《葬送のフリーレン》神話の時代の嘘

ネタバレには配慮していません。

『葬送のフリーレン』の原作マンガはまだ読んだことがないという方には原作マンガを、既に読んだことのある方にはある一つの視点からの再読をお勧めしています。その訳をこちらの記事で説明していますのでお読みください。


はじめに

『葬送のフリーレン』では、過去の事実が誤った形で現在に伝わる、ということがしばしばあります。

たとえば、ヒンメルの英雄譚が誇張されていたり

フランメが男性にされていたり(第13巻120話「虚像の英雄」)

フランメの杖はミシン針?銛?

などです。(探せばもっとあるはずですがとりあえず)

こういった歴史変更は「世の中ってそういうものだよね」という一面の真理を表していておもしろいのですが、今回はそういう「嘘」ではなくて、物語に影響を与えそうな歴史の嘘を拾ってみたいと思います。

これは、アニメEP24「完璧な複製体」で描写されている賢者エーヴィヒの壁画を見て色々と考えていることで、私はまだ定見を持っているわけではありません。コメント歓迎です。

賢者エーヴィヒに関する嘘

1. 賢者エーヴィヒの魔導書

最も有名な嘘です。説明不要でしょう。(第1巻2話)

2. 賢者エーヴィヒの魔導具・水鏡の悪魔シュピーゲル

これは神話の時代の英雄・賢者エーヴィヒとその複製体および水鏡の悪魔シュピーゲル(中央)が描かれた壁画で、統一王朝期に作られたものです。(EP24)

これを見て水鏡の悪魔シュピーゲルが魔物であると考える人はいないと思います。どう見ても賢者エーヴィヒが人を複製するために作った魔導具です。(実際、水鏡の悪魔シュピーゲルは破壊されても魔力の粒子にはなっていません)

ですから、壁画を作った当時(統一王朝期)の人々も水鏡の悪魔シュピーゲルが魔物だとは考えていなかったはずです。

しかし、大陸魔法協会の魔法使い達(ゲナウ、ラヴィーネの長兄など)は水鏡の悪魔シュピーゲルを「神話の時代の魔物」だと考えています。賢者エーヴィヒの英雄譚にそのように記されているからです。(第6巻50話、52話)

3. 賢者エーヴィヒの魔導具・支配の石環

レルネンは「支配の石環」を「魔族の心を操る魔導具」だと説明しています。(第9巻83話)

しかし、私はこれも嘘だと思います。

だって、これでマハトを操れました?全然、役に立っていませんよね?

賢者エーヴィヒは何のためにこんなものを作ったのだろう?と思ってしまいますが…

支配の石環を魔族に使っても役に立たない理由は、使用目的を勘違いしているからです。

思うに、支配の石環は「魔族の心を操る魔導具」ではなく、「水鏡の悪魔シュピーゲルで作った複製体を操る魔導具」です。

追記)マハトに着けた支配の石環について

具体的な行動について「〜するな」という命令にしていれば、「〜しよう」とした時に支配の石環が発動したのかもしれません。

レルネンの説明では支配の石環は「魔族の心を操る魔導具」ということになっています。

しかし、それって本当に心を操っているのだろうか?心というよりは行動を縛っているのでは?という気もします。

シュピーゲル(水鏡の悪魔)で作られる複製体には心がありません。支配の石環は、心を持たない複製体の行動をコントロールするための魔導具でしょう。

つまり、レルネンの情報源が間違っている。そういう考察です。

賢者エーヴィヒは神話の時代のトリックスター?

こうやって見ると、賢者エーヴィヒに関する伝説は嘘ばかりです。

じゃあ、賢者エーヴィヒは「賢者」などではなく、神話の時代のトリックスターなのか?(ちょっとミリアルデ的な)

おそらくそうではなくて、神話の時代に関する嘘がまだたくさんあるような気がしています。

※ 賢者エーヴィヒの魔導具については、魔族の起源とも関わる話になりますが、長くなるのでここでは触れません。興味のある方は過去記事を参照ください。

天地創造の女神様

一般に「天地創造の女神様」と言われていますが、女神様は創造神ではなく下級神ではないか?という疑念があります。

ソリテールは「女神が世界の理をねじ曲げる」と言っています。(第12巻116話)

レーヴェは「神話の時代に世界の法則が書き換えられた」と言っています。(第15巻147話)

