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私たちは”最初の”魔王討伐の旅を知らない

『葬送のフリーレン』の読み方を変える視点を示したいと思います。


私たちは最初の魔王討伐の旅を知らない

別記事にて、魔王討伐後の勇者パーティ解散後から次のエーラ流星までの50年間(第1話)にヒンメルがタイムトラベルをしているという考察をしました。

ヒンメルがタイムトラベルをして何をしているかというと、南の勇者として全知のシュラハトの討伐を行っています。

そして、そのタイムトラベルによって過去改変が生じているため、私たちはヒンメルがタイムトラベルする前の「最初の魔王討伐の旅」をほとんど見ることができていないと指摘しました。(下の記事の補足をお読みください。簡単に言えば、フリーレンの回想シーンにはヒンメルのタイムトラベルによる影響が及んでいるということです。)

私たちが最初の魔王討伐の旅を見ることができるのは、ヒンメルのタイムトラベル前すなわち、マンガでは第1話の前半わずか16ページほどのみです。(表紙・目次、第1話のタイトルページ等も含むので実質はもっと少ないです。なお、アニメでは開始から約8分間です。)

たった16ページなのですが、ここには二か所、強烈な違和感のある描写があります。

これが最初の魔王討伐の旅を知る手掛かりになりますので、見てみましょう。

いずれも、フリーレンの時間感覚に対するヒンメルの反応に関する描写です。

最初の魔王討伐の旅に対する違和感

一つ目は、魔王討伐の旅の10年間について「短い間だったけどね」と言ったフリーレンに対して、ヒンメルが「短い?何を言っているんだ?10年だぞ?」と驚くシーンです。

二つ目は、勇者パーティが解散され、魔法収集の旅に出るフリーレンを見送る三人が「50年も100年も、彼女にとっては些細なものなのかもしれないね」と、しみじみ感心するシーンです。

なぜ、ヒンメルは10年間の旅を共にしたフリーレンの時間感覚について、今更、驚いたり感心したりしているのでしょうか?

フリーレンとの旅を始めたばかりのフェルンを思い出してください。旅を始めた最初の「蒼月草」(第3話)のエピソードです。ここで既に、フェルンは人間とエルフの時間感覚の相違という問題に突き当たって悩んでいます。そして徐々にエルフとはこういうものなのだと飲み込んで、「蒼月草」から2年後の第7話「魂の眠る地」では、もうフリーレンとの付き合い方(扱い方)を心得ています。

フェルンと比較してみれば、先ほどのヒンメルの反応が異様なことは明らかです。

なぜ、ヒンメルはこのような反応をしたのでしょうか?

これにはいくつかの解釈があるでしょう。思い付くのは次の3つです。

  • 作者のミス:読者にエルフの時間感覚を説明しようとして、エルフの時間感覚を良くわかっているヒンメルに、エルフの時間感覚を知らない読者の気持ちを代弁させてしまった。

  • ヒンメルの演技:ヒンメルは本当はフリーレンの時間感覚をわかっていたが、あえてわからない振りをした。一つ目のシーンならこの解釈もあり得るが、二つ目のシーンではフリーレンの目がないので演技する理由がない。また、そもそも演技する理由も不明。よって、この説は採用しづらい。

  • ヒンメルは本当にフリーレンの時間感覚を知らない。

一つ目の「作者のミス」説は、他に取りうる解釈がない時の最終手段だと私は考えます。

二つ目の「ヒンメルの演技」説は上述のとおり難点があります。

そこで、三つ目の「ヒンメルはフリーレンの時間感覚を知らない」説で考えてみましょう。

違和感の原因

10年間も一緒に旅をしたフリーレンの時間感覚をヒンメルが知らないことには、強い違和感があります。

ストレートに言えば、「10年の旅の間、ヒンメルはフリーレンの何を見ていたのか?フリーレンのことを知ろうとしなかったのか?ヒンメルがフリーレンの指にはめた鏡蓮華の指輪は何だったのか??」ということです。

この違和感の原因を丁寧に説明するなら、第1話前半で見た二つのシーンと、第2話以降のフリーレンによる回想シーンで見られる魔王討伐の旅の様子との不整合です。

第2話以降のフリーレンによる回想シーンで描かれていたのは「くだらなくてとても楽しい旅」(第11話)であり、仲間同士の信頼関係や絆であり、ヒンメルのフリーレンに対する愛だったはずです。

それらの関係性が第1話前半で見た二つのシーンからは感じられません。これが違和感の原因です。

この不整合はどうして生じているのでしょうか?

最初の指摘に戻ります。

不整合の原因はヒンメルのタイムトラベルによって生じた過去改変です。

第1話前半(最初の魔王討伐の旅)はタイムトラベルの影響を受けておらず、それに対して、第2話以降の回想シーンで見られる魔王討伐の旅はタイムトラベルの影響を受けているからです。

ヒンメルのフリーレンを知る旅

そうすると、「ヒンメルはフリーレンの時間感覚を知らない」。これが最初の魔王討伐の旅でのヒンメルとフリーレンの関係性の真の姿です。おそらく、「蒼月草」や「鏡蓮華の指輪」のエピソードは私たちが知っている形では存在しなかったでしょう。

ですから、魔王討伐の旅を終えてフリーレンと別れた後に、ヒンメルは強烈な後悔に襲われたのだと思います。「僕はこの人の事を何も知らない」、「人間の寿命は短いってわかっていたのに、なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう」と。言うまでもなく、これは、フリーレンと全く同じ後悔です。

そして、ここからヒンメルのタイムトラベルが始まるのです。

もちろん、タイムトラベルの第一の目的は、魔王討伐であり、そのためのシュラハト討伐です。

けれども、ヒンメルの個人的な目的として「人を知る」、「フリーレンを知る」ということがあったのではないでしょうか。

そして、ここ(第1話後半)から始まるヒンメルのタイムトラベルによって、第2話以降にフリーレンが回想する魔王討伐の旅が作られるのです。

お手元に単行本がある方は、もう一度、第1話を見てください。そして、タイムトラベルの前と後でヒンメルの目を比べてください。

この違いは、ヒンメルの加齢によるものでしょうか?


※『葬送のフリーレン』に関する記事はこちらにまとめています。