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「有機農業推進法」が成立:「自給」と「提携」で地域をつくる(農文協の主張)

「有機農業推進法」が成立:「自給」と「提携」で地域をつくる(農文協の主張 2007年10月)

有機農業の推進に関する法律」(「有機農業推進法」)は、2006年12月に成立しました。

「この『有機農業推進法』、マスコミではほとんど取り上げられず、農家でも知らない方がいるかもしれないが、国が有機農業の推進を初めて打ち出したものであり、かつ、『農業者が容易に有機農業に従事することができるようにすること』を基本理念に掲げている。一部の有機農業者のための法律ではなく、『有機農業を核とした環境保全型農業に全面的に転換していく時代』をつくるための法律であり、有機農業グループの勉強会に地元の普及員が参加するなど、今までになかった動きも生まれている」

と、成立後約10か月の本主張では、推進法が掲げる「定義」と「基本理念」を入り口に、その特質を述べています。

2021年に公表された「みどりの食料システム戦略」の実現に向けた取り組みがなされている、今こそ、推進法の「定義」と「基本理念」に掲げた原点に立ち帰ることが大切だと思います。


有機農業=有機JAS認証ではない

「有機農業というと、無化学肥料・無農薬で『安全な農産物』を生産・販売する農業という見方が普通で、その農産物を慣行農法と区別するための認証制度が課題にされてきた。国の有機農業へのかかわりもこれまでは、有機JAS法による表示の規制のみにとどめてきた」

「有機農業=有機JAS認証という、狭苦しい枠組みに対し、有機農業を進める農家からの批判もあった。こうした、認証制度で国が有機農業を『規制』『管理』するというこれまでのやり方に対し、国を『応援』『推進』する立場に大転換させる、それが、この推進法の基本的なねらいである。
だから、この推進法は『認証制度』には触れず、『農業者が容易にこれに従事することができるようにすることを旨』とすることを基本理念に掲げている」

「認証のありようは今後検討されていくことになるが、その際、『農業者その他の関係者の自主性を尊重しつつ、行われなければならない』としているのも、この推進法の大きな特徴である」

成立後20年近くたった今日においても、「推進法で定義された有機農業」と「有機JAS認証」とは並存し、国は有機JAS 認証を取得しやすい環境づくりに努め、JAS認証制度の紹介や認証取得に補助金を充てています。

農林水産省内においても、担当する部署(消費・安全局と農産局)が異なり、国は有機農業を『規制』するのか、『推進』するのか、曖昧な点が残されています。

農林水産省が公表する有機農業の取り組み面積は、「有機JAS認証を取得している農地」と「有機JAS認証を取得してないが有機農業が行われている農地」の合計値になっています。
海外の団体が公表する日本の実施面積は、有機JAS認証を取得している農地のみです(たとえば、国際機関のFiBL)。

「自然循環機能」の増進は農耕労働の本質に根ざす

「推進法では、化学的に合成された肥料及び農薬、そして遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本とし、さらに『自然循環機能を大きく増進し、かつ、農業生産に由来する環境への負荷を低減する』ことを有機農業の基本理念として掲げている。自然から隔絶された工場内での『無農薬栽培』は、自然循環機能を増進しないから、廃液処理を徹底したとしても、有機農業とはいえない」

「この『自然循環機能』について、『農業生産活動が自然界における生物を介在する物質の循環に依存し、かつ、これを促進する機能』と注釈しているが、これを担っているのは農家である。
土や作物の自然力は、農家が作物や土に働きかけ働きかえされる(学ぶ)なかで身につけた観察眼や洞察力によって初めて引き出されるものである。
無化学肥料・無農薬という前提を据えることで、土や作物、地域の自然力を発見していくというのが有機農業の核心であるが、有機農業に限らず、農業が農業である限り、働きかけ働きかえされる農耕労働の本質は息づいている

