ゼンゼは歴史オタクにしてフェルンとフリーレンの理解者
ゼンゼの魅力って何だと思いますか?
ユーベルとの先輩・後輩関係(すごく優秀だけど、ユーベルのことだけは超絶苦手で扱いにてこずる。でも先輩としての意地があるので、ぐぬぬ。)もおもしろいです。そう言えば、ゼンゼはリネアールとも張り合っていました(会う度に殴り合いの喧嘩をしているとか)。ゼンゼには意外と子供っぽい所がありますね。ゼーリエの側にいる唯一の女性一級魔法使いということもあって、ゼーリエと深い絆で結ばれているように見えるところも良いです。眠たそうな目(特権魔法!)とアンニュイな雰囲気もいいですね。
いろいろとあるのですが、一つ挙げるとするなら、ゼンゼの「フェルンとフリーレンの理解者」である所が私は好きです。
なのでここでは、フェルンとフリーレンそして二人の師弟関係をゼンゼがどう理解しているのかを見てみます。
これは「私はこう読んだ、こう思った」ということを書いたものなので、「なるほどな」と共感してもらえるところが一部でもあったら嬉しいです。
また、私の感じた疑問(ゼンゼはなぜフリーレンの奇行に興味を持たないのか?、ゼンゼはなぜ「受験者が迷宮を楽しむこと」を気にするのか?)に対する「自分はこう思う」という回答がありましたら、コメントで教えていただけるとこれも嬉しいです。ここに書いた自分の回答は「今はこう考えている」というだけで半信半疑だからです。
「私がわからないのは君だよ。フェルン。」から感じる疑問

二次試験の「零落の王墓」攻略中にガラクタにしか見えない魔導具を集めたフリーレンを側目に、ゼンゼは「うーむ…。わからんな。」とつぶやきます。
それに対してフェルンは「ですよね。あんな物で喜ぶだなんて。」と同意するのですが…(単行本はここで改ページが入り、下の画像はページを捲った最初のコマです。)

ゼンゼは「私がわからないのは君だよ。フェルン。」と答えます。(アニメS1-EP23「迷宮攻略」、マンガ第6巻第49話「迷宮と魔道具」)
そして、ゼンゼはフェルンから彼女が魔法使いになった経緯や、フリーレンとの旅について話を聞くのです。話を聞き終えたゼンゼです。

1つ目のコマでは無言です。この間から、ゼンゼがフェルンの話を表層的に理解しているのではなく、心の深いところでしっかりと受けとめていることが伝わってきます。穏やかな笑顔からは、フェルンに対する親愛や共感も感じます。フェルンはフリーレンを見つめています。ゼンゼもフリーレンの方を向いていますが、フェルンの方に少し視線をやっていて、気持ちはフェルンとフリーレンの双方に寄り添っている様に見えます。フリーレンを慕うフェルンの気持ちもよく理解できているようです。もしかすると、フリーレンとフェルンの師弟関係にゼーリエと自分を重ねているのかもしれません。
ゼンゼの過去を知りたくなる一コマですね。彼女の魅力が凝縮されています。
その後(2つ目、3つ目のコマ)、「やっぱり君たちに付いてきて正解だった」「(君たちなら迷宮を)楽しむことができる」と言うのは良くわかりません。
2コマ目、「やっぱり」というのはフェルンの話を聞いて改めてそう思ったということですが、フェルンの話のどの部分を指しているのでしょうか。「良い話を聞けたから」でしょうか。
3コマ目、試験なのだから受験者にとっては楽しめるかどうかはどうでもよいことで、安全に最深部に辿り着ければそれが一番です。まして、試験官のゼンゼにとって「受験者が迷宮を楽しめるかどうか」に何の意味があるのでしょうか。
この点については後で触れます。
もう一つこの場面で不思議なのは、「私がわからないのは(フリーレンではなく)君だ」ということです。ゼンゼは「私にはフリーレンのことはまだわかる。それよりも私は君(フェルン)のことを知りたい」というのです。(単行本のページを捲った右上の最初のコマで、です。)
大抵の人にとっては、フェルンとフリーレンが並んでいたら、謎が多いのはフリーレンの方です。エルフは人口が少なく非常に珍しい存在です。しかもフリーレンは数々の英雄譚を残した勇者一行の魔法使いです。ゼンゼは彼女が「聖杖の証」を持った最後の大魔法使いであることを知っています。一次試験でゼーリエの結界を破壊しており、実力が超一級であることを疑う余地はありません。その彼女がガラクタ同然の魔導具に頬ずりして喜んでいるのです。普通は、フェルンよりもフリーレンに興味を持つはずです。フェルンも、ゼンゼが「わからない」のはフリーレンだという前提で「ですよね」と返事をしています。まさか自分のことだとは思っていません。(読者もページを捲るまではフェルンのことだと考えながら読んでいます。)
しかし、ゼンゼはフリーレンの奇怪な行動には注目せずに、フェルンについて知りたがるのです。
何故なんでしょう。
ゼンゼの過去はまだほとんど描かれていないため、ゼンゼがフェルンに興味を持つ理由については、フェルンに自分と似ているところがある(相当な修練を積んでいるにも関わらず魔法への情熱がない)と感じたのだろうとしか想像できません。(ゼンゼの特権魔法から何となくわかりますが。)
なので、なぜゼンゼはフリーレンの行動に疑問を持たないのか、について考えてみたいと思います。
歴史への眼差し
フリーレン達は「零落の王墓」の攻略(と言うか探索)中に、統一王朝時代の壁画を発見します。(これはアニメ版で追加されたもので、マンガ版にはない場面です。このことに関して記事の最後に補則あり。アニメS1-EP24「完璧な複製体」。)
ここでは美しい壁画を見て「壮観ですね」と感激するフェルンと、人間の歴史が描かれた壁画にそれほど興味はないが感激するフェルンを見て思わず嬉しくなるフリーレンが描かれます。初日の出のシーンの再確認のような形になっていますね。(第6話「新年祭」)
しかしここで注目したいのはゼンゼです。ゼンゼは壁画についてこう説明します。
埋葬された王の功績が描かれているな。
これほど保存状態の良い統一王朝時代の壁画は…初めて見た…。
価値ある発見だ。
ゼンゼは感情をあまり表情に出さないので、フェルンほど純粋に喜んでいるようには見えませんが、「これほどの壁画は…初めて見た」(「…」で少しの間を置いて、ゆっくり丁寧に発話しています。声優の演技に注目して欲しい所です。)という言葉からは喜びがあふれています。そして、「初めて見た」ということから、ゼンゼが統一王朝時代の壁画をこれまでたくさん見てきていることもわかります。

