Claude Coworkのスキルを44個作った。出来上がったのは、組織図だった
「AIに仕事を教えてやろう」。
1ヶ月前、私はそんな上から目線で、AIエージェントに最初のスキルを設計し始めた。
結果として生まれたのは44個のスキル。議事録の自動生成、企業調査、交通費精算、コアバリュー表彰。果てはAI自身が自分の改善点を見つけ出す「自己進化スキル」まで。
ところが振り返ると、鍛えられていたのはAIではなく、私自身だった。
スキルを設計する行為の正体は「AIの能力を引き出すこと」ではなかった。自分の仕事のやり方を、初めて言語化し、再設計する行為だった。そして44個のスキルが並んだとき、そこに見えたのは「理想の組織図」だった。
前回のnote記事で「スパルタPDCA」「スパルタ自己学習」というキーワードを書いた。
AIに継続的にPDCAを回させ、自己学習させ、その成長を人間にフィードバックする仕組みのことだ。今回はその具体的な中身、44個のスキルの全貌と、設計プロセスで気づいた「AI 2.0時代の新常識」を書く。
「AIに仕事を教える」つもりが、自分の棚卸をしていた
最初に作ったスキルは議事録の自動化だった。
「文字起こしをNotionに保存するだけだろう」と思っていた。ところがSKILL.md(スキルの設計書)を書き始めて5分で手が止まった。
「良い議事録とは何か」
「議決事項とアクションアイテムの粒度はどこまで切るべきか」
「発言者の意図が不明なとき、どう補完するか」
「そもそも自分は何を基準に『この議事録はOK』と判断しているのか」
15年のコンサル・事業会社生活で無意識にやってきた判断の勘所が、言語化を迫られた瞬間だった。
次に作ったメールを自動返信,下書きしてくれるスキルではさらに深い棚卸しが起きた。
「優先して返信すべきメール」を仕分ける基準は何か。社外か社内か、期限の有無、金額の大小、相手の役職。書き出したら12項目になった。こんなに複雑な分類を、毎朝なんとなくやっていたのかと自分でも驚いた。
さらに決定的だったのは、スキルに「アウトプットの品質基準」と「アウトカム(成果指標)」を定義する必要があったことだ。議事録なら「10項目の品質チェックリストで8/10以上」がアウトプット基準。
メール返信なら「下書きの採用率」がアウトカム指標になる。AIが自己学習するためには、自分の仕事の「何をもって成功とするか」を数値で定義しなければならなかった。
これはAmazonで学んだWorking Backwards(逆算思考)と同じ構造だ。Amazonではプレスリリースを先に書く。コンサル時代にも「最後のスライドをまず見せろ」と叩き込まれた。ゴールから逆算してプロセスを定義する。スキル設計は、まさにこの逆算思考そのものだった。
そして意外だったのは副産物の大きさだ。
議事録の判断基準を言語化した結果、人間が書く議事録の質も上がった。
メールの仕分け基準を整理した結果、自分のメール処理速度も上がった。
AIを鍛えていたつもりが、自分の仕事のOSをアップデートしていたのだ。
44個のスキルが、自然と4つのレベルに分かれた

3ヶ月で44個のスキルが生まれた。社内Notionにすべて登録してある。
ある日カタログを一覧で眺めていて気づいた。スキルは自然と4つのレベルに分かれていた。意図して設計したわけではない。
Lv.1 自動化(10個):人間がやる意味のない作業を消す

例えば、
「Googleカレンダーの予定から当月の交通費を自動推定し、バクラク経費精算に下書き」
「じゃらん・スマートEX・一休.comから領収書PDFを自動ダウンロードしてGoogle Driveに保存する」
といったスキルを作成した。
いずれも、人間がやっても判断が発生しない。ログインして、ダウンロードして、所定のフォルダに入れる。こういう作業を「たった10分だから」と放置していた。
10分×月4回×10スキル、計算すると月7時間近くが消えていた。
Lv.2 判断支援(18個):人間の判断をデータで底上げする

「3営業日先の会議参加者をリサーチし、準備メモをNotionに保存してSlackで通知」
「企業・工場の公開情報から稼働率・品質のボトルネック仮説を4軸×2視点で推定」
といったスキルだ。
Lv.1との決定的な違いは「人間の判断が入る余地がある」ことだ。
AIは判断の材料を揃え、下書きを用意する。人間は「Go/No-Go」と「微調整」に集中する。
ここで18個と数が多いのは、CEOの仕事の本質が「判断」だからだろう。 営業準備、リサーチ、メール、議事録、X投稿。すべて「判断のための情報整理」と「判断結果の言語化」で構成されている。その情報整理をAIに任せることで、判断の質とスピードが同時に上がった。
Lv.3 組織強化(5個):個人ではなくチームに効くスキル

「過去1週間のSlack全チャンネルとGmailを調査し、コアバリューを体現している社員を特定して、#generalに表彰レポートを投稿する」
「Slack・Gmail・Notionの議事録から顧客理解に繋がるナレッジを自動収集し、4段階に分類してNotionに蓄積する」
というスキルになる。
数は5個と少ないが、影響範囲は最も広い。
人間のマネージャーがやると主観的になりがちな「称賛」を、SlackとGmailの全ログから客観的に抽出する。
このレベルのスキルを作るとき、設計の視点が変わった。
Lv.1〜2は「自分の仕事をどう楽にするか」。
Lv.3は「チームの行動をどう変えるか」だ。
Lv.4 自己進化(11個):AIが自分でPDCAを回す

