見出し画像

[ショートショート] 権現堂堤の三柱

幸手権現堂秋祭りの企画(2025年)で優秀作品の一つに選ばれました。


今日は朝早くに妻と権現堂堤を散歩している。ここは春には満開の桜と菜の花が咲き誇り壮麗な風景を見せてくれるお気に入りの散歩道だ。今日は、朝方は少し暑さも和らいで、秋の気配も感じられる心地よい風が吹いている。もうすぐ、曼殊沙華が燃えるように真っ赤に一面を染めるだろう。

ゆっくりと歩いていると、二十数年程前、この権現堂堤での不思議な体験を思い出した。夕方薄暗くなってきた時、そろそろ家に帰ろうと思っていたら、どこからともなく話し声が聞こえてきた。

「若さん、白さん、我らが一緒になってから、長い年月よのう」
「熊さん、そうじゃな。この辺も随分変わったのう」
「最近植えた曼殊沙華じゃが、三倍体だって知っとるか?」
「白さん、なんじゃな、その三倍体って」
「生き物はたいてい遺伝子を束ねている染色体が一対、ようするに二つあるじゃろ。ところが、ここの曼殊沙華は3つの染色体を持っているんじゃよ」
「そうなのかい?」
「若さん、そうらしいよ。三倍体だと、種を作ることができないから、土の中の球根を増やして増えるしかないらしい。だから、この辺の曼殊沙華は全部クローンなんじゃな」
「さすが、白さんは物知りじゃな」
「ていうと、我々と似てるじゃないか」
「熊さん、そうなんじゃ。我々も三柱が一つになってこの地を守って来たからのう」
「白さん、そうじゃな。なんだか、曼殊沙華にも親近感が湧いてきたわい」
「そうじゃ、もっと綺麗に咲き誇るように、ちょいと手を貸してやるかの」
「若さん、そうじゃ、そうじゃ、そうしよう」
「この堤も、春の桜と菜の花だけでなく、秋には曼殊沙華に頑張ってもらって、人間たちがもっとたくさんこの地を訪れると、わしらもうれしいものじゃ」
「そうじゃの。少しはわしらのことも思い出してくれるかの」

若かった当時は誰がなんの話をしているのか分からなかったが、歳を重ねた今はよく分かる。昔合祀されたという熊野、若宮、白山の権現様の会話を聞いてしまったようだ。権現様のご加護で、この地の曼殊沙華は、ずっと綺麗に咲き誇り、人々を魅了しているのか。

心地良いそよかぜと共に、権現様達の笑顔がふと脳裏に浮かんできた。


幸手権現堂秋祭りのイベントへの参加作品となります。

大変うれしいことに、幸手権現堂秋祭りの企画で、優秀作品の一つに選んでもらえました。大変うれしいです。ありがとうございました。

このストーリーは、元々は、たらはかにさんの以下の「毎週ショートショートnote」のお題がきっかけで生まれました。お題に沿った話にはならなかったので、「毎週ショートショートnote」の方には参加してませんが。


いいなと思ったら応援しよう!