また、「零落の王墓」を攻略した二次試験の合格者達にはこうも言っていました。(アニメS1-EP26「魔法の高み」、マンガ第55話「第二次試験終了」)
君たちは「零落の王墓」を攻略した。
一級魔法使いに十分匹敵する、歴史に名を残すほどの偉業だ。
二次試験の試験官に過ぎないゼンゼが「一級魔法使いに匹敵」とは最大級の賛辞でしょう。
ですが、よく読めば、ゼンゼは「君たちなら一級魔法使いになれるだろう」と言っているわけではないのです。
歴史に名を残すのは魔法使いだけではありません。権力者や僧侶や建築家や料理人や…様々な分野の偉人が偉業によって歴史に名を残すわけです。
つまり、魔法使いとしての実力とは全く関係なく、「零落の王墓攻略」は冒険者としての素晴らしい業績だ、そしてそれは一級魔法使いになるのと同じくらい素晴らしく価値のあることだとゼンゼは考えているのです。

ゼンゼは歴史オタク、フリーレンは魔法オタク
ここから感じ取れるのは、ゼンゼの「歴史」への関心の高さです。
このゼンゼの歴史(遺跡)に対する関心は、ゼンゼが二次試験の課題として「零落の王墓攻略」を選んだ理由の一つだと考えられます。(わざわざレルネンに頼んでまで脱出用ゴーレムを準備して受験者に持たせたのは、受験者を個人的な興味に付き合わせることへの負い目もあったからでしょう。)
これは完全に公私混同です。しかも、ゼンゼが担当した試験は過去4回すべて合格者なし(内容が今回と同じかは不明)。試験内容については他の一級魔法使いからの評価もいまいちです。
それでも、ゼンゼは「零落の王墓」で試験をやりたいと我を通しているのです。(ゼーリエから二次試験の結果について軽く小言を言われたとき、ゼンゼは「だんまり」を決め込んでいますが、試験内容に私情を反映させたことについての反省もあるのでしょう。)
この「零落の王墓」への執着はちょっと常軌を逸しています。ゼンゼの歴史への執着は、「歴史に関心がある」というレベルのものではなく、常人には理解しがたい「歴史への愛」といえるかもしれません。
しかし、魔法史ならともかく、「人類の歴史」なんて魔法使いとしての実力には何の関係もありません。「歴史なんて学んでも何の役にも立たない」と考える人はたくさんいます。私自身はそうは思いませんが、それでも、実用性という点においては、医学や工学などのいわゆる「実学」と同列に並べるのは無理があると思います。それは『フリーレン』の世界においても同じでしょう。
それでも、ゼンゼは歴史が好きで、歴史に魅了されているのです。
言うなれば、ゼンゼは「歴史オタク」です。
そう考えてみると、ゼンゼがフリーレン達に同行したことが「正解だった」という理由も、受験者が「迷宮を楽しめるか」を気にしていた理由もわかります。
ゼンゼは歴史が好きで、遺跡としての「零落の王墓」に興味があり、探索を楽しみにしているのです。フリーレン達が迷宮の最深部に直行するようなパーティではなくて良かった。可能ならパーティの皆にも「零落の王墓」の面白さを理解して欲しい。歴史の魅力を感じて欲しい。フリーレンとフェルンならわかってくれるだろう。そういうことなのです。