レーヴェは誰が世界の法則を書き換えたのかは明言していませんが、ソリテールと同じことを言っているのだとすれば書き換えたのは女神様です。

しかし、創造神の行いについて普通は「書き換える」「ねじ曲げる」という表現は使わないでしょう。創造神が変更したのだとすれば「そのように造られた」ということです。「書き換える」「ねじ曲げる」という表現からは「変更する権限を持っていないのに勝手に変更した」というニュアンスを感じます。

レーヴェの言っていることが正しいとすれば、女神様はギリシア神話におけるプロメテウスのような役割になります。勝手に人類に魔法(火)を与えたことで創造神から罰を受けて天界に閉じ込められてしまい、神話の時代が終わったわけです。これはかなり素直に飲み込める神話の時代のストーリーです。

教会の嘘(聖典が地上にもたらされた時期)

レーヴェがどこから神話の時代に関する知識を仕入れたかというと、ルティーネの勤務先の図書館です。(詳細は過去記事を参照ください。この図書館は修道院の附属図書館で、聖杖法院のすぐ近くにあり、神話の時代の貴重な資料を収蔵しています。デンケンはこの図書館の常連で、聖杖法院に根回しした後で立ち寄って借りた本を返却しています)

つまり、教会は教えと矛盾する資料を隠蔽しています。

先程の「天地創造の女神様」が最大の嘘ですが、他には、聖典が地上にもたらされた時期に関する説明も怪しいと思います。

聖典は約1,600年前に地上にもたらされたことになっています。(第12巻116話。ハイターが1,500年と言ったのは約80年前のこと)

しかし、僧侶アゴヒゲ像は聖典を手にしています。(第4巻34話)

クラフトと僧侶アゴヒゲが世界を救った頃には既に聖典が存在したとすると、クラフト達の偉業が完全に忘れ去られているというのはかなり奇妙です。聖典が地上にもたらされたのはフランメやフリーレンが生まれる数百年前のことですが、フリーレンはクラフトのことを「全然」知りません。(第3巻24話)

僧侶アゴヒゲ像は「僧侶なのだから聖典を持っているだろう」という製作者の想像で作られたのかもしれません。

しかし、それなら、聖典を持っていない、女神様の魔法を使えない僧侶がなぜ世界を救えたのでしょう。どちらにせよ、奇妙な話です。

魔族の進化論

魔族の祖先は魔物であるとフリーレンは説明しています。(第2巻14話)

ソリテールは、魔族の祖先が魔物だとは言っていませんが、魔族の成り立ちについて進化論(自然選択)を唱えています。(第10巻88話)

フリーレンはフランメから、ソリテールは魔王からこの進化論を教わっています。

では、人類(エルフ、ドワーフ、人間)の祖先は何なのでしょうか?この点については誰も語っていません。

人類は神様がお造りになり(創造論)、魔族は魔物から進化した(進化論)というのでは、あまりにも一貫性を欠いた人類中心の世界観で説得力がありません。かといって人類はサルから進化したというのでは作品の世界設定にそぐわないと思います。

人類の体は死ぬと腐って地に戻り、魔族の体は死ぬと魔力の粒子となって天に帰ります。そう考えれば、人類よりも魔族の方が神に近い存在とも思えるのです。

フリーレン(フランメ)とソリテール(魔王)の唱える魔族の進化論は間違いでしょう。

おわりに

「神話の時代」とは何なのでしょう?フィクションなのでしょうか?

神話の時代の生き証人はゼーリエただ一人です。そのゼーリエが神話の時代について語ったのは作中でまだ一度だけです。(第10巻93話)

ですから、神話の時代がゼーリエにとってどのような時代だったのかはこの台詞と表情から想像するしかないんですね。

台詞から読み取れることは…

神話の時代には、女神様がいて、大魔法使い達がいて、魔族と戦っていた。

神話の時代には、ゼーリエは魔族を恐怖に陥れるような存在でした。言わば「葬送のゼーリエ」です。しかし、今はマハトもその存在を知りません。ゼーリエは魔族と戦うことをやめてしまっています。女神様の不在にその原因があるだろうことは容易に想像が付きます。(ミーヌスの変容、ミリアルデの絶望も関連がありそうです)

ゼーリエの悲しみを含んだこの表情にも女神様への複雑な思いが表れているように思います。

メタ的な話をすれば、「神話の時代の生き証人はゼーリエただ一人」ということはゼーリエの生存フラグだと言えるでしょう。ゼーリエが死んでしまうと神話の時代について語る者がいなくなってしまいます。物語の進行の都合を考えると、それはないのかなと思います。

《葬送のフリーレン》に関する記事は下記のマガジンにまとめています。

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