フリーレンがアウラを殺すまで
アウラと対峙したフリーレンは「引き返してくれるとありがたいんだけど」と、取引を持ちかけるような発言をします。この提案はにべもなく断られてしまうわけですが…

そんなフリーレンがアウラを殺す決断をしたのは、不死の軍勢の中に知っている鎧を見つけた時です。(「やっぱり(中略)殺さないと駄目だ」)

それでもまだフリーレンにはアウラを殺すことにためらいがあります。
このためらいを払拭したのはアウラの「ヒンメルはもういないじゃない」という発言があったからです。(「やっぱり(中略)化け物だ。容赦なく殺せる」)(※1)

このように、アウラを殺す覚悟を決めるまでにフリーレンはかなり時間を要しています。アウラを殺すことについてフリーレンは慎重で、決して無慈悲でも無感情でもないのです。見落とされがちですが、そこはマンガでもアニメでも丁寧に描写されています。
そして、ご存じのとおり、最後はフリーレンは自ら手を下すことなく、アウラに自害させました。

この時、フリーレンはアウラに背を向けてから「アウラ、自害しろ」と命じています。(アニメでは明確です。マンガでは視点を右から左へ移動させて読むので、背を向けてから→「自害しろ」と読むのが「マンガの文法」だと思います。)
無抵抗なのだから殺し方はいくらでもあったはずです。魔物を殺す時のように普段どおりゾルトラークで殺すのが一番手っ取り早いでしょう。アウラが今までやってきたことに対する報いを受けさせることにこだわる(アゼリューゼを使って服従させ、首を落とす)なら、「自害しろ」と命じてから背を向けても良かったはずです。けれども、そうはしませんでした。
いよいよアウラを殺そうというこの段階に至って、フリーレンは自分が殺すアウラの顔を見ることを避けているわけです。もっと言えば、自分の「殺し」という行為と向き合うことを避けているのです。(※2 ソリテールの言葉を想起してください)
その後、フリーレンは振り返ることなく立ち去るのみです。
当然、アウラが自分の首を切り落とす場面を見ることもしません。アウラが自らの首に剣を当てて「…ありえない…この私が…」と言うときの悲痛な表情をフリーレンは見ていないのです。

また、フリーレンはアウラの死体が魔力の粒子になって消える場面を見ることもしません。(右のコマは立ち去るフリーレンをアウラの視点で描いたものです)

この後、フリーレンは死者たちに祈りを捧げるのですが、そこにアウラは含まれていたのでしょうか。

※1 アウラの「ヒンメルはもういないじゃない」発言のベースにあるのはある意味とても素直で無邪気な発想です。アウラの表情から読み取れるのは純粋で素朴な疑問であって、計算高い悪意や邪悪ではありません。アウラはフリーレンとヒンメルの特別な関係性を知っていたわけではないですし、寿命80年の人間に対して何千年も生きるエルフが「たった10年でしょ?」と言うような、悪意はないのでしょうが言われた方はカチンと来るという、いかにも「フリーレンらしい」ものだとも感じます。それがたまたまフリーレン自身に向かってしまい、フリーレンの琴線に触れてしまったというアウラの運のなさを感じます。このアウラの「やらかし」は身につまされるという方も結構いらっしゃるのではないでしょうか。少なくとも私はそのタイプの人間で、同じような失敗を何度もしています。

※2 ここでのフリーレンの行為は「アゼリューゼを使って服従させ、首を落とす」という、フリーレン自身が化け物だと指摘したはずのアウラの行為と同じです。だから、フリーレンは自分の行為と向き合うことができないのです。フリーレンに代わってアウラの最期と向き合うのは読者です。あのアウラの最期の表情を描いた一コマに注がれた作者(作画:アベツカサ)のエネルギーを想像してください。つまり、ここは敵役が死んでスッキリして済ませるシーンではないのです。「魔族を殺し続けていればいずれは化け物になる」というソリテールの言葉については別記事で扱っています。
※『葬送のフリーレン』に関する考察記事を「質問と回答」の形式でまとめています。
※『葬送のフリーレン』に関する記事まとめたマガジンです。
※画像引用は『葬送のフリーレン』アニメS1-EP10、マンガ第3巻より