他方で、フリーレンは何の役にも立たない、くだらない、ガラクタ等と言われる魔法や魔導具が大好きな「魔法オタク」です。
「歴史オタク」と「魔法オタク」。ここがゼンゼとフリーレンの相通じるところです。
「歴史オタク」のゼンゼには「魔法オタク」のフリーレンのことが「わかる」のです。
これが、ガラクタ同然の魔導具に頬擦りするフリーレンの奇行をゼンゼが素直に受け入れることができた理由です。
だから、ゼンゼは「私がわからないのは(フリーレンではなくて)君だよ。フェルン。」と言ったのです。
補足
「統一王朝時代の壁画」場面の追加に関して
「統一王朝時代の壁画」の場面は、マンガにはない、アニメで追加されたものです。
そして、このアニメの制作にはマンガ原作者が深くかかわっています。
マンガとアニメを比較すればこのことは明らかです。原作者からの詳細な情報提供なしにこれだけの作り込みは無理だと確信できます。(私は、関係者インタビュー等の周辺情報にはほとんど触れていないので、これについてはどこかで明確になっているかもしれません。)
だから、この場面の追加にはかなり大きな意味があるはずなのです。マンガでは描き切れなかったと原作者が考えているか、あるいは、マンガでの描写が不足していて読者が読み取りにくい、誤解しやすいと原作者が考えたポイントを補則する等の役割があるはずです。
そして、フリーレンとフェルンに関してはこの場面で新しく語られる要素がなく、第6話「新年祭」の繰り返しです。「いい話」ではあるのですが、これだけの時間を取ってこのタイミングで再確認する理由が分かりません。このモチーフを使って「エモい」場面を作るなら、もっとさりげなくできるはずです。
それが、この場面のポイントはゼンゼにあると考える理由です。(壁画に描かれている内容が何か伏線になっているという可能性もありますが、私にはわかりませんでした。)
零落の王墓と大陸魔法協会に関して
ラヴィーネの兄は大陸魔法協会の「零落の王墓攻略の先遣隊」の一人でした。協会の社会的機能が明らかになっていないので、協会が何のために「零落の王墓」攻略を目指していたのかわかりません。治安維持ではなさそうです。ゼーリエに何か考えがあるのでしょうか(壁画にはエルフが描かれている)。ゼンゼの「零落の王墓」への執着を、こちらから理解するアプローチも可能かもしれません。ただ、ゼンゼがゼーリエのためにと考えて動いているだとすると(ゼーリエのことを敬愛しているゼンゼならありそう)、なぜ受験者に迷宮を楽しんで欲しいのかが説明しづらいです。
付記
『葬送のフリーレン』 原作:山田鐘人、作画:アベツカサ
読者が疑問を感じるとすかさず回答を差し込んでくる、疑問→回答→疑問→回答のテンポが心地よい作品です。人物描写が丁寧なので、登場人物の心理を読み取るのが好きな人も楽しめると思います。書店で探してみてください。2025年3月に第14巻が発売予定です。https://www.amazon.co.jp/dp/4098501805/
また、アニメの制作にマンガ原作者が深く関与していることは間違いなく、視聴するとさらに作品を楽しめるものになっていますので、アニメ版もお勧めです。
『葬送のフリーレン』に関する記事
自分の考察、感想などをこちらにまとめています。主に私の「読み解き」を書いています。他人が共感できる内容かわかりませんが、「なるほどな」と感じられるところがあったらうれしいです。
幼いフェルンのメンタルについて
こちらで触れています。ゼンゼにも似たような過去があったのかもしれません。
参考
壁画について
