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【CF挑戦中!】デッドエンド。 —メスガキ無双冒険譚— 第55話:手袋の下

「ひかり。ここだ」

 声をかけられて、ひかりは気を引き締める。目の前には階段があって、恐らく地上へと続いている。話の中にあったアルケーの仕事場だと、ひかりにはすぐにわかった。
 ショットシェルベルトにはめた二六本の電池を確認する。エネルギーはほとんどマックス。続いて拳銃のマガジンを抜く、残弾は八発。再び装填して、深呼吸する。

「……証拠を取るんですね」

「その通り……これで正式に、アルケー・ミストは世界の敵だ」

 覚悟を決めたような鋭い瞳にひかりは頷いて、そして、二人で階段を駆け上がる。扉を蹴破り、銃を構える。そこは話に聞いた通りの窓も装飾もない、直方体の広い空間だった。空間の中には何もなく、それゆえに、その中心にポツンと立つ人影だけが目立っている。数は一、こちらに背中を向けている。ひかりはじりじりと間合いを測りながら銃を向け、イヴァも金属製の鞄を盾のように構えつつ銃を向けた。

「動かないでおくれよ……色々情報が欲しい。吐いてもらうよ」

「……久しぶりだな。来ると思っていたぞ、イヴァ」

 そして人影がおもむろに振り向いて、ひかりは目を見開いた。それは人間ではなかった。人間のように髪の毛があり服を着ていて後ろからでは見えなかったが、その肌、というよりも肉体は金属光沢を放つ銀色で、一目でそれがアンドロイドだと理解する。

「アルケーを模したアンドロイド……悪趣味だね」

「そう言うな、特別に俺の力を見せてやろうと思ってな」

「疑似人格……相変わらずだね。臆病なのにプライドは高い、情報を与えるリスクを承知していて、それでも僕に完全な敗北を叩きつけないと気が済まないんだろう?」

 ひかりは銃を構えながら、イヴァとアンドロイドが話している隙に状況を整理する。
 現在のこの星にあれほど高度なアンドロイドを作る技術力は存在しない。アルケーの創造能力は文字通り、万物を生み出すことができるということか。
 周囲を見る。電力供給はされているようで吸収するエネルギー源はあるが、窓もないここで電気を落とせば完全な暗闇だ。アンドロイドに暗闇の中敵を近くできる機能が搭載されていれば不利になる。電池からのエネルギー供給のみで戦うべきか。

「よくわかっているな、愚かな女だ。また全てを奪われ、今度は尊厳を踏みにじられて死にたいらしい……見ろ」

 アンドロイドが口にした瞬間、何もなかったはずの直方体の空間が、無数のコンテナで埋め尽くされた。イヴァの鞄からジジと機械音が聞こえる。この様子を記録しているのだろう。中身がアッドであることが確認できれば、これで証拠は押さえられる。
 しかしそれを見せたということは、生かして帰すつもりはないということだ。むしろなぶり殺しにする気満々といったところだろう。
 ひかりがじりじりと間合いを測る中、しかしアンドロイドはすぐに仕掛けなかった。その背後に巨大なスクリーンが現れ、映像が映し出されたのだ。

「……っ!」

 思わず息を飲む。そこに映し出されていたのは、十字架に磔られ、足元から燃やされている女性の死骸だった。

「ビッカー・ロックウェル……お前と同じで俺を裏切ったからなァ、処刑した。イヴァ、お前をどうやって殺すか、その実験に付き合ってもらった」

 機械的なアンドロイドの声に、ひかりを身の毛もよだつ感覚が襲う。イヴァは忌々し気に歯噛みして、その映像をじっと見ていた。
 ビッカーの表情に苦悶の色はなかった。むしろ恍惚としていて、理性も誇りも、何もかもが焼かれて死んだのだろうことが容易に想像できる。

「麻薬で焼いたな……どこまで人の尊厳を踏みにじれば気が済むんだ」

「俺様を裏切った報いだ……お前もこうなる。家族のことも、自分の誇りも忘れて、苦しみすら感じず死んでいけ」

 イヴァを見る。黄色い瞳が揺れていた。
 彼女は何を思っているんだろうか。愛した男がこんなゲスなことをしていることへの悲しみか、男の本性を見抜けなかったことの悲しみか、ビッカー・ロックウェルへの哀悼か、戦うことへの恐怖か、あの時の選択への後悔か。

「そんなこと……させないっ!」

 ──そんな顔させたくないと、思った。
 だからひかりは迷うことなく、スクリーンに発砲した。映像が途切れ、そしてそのままアンドロイドに三発発砲。全弾命中するが効果はなく、両の掌をこちらに向けられる。
 直後イヴァがひかりを抱えてコンテナの影に隠れ、二人のもといた場所をレーザービームが突き抜けて行った。

「イヴァさ──」

「ひかり……ありがとう」

 そっと手を取られて、イヴァの左手を握るように触れさせられる。
 ハッとした。黒い手袋に隠された彼女の薬指には、指輪がはまっていた。
 柔らかく微笑むイヴァ。微笑みの中には、感謝も、後悔も、覚悟も、誇りも。彼女自身の魂が込められているような気がして。心に触れたような気がして、ひかりの胸に、熱い気持ちが宿る。

「僕は、全てに決着をつけたいんだ……まずはあいつをやっつける! ひかり、力を貸してくれ!」

「……もちろんです! イヴァさん!」


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