうと城下町の周辺から10箇所の十王堂を探し当てるだけでも面白いのに、さらにそれを当時と同じお盆の満月の夜に実際に歩こうだなんて、なんと面白いんだろう。

それに、何だって?!その10箇所にうちの寺も入ってるのかよ。サイコーじゃねぇか。ちょうどお盆直前で夜遅くまで準備しているし、起きて待っていよう。トイレが必要なら会館も開けておくか。あ、なんなら、本堂に十王の掛け軸を掛けて見せてあげよう。いつもはお彼岸の時にしか掛けないけど、十王堂を巡るイベントに出さない手はないぞ」

と思ってくださったかは分かりません。全て、私の妄想ですw。(遠藤住職、もしこのnoteを読まれた場合は、実際のところを教えてね)

でも、面白がってくださったからとしか思えないんです。「やさしさ」だけでは片付けられないです。遠藤住職、本当にありがとうございました。今回の「十十王申す2025」の、間違いなくハイライトの一つとなりました。


「遠くまで行きたければ、みんなで行け」をリアル実践

少し話はそれますが、私と主宰の江尻浩二郎さんは過去に一度、「十十王申す」をしたことがあります。今から3年前の2022年8月12日です。その時は二人で夜通し歩きました。

3年前の出発の後ろ姿。今回と違ってたった二人だった(facebookより)


その時のつらさ、足の疲れを体がまだ記憶しています。あれから、さらに三年の年月を重ね、今回47歳でまた歩いてみる。これだけでも大変さはお腹いっぱいなのに、、、なんと今回は、、、

江尻さんは私にこう言います。

「イガリさん、3年前に歩いたときは2か所、曖昧な場所がありました。今回は違います。すべて、古い文献にあるか、現在十王が祀られている場所です。嘘がありません。今回こそが正真正銘「十十王申す」です。

つきましては、それに伴い、コース全体がだいたい5-6kmほど長くなりました」

・・・

3年前のコースは約16kmほどありました。今回はそこからさらに5-6km長くなるということは、21kmほどになる計算です。前回ですら辛くて、最終盤では仲のいい二人の口数も減ってしまったというのに、おじさん同士が互いに3歳年齢を重ねた上に、距離が5-6km伸びるなんて。もうムリゲーです。

今回の「十十王申す2025」のコース図
⑥⑦が今回新たに追加された。
⑤から⑦、⑦から⑧の間の長いこと!

スタート&ゴール地点から最も遠い7箇所目である利安寺にたどり着いたのは夜中2時半です!上のコース図をもう一回見てください。夜9時にスタートして、最も遠い場所にたどり着いたのが、五時間半歩いた、夜中2時半ですよ。普通なら絶望ですし、心折れてます。

でも歩けたんです。完歩したんです。
前回より年をとり、距離は5-6km長くなった。でも歩けた。
前回との違いは、一緒に歩く仲間の数が増えたことです。

早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け
(if you want to go fast, go alone; if you want to go far, go together)

有名なアフリカの格言ですが、今回、身をもって体感できたわけです。

ここでは深掘りしませんが、いつか別の機会に考えたいことが一つあります。それは「関係性とパフォーマンス」についてです。3年前は二人で歩いた。今回は九名で歩いた。一緒に歩く人数が増えた。単に人数が増えたからより長い距離を歩けたのでしょうか。どうもそんな単純な話ではないような気がしています。

前からの知り合いもいましたし、はじめましての方もいました。結局、8-9時間一緒に歩き続けたわけですが、ずっと明るかった。ずっといい雰囲気だった。コンビニでの休憩で飴をくださったりした。

能力やパフォーマンスは個人が有するのではなく、関係性の中で立ち上がるもの

ここ何年か、個人的にずっと考えていることです。今回もまさにこのことが当てはまるのではないかなと思っています。アフリカのことわざの言うとおり、「みんな」で行った。そして、その「みんな」の関係性がとても良好だった。だからこそ、パフォーマンスが発揮され、遠くまで行くことができた/遠い距離を歩くことができた。「みんな」×「(グッドな)関係性」。今回の実践/成功も取り入れながら、今後も考えていきたいと思うテーマです。