持続可能な農業には、農薬、化学肥料に依存した画一的な栽培から、地域の農地生態系の構造と機能を活かした栽培への移行が求められます。
農業の試験研究者には、農家の観察力、判断力を尊重し、地域にあった栽培技術を実施農家とともに確定していく姿勢が必要です。

有機農業の基本理念 ―「提携の思想」

「推進法では有機農業の推進にむけて『有機農業を行う農業者、その他の関係者と消費者との連携の促進を図りながら行われなければならない』と述べている」

「海外の農産物や加工食品に依存した国民の食生活を変える、これにむけ作物を育て、食べものとしての価値を身体で知っている農家が消費者に働きかけ、食意識の変革を呼びかけることが何よりも必要である」

「生産者としての『生活の見直し』は、農家が農家であるかぎりもっている『自給』の見直しでもある。地域地域の『自給的生活』を、都市(消費者)と農村(生産者)の提携によって都市と農村の両方に実現する

「有機農業は、市場原理主義・グローバリズムに巻き込まれない自律的・自立的な地域を形成する運動なのである」

GNP(Gross National Product、国民総生産)は、国の経済規模や経済活動の全体像を測る客観的な数値として評価されます。有機農業の取り組みも「有機食品の売上額」によって評価される傾向にあります。

人と人との関係(面識)に基づいて商品やサービスが交換、提供される面識経済では、信用や評判といったお金で換算されにくい要素が重要視され、GNPには反映されにくいと考えられます。

食べものを市場原理に委ねる割合を減らし、推進法で謳われている「有機農業者と消費者および関係者間の連携に視点を置いた持続可能な社会」を目指すべきだと思います。

「農地・水・環境保全向上対策」を活用して地域を豊かに

有機農業推進法は、有機農業者が自らの利益のためにつくられた法律ではない。そこで、有機農業をしている、していないにかかわらず、これから始まる県、市町村での有機農業推進にむけた取り組みを地域から生かしていくことが重要になってくる。今後、各自治体で「推進計画」が策定されていくが、その際、一つのポイントになっているのが、「農地・水・環境保全向上対策」事業との連動である」
「地域環境の整備と、有機農業、環境保全型農業の推進を、行政の支援を引き出しながら楽しく進め、自律的・自立的な地域づくりを進めたい」

農林水産省では推進法に基づき「有機農業の推進に関する基本的な方針」を2007年4月に制定し、推進計画の策定目標を立てました。
推進計画の策定は都道府県では100%達成しましたが、市町村では10数%に留まりました。

2021年から始まった「オーガニックビレッジ宣言」を行っている自治体においても、有機農家と慣行農家間のトラブルが発生しない配慮が欠かせないのが現状です。
有機農業も「普通の農業」として、技術的にも、経営的にも地域で受け入れられていく仕組みが求められます。

農家技術の蓄積を学びあい、地域の技術を創造する

「化学肥料や農薬を使わない「有機農業」と、「慣行農法」には、確かに大きな隔たりがある」

有機農業への転換には、手間や経営面で大きな困難を伴うことが、有機農業の広がりを難しくしてきた。しかし今、農家の工夫、技術改善の積み重ねによって、『日本の農業を有機農業を核とした環境保全型農業に全面的に転換していく』条件は大きく切り開かれている」

「『有機農業を核とした環境保全型農業に全面的に転換していく時代』は、有機農業であるなしにかかわらず、農家技術の蓄積を学びあい、地域住民・都市民を巻き込んで豊かな農業と暮らし・地域をつくる時代なのである」

「推進法の施行により、業務として有機農家を訪問できるようになった」と、県職員(農業試験場研究員、普及員)。
「有機農業」と「慣行農法」との隔たりは、お互いを理解する機会がなかったことにもありました。
地域ごとの有機農業技術の確定に向け、有機農家と試験研究者が技術情報を共有し、現場主義で課題解決に取り組んでいただきたい。