「Notion上のAI出力を人間が手動修正したパターンを自動検出し、修正ルールとしてスキル改良する。」
「Slack・Gmail・Googleカレンダーを横断スキャンし、「スキル化されていない3回以上繰り返す作業」を自動検出してスキル作成を提案する」
ここが「スパルタPDCA」「スパルタ自己学習」と呼んでいるものの正体だ。
ある時期に「スキルの改善を手動でやるのがしんどい」と感じて、Lv.4を作り始めた。するとLv.1〜3のスキルが、自動的に良くなり始めたのだ。
私の手直しパターンを学習し、
「先週、このスキルの出力を3回修正した。原因はリサーチの深さ不足」と報告してくる。翌週にはSKILL.mdが自動更新されている。
最も価値が高いのは「仕事をするスキル」ではなく「スキルを成長させるスキル」だった。 1個のスキルを改善するのではなく、44個すべてが同時に少しずつ良くなる。これが複利の力だ。
人×AIで100になる人と、ならない人の違い
Xで「AI 1.0は人+AI。AI 2.0は人×AI。人10×AI10=100」と投稿した。
その後「妄想力がカギ」「1度は自分で手を動かす」「タスクから業務レベルへ」と続けた投稿が反響を呼んだが、すべて同じ原理に基づいている。
AI 1.0は「ChatGPTに質問する」使い方だ。人間の能力にAIの能力を足し算する。
AI 2.0は「スキルを設計する」使い方だ。人間の知見とAIの実行力が掛け算になる。
掛け算の前提は、「人」の側にも10の力が必要だということだ。
工場のボトルネック推定スキルを例にとろう。
このスキルは、設備・人・モノ・品質の4軸×稼働率・品質の2視点で、工場のボトルネック仮説を推定する。スキルには「射出成型機の非計画停止の主因は段取り替え時間と金型メンテ間隔」「セル生産の工程間バッファが3時間分以下なら供給律速の可能性大」といった粒度の知識が書かれている。
これは、コンサル現場と顧客工場で100回以上やった分析フレームの言語化だ。1度も製造現場に出ていない人が同じスキルを書いても、キーワードリストの解像度がまるで違う。
AI 2.0時代に最も価値があるのは「AIを使える人」ではない。「AIで高品質のアウトプットが出せる人」だ。
そしてそれは、自分の仕事を人に教えるように言語化できる一次体験を持つ人にしか務まらない。
スキルを設計したら、組織図ができていた
ある日、カタログを眺めていて既視感を覚えた。
それぞれのスキルが「コアバリュー推進担当」「秘書」「社外メンター」「生産コンサルタント」と役割がはっきりしていた。
これは、組織図と言えるだろう。
営業準備チーム、広報チーム、管理部門、経営企画、人材開発、品質管理。スタートアップは常に人が足りない。
やるべきことに対してリソースが圧倒的に足りない。だからこそ、スキル設計の過程で見えた「理想の組織図」には意味がある。

注目すべきは、スキルを作った順番だ。
最初は自分の目の前の作業を楽にするスキル(Lv.1〜2)から始まった。次にチームに影響するスキル(Lv.3)を作った。最後にシステム全体を改善するスキル(Lv.4)を作った。
この順番は、組織設計の教科書的な順番と一致する。まずオペレーション、次にマネジメント、最後に成長サイクル。
つまり、「どんなスキルを作るか」は「どんな組織を作りたいか」と同じ問いだった。
さらに44個のスキルを設計する過程で、自分が本当にやるべき仕事が浮き彫りになった。
AIに任せられない仕事、CEOとしての私にしかできない仕事は、大きく3つだった。
最終意思決定
社外のキーパーソンとの関係構築
そして「次に何をすべきか」というビジョンの提示
44個のスキルは、この3つ以外のすべてをカバーしようとしている。
1つ目のスキルは30分で。次はAIが「作るべきスキル」を教えてくれる
始め方はシンプルに、最初の1個目は30分で作った。
完成度は低いが、それでよかった。
自分が週に3回以上やっている作業を1つ選ぶ
会議前の参加者調査でもいい、メール返信の分類でもいい
次に、その作業の「判断基準」を3つだけ書き出す
メールなら「社外か社内か」「期限があるか」「金額に関わるか」
最後に、スキルに「ゴール→手順→品質基準」の3点を書く
AIと話し合いながら設計すればいい。AIが清書した上で、追加質問してくれる。
先に述べたLv.4の自己進化スキルを作成すればいいからだ。
人間が手直ししたパターンを自動検出してルールに蓄積する仕組みが先にあれば、最初のスキルが雑でも使うほど勝手に賢くなる。
今や、最初の一歩すらAIが導いてくれる。
Slack・Gmail・Googleカレンダーを横断スキャンし、「スキル化されていない繰り返し手動作業」を自動検出するスキルが毎週日曜に動いている。
「林さん、この作業を過去1週間で4回やっています。スキル化したほうがいいですよ」とSlack DMで教えてくれるのだ。
つまり、最初の1個さえ手で作れば、2個目以降はAI自身が「次に作るべきスキル」を提案してくる。
スキル作りのハードルは、もはや技術的な問題ではない。
作り終えて、気づいたこと
スキル作りで最も難しいのは「技術」ではなく、「自分の仕事を他人に説明するつもりで言語化すること」だ。これは新入社員にOJTで教えるのとまったく同じスキルだ。「見て覚えろ」ではAIは動かない。
自分の暗黙知を、手順と判断基準に分解する。その行為自体が、自分の仕事を進化させる。
AIに教えるつもりで、自分の仕事を書き出してみてほしい。
教えているうちに気づくはずだ。鍛えられているのはAIではなく、自分自身だと。
そしてスキルが10個を超えたあたりで、もう1つの気づきが訪れる。
自分が作っているのはスキル群ではなく、理想の組織の設計図だと。
