シンクロするユーベル・ラントの思考とコマ割り(第14巻131話「脱出」)
『葬送のフリーレン』第14巻131話「脱出」のマンガ表現(コマ割り)に関して、気になった場面があります。(ユベラン要素含む)
ユーベルとラントが魔導特務隊の使う魔法の性質について思案して、二人の腕を縛っているロープをユーベルの魔法で切ることができないか検討する場面です。
ここは、ユーベルとラントという真逆の性格を持つカップル(と言って良いでしょう)が、同時に、同じことについて、別の角度から考えて、同じ結論に至るという、二人の関係性の発展が感じられるちょっとエモーショナルな場面になっています。

マンガの描写としては、まずはユーベルの分析 → 次にラントの分析 → 最後に「ユーベル&ラントの結論」で目を見合わせる、という順で描かれています。(これで約5ページを使っています。)
けれども、二人の分析は、実際には二人の頭の中で同時進行しているものです。
ですから、仮に素人の私がこの場面をアニメ化するとしたら、二人の台詞をいくつかに分割して、ユーベル分析1 → ラント分析1 → ユーベル分析2 → ラント分析2 → …(中略)… → 最後に同時に「ユーベル&ラントの結論」で目を見合わせる、としたくなります。(← ここ絶対ザイン出てくるでしょ…)

二人の分析を分割して交互に見せる理由は、アニメでは複数の人物が同時に喋ると話の内容が聞き取れなくなってしまうからです。
それで問題ない場面もあるのですが(最後の「ユーベル&ラントの結論」は台詞が被って多少聞き取れなくても問題はないし、二人同時発声の方が二人の息の合ったところが強調される)、この場面(二人の分析)はそうではありません。二人の分析内容を視聴者が正確に聞き取れるようにする必要があります。
アニメにはそういった表現上の制約(発話するのは原則一人)があります。(例えば、激しい口論の場面でも発言内容が重要な場合には交互に発言するという不自然が起こる。)
けれども、その制約はマンガにはありません。台詞はすべて文字になっているからです。(読者が最初に読むときの読む順序は作者の意図で自在に誘導できるのですが、読者は何度でも好きな順序で再読できますし、少し目を戻して再読する行為は大抵の読者が無意識に当たり前にやっている行為です。けれどもアニメの場合はそうではありません。視聴者がかなり意識を持って再生装置の巻き戻し操作をしない限りは再視聴はできません。)
であれば、マンガでは何か別の表現方法はなかったのだろうかと思います。
というのは、まずユーベルの分析 → 次にラントの分析という描き方だと、ユーベルの分析を描写している間(2ページ近く)はラントが放置されており、ユーベルの分析が終わってラントの分析が始まったところで、読者としては二人が同時並行で分析していたことに気付くことになります。つまり、「二人が同時に同じことを別の角度から考えている」ということに気付くのが遅れてしまうのです。
例えば(素人考えです)、二人の分析を同じコマで描いても良かったのではないか?
あるいは(素人考えです)、最初は別々のコマに二人を描いて、それを並べて並行して分析を進めて、最後にコマに融合させて二人を同じコマに描き、「ユーベル&ラントの結論」を出すなどの手法はとれないか?
なんだか、すごく手塚治虫的だと感じますが。
手許に資料がないので具体例を出せないのですが、ネットのどこかにあると思います。(「火の鳥 宇宙編 コマ割り」等で検索してみてください。一人用脱出ポッドに分乗した宇宙船の乗組員たちが無線で会話したり、考え事をしたりする様子が描かれています。)
脱出船に乗った組員が無線で会話する場面において全シリーズ中でも特に極めて実験的なコマ割りを試みていることで有名である
『火の鳥』シリーズには、しばしば実験的なコマ割りが見られますが、この「宇宙編」でも、4艘の救命ボート間での会話が、横4段に区切られたコマ割りで同時に進行したり、そこから一気に出発前の回想シーンへと飛躍する展開など、構成の面でもさまざまな大胆な試みがなされています。
こいったコマ割りは今では古臭い、というか禁忌なのでしょうか?(当時としては「実験的」「大胆な試み」だったわけですが。)
『フリーレン』は「サンデー」(実験場ではない)に連載されている保守的にならざるを得ないマンガだということも考慮しなければならないでしょう。
また、具体的に想像してみると、こういうことをすると読みにくくなってしまう気もします。(これに関しては別記事を書きました。)
それでも、マンガにはもっと冒険して欲しいと思ってしまうのですけれども。

まあ、マンガ技法のことはともかくとして、ユーベル・ラントの冒険にはこれからも期待できそうです。
※ユーベルのラントへの共感についてはこちらに書いています。
※ユーベルの目的について(「ユーベルは誰かを殺そうとしている」という考察)
※葬送のフリーレンに関する記事はこちらにまとめています。
