大阪 生意気な日本最大の街
わたしの好きな街のひとつ。
そしてそれは生意気な都市の頂点。
大阪。
お笑い、コナモン、大阪弁。
いえいえ、違います。
梅田駅、難波駅、阿倍野橋駅、見てください。
タカラヅカへゆくマルーンの、
伊勢へゆくビスタカーの、
高野山へゆくズームカーの、
京都へゆくかつてのテレビカーの、
聖地甲子園へゆく電車の顔を。
はい、大阪が生み出した
あらゆる分野の企業は
ことごとく東京へゆきました。
左から右まで言論を交わす
大阪が産んだ新聞社も、
全て、もう、発信は東京です。
だけど、私鉄、その鉄路は産まれた土地を離れられません。
大阪が持つ五つの私鉄の文化は
それぞれが個性的で、
東京にも劣らない、都市の地層と歴史の証明です。
あの頃、スマホがあれば絶対に撮っていた光景。
今のように、誰もが下を向かない時代。
新聞片手に、本を片手に、雑誌を片手に、
鞄を手に持って。
人々はまっすぐに顔を上げ、入線する電車を見つめていました。
LEDでは味わうことのできない、鉄製の重厚な行先表示板。
喧騒のターミナルに堂々と掲げる電車の正面に。
その轟音の中、線路を削るように軋むブレーキの音。
そして頭上から降り注ぐ、
何か音程が一段階高いけれど、どこか無機質で冷たく、
少し外れたような女性の美しいアナウンス。
難波駅での
「高野山連絡、橋本行き急行車でございます。」
上本町駅での
「宇治山田ゆき特急、宇治山田行きの特急です。」
淀屋橋駅での
「京都出町柳ゆき準急です。」
梅田駅での
「臨時特急、甲子園ゆきです。甲子園まで止まりません。」
ビスタカーに乗ってお伊勢参り。
初詣に京都四条に。
空海の高野山に。
桜の吉野山に。
高校球児の汗と虎の熱狂の甲子園へ。
他の街に、
この複雑な歴史の地層への行き先、
駅の時刻表に記号のように載っていますか。
そして、その極めつけの幕開けは
この駅のホームから始まります。
ただいま5号線に到着の電車は、急行宝塚行きでございます。
あの駅のアナウンスがタカラヅカと奏でる中の入線。
幕開けです。
小林一三という稀代のアーチストが作り上げる幻影。
彼が丹念に手がけた舞台。
歌劇に、土地の名をつけて終着駅に置く。
宝塚は土地の名であり、タカラヅカでもある。
それも、兵庫県の街。
その名を、さも平然と電車の行き先とする。
時刻表、案内板、あらゆる場所に公的な土地の名とタカラヅカの幻影。
宝塚の名は、学校の地図帳にも載ります。
当然です。地名ですから。
そしてそれが、東京宝塚劇場となり
日本最大の映画会社、東宝となる。
小林一三は甲州の生まれですが
極めて大阪の商人です。
こんな狡猾な文化、凄くないですか。
日本のどこにもないこの街、
あまりにも巨大な生意気さです。
そして、それを生み出した街、大阪。
タカラヅカは、そのひとつの生意気さです。
そして、五つの私鉄が、それぞれに
巨大な生意気さを抱えて、
大阪の街を、始発、として。
それぞれの歴史の地層へと、
現代の今も走り続けています。