02:30頃 七箇所目:利安寺
03:50頃 八箇所目:蘭秀寺・十王地蔵尊堂
04:20頃 九箇所目:大運寺
空が若干明るくなってきてますね

さあ、最後の十箇所目へ向かいます。
徐々に空が白んできているのは感じていましたが、十箇所目の直前にご褒美のような朝日が私たちをさらにブーストしてくれました。

よし、最後の力を振り絞って行くぞーという我々に最後に立ちふさがる超階段w
04:50頃 十箇所目:弘源寺
すっかり明るい


「面白がる」が重なり、集まることのステキさとチカラ

というわけで「十十王申す2025」、無事巡礼することができました。

歩くこととは、とか
身体性のこと、とか
一歩ずつ踏み出すしかないこと、とか
いろいろ感じ考えることはありますが、今回は「面白がる」をテーマ軸にnoteを書いてみました。

まずは、そもそも江尻さんのリサーチや今回の企画自体が、「面白がる」の極みのようなものだと思います。だって誰かに依頼されたわけでもなければ、経済性が介在しているわけでもありません。明治時代に書かれた大須賀筠軒の「磐城誌料歳時民俗記」の中のたった一文「これを"十十王申す"という」に出会い、何年もかけて調べ、実際に現場に足を運び、また調べるを繰り返す。この時点で狂気の沙汰です。狂気でないとすれば、私の拙い言語力で言えば「面白がっている」ほかありません。面白いからやっている以外に説明がつきません。

そして、それを「開く」ことも重要なポイントだと思います。江尻さんは「俺が面白いんだから、他のみんなもきっと面白いはずだ」とは決して思いません。むしろその逆で「こんなことを面白がって調べているのは俺しかいない」ぐらいに思っているはずです。でも「開く」。もしかしたら、誰か「面白がってくれるかもしれない」と開く。面白がる人がいなくても開いてみる。

そして、そんな「開かれ」に対して、今回約20名の人が集まりました。江尻さんの「面白がる」に20人の「面白そう」が重なったのです。さらにそこに、Faroの北林さんや九品寺の遠藤住職の強力で協力な「面白がる」が加わって下さいました。

たった一人から始まった「面白がる」。そして、それを(期待せずに)「開く」こと。そこに誰かの「面白そう」が加わり重なっていくチカラと「面白さ」。それを身をもって、喜びと感動とともに体感することができました。皆さん、本当にありがとうございました。

そして、このnoteをここまでお読みくださった皆さんへ。
こんな企画に、こんな「面白がる」力や人たちがいて、「いわき」凄いでしょが、このnoteで伝えたいメッセージではありません。

それぞれの地域に「面白い」ことやものや歴史は必ずあります。面白くない地域も、面白くない人もこの世にはないというのが、私と江尻さんのモットーです。

何をやるにしても、それぞれの街で暮らすにしても、どうせやるなら、どうせ暮らすなら、嘆いたり文句言うのではなく、気軽に「面白がって」いきませんか?そして、もし一人で面白がるのが寂しくなったら、その気持ちを誰かに「開いて」みて下さい。きっと、そこに新しい何かがつながるはずです。

P.S. 誰かに「開く」のが難しいときは連絡ください。私と江尻さんで「面白がり」に行きますね。

5:30頃 ゴールの瞬間です!
スマートウォッチによる計測では、歩いた距離25kmでした。
3年前より結局、9kmも長かったんかいw!


(参考インフォメーション)

江尻さんと私が「面白くない人はいない/人の話は超面白い」を実践する月に一度のトーク生配信番組「よなよな」


博覧強記・天才リサーチャー江尻浩二郎のおすすめnote記事(全ての記事がおすすめだけど…)




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