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ショートショート|リコラと僕(本文1,952字)|幸手権現堂秋祭り

#幸手権現堂秋祭り
※「#毎週ショートショートnote」「#僕は曼珠沙華に恋をする」参加断念作(字数が……orz)


「リコラ!」
僕は呼びかける。
深い深い穴倉の底で。
杳太ようた,そこなの?」
上の方から声がする。
僕は手にした懐中電灯を,上に向けてぶんぶんと振る。

ここは,春の桜と菜の花,初夏の紫陽花あじさい,盛夏の向日葵ひまわり,秋の曼珠沙華まんじゅしゃげ,冬の水仙と,季節折々に咲き誇る花々の美しさで知られる,S県北東部・S市の,人呼んで権現堂堤ごんげんどうづつみ……の下に掘られた,「狐の巣」。
「巣」と言っても,巣穴の中は,むやみに広い。どういう仕掛けになっているのか,一つの町くらいはあって,ここで人の姿に化けた狐たちが,何千匹も暮らしているのだ。
僕は,「狐つかい」という古い仕事に携わっていた一族の最後の1人として,狐たちに呼び寄せられた。
彼らのアルジとして「狐の巣」に棲むことを,長老狐に求められ,断ったら,「巣」のさらに下に掘られたこの出口のない穴倉に閉じ込められてしまったのだ。
狐たちのほとんどは,とてもあたたかく,親切な人たちだった。彼らはきっと,僕がここにいることを知らないのだろう。

たおやかで大人っぽくて,笑顔の素敵なサクラ。
いつもちょこちょこと飛び回っている,かわいいナノハ。
気怠げで気まぐれだけど,どこか憎めないアジサ。
心身ともに常にパワー全開のお騒がせ屋,ヒマリ。
そして,慎ましさと一途さを併せ持つ,スイとセンの姉妹。
ここに閉じ込められる前,僕の「オツキ」候補として,魅力的な狐の女の子たちが,次々に僕の目の前に現れた。
だけど,僕が一番心惹かれたのは,候補たちの誰でもなく,ああだこうだ余計なことを言いながらも,何くれとなく僕の面倒を見てくれた,僕と同い年くらいの下働きの少女,リコラだった。

「呼んだ?」
ひょいと目の前に,リコラのそばかすだらけの顔が現れる。確かに上の方から声がしたと思ったのに。
「ここから出て,家に帰りたいんでしょ?
バカだなあ,『オツキ』候補の一人を適当に選んで,ここに永住しますって誓いさえすれば,いつでも解放してもらえるのに」
「……嘘をつくのは嫌なんだ。人にも狐にも,自分にも」
僕は口ごもる。
「やっぱり不器用だなあ,杳太は。でもね,ちょっとだけうれしかったよ,あたしを呼んでくれて。
ところで,あたしの呼び名の『リコラ』って,曼珠沙華の学名の『リコリス・ラジアータ』から来てるんだって話は,前にしたことあるよね。
髪の色のことはおいといて,ほかにあたしのどのへんが曼珠沙華っぽいのか,杳太,わかった?」
「うーん,これかな,って思ってる答えが,一応あるにはあるんだけど……」
「教えて。どう思ったの?」
「綺麗で人懐っこくて,芯もしっかりしてるけど,よく見ると,ちょっとさびしそうな……ところ?」
リコラがニイッと口角を上げる。
「大外れ! でもいいね,その解釈,あたしは好きだよ。やさしいよね,杳太は。アジサさんみたいに,密かに毒を隠し持っていそうなところ,なんて言わないんだ。
日本の曼珠沙華はね,花を咲かせても,種は作らない。3倍体って言うんだけどね。代わりに,球根を増やして数を増やすんだよ。
だから,群生する野生の曼珠沙華の花は,基本的に全部,同じ個体のクローン。
そして,あたしの一番得意な『狐の術』は……」
リコラの背後に,同じ笑顔を浮かべた2人のリコラが,ポン,と現れる。その後ろに、ポン,4人のリコラ。8人,16人,32人,ポンポンポンポンポンポンポン,穴倉は,瞬く間に,無数のリコラに埋め尽くされる。
「「「「「「「分身の術だよ!」」」」」」

何が何だかわからないうちに,僕は穴倉いっぱいのリコラたちに押し上げられ,さらにそのままバケツリレーのようにして「狐の巣」の街から送り出され,さらに,わっしょいわっしょい,祭りだわっしょい,と担ぎ出されて……気がつくと,東武日光線S駅の改札前に,ぼんやりと立っていた。
「見たか,一度使ったら3年間は使えない,取っておきの大技,『赤い絨毯』! にゃはははは!」
「って,次襲われたら,アウトじゃん……」
いつの間にか1人に戻ったリコラが, 気持ち頰を紅潮させて,目の前に立っている。
「大技なんて使えなくても大丈夫! あたしを呼んでくれて,大正解だよ。あいつらには金輪際,あんたに指1本ふれさせないんだから」
柄にもなく,リコラが目を伏せる。
「だからさ……ときどきは,会いに行ってもいいかな。あんたのところに……あたしがさ」

リコラのふわふわした赤毛に1本だけさされた真っ赤な曼珠沙華(ほんとは肌に触れない方がいい花なんだけど,ちゃんと『狐の術』で毒抜きしてあるそうだ)が,ゆらゆらと風に揺れている。
答えはもちろんOK!なんだけど……
答えてしまったら,そのままリコラに背中を向けて,改札の向こうへ立ち去らなければならなくなってしまいそうで。
僕も思わず,リコラみたいに,目を伏せてしまう……


◆「秋祭り」の結果↓

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