手話通訳者は手話だけ学んでいてはいけない――医療と行動経済学の本から見えた「対人援助」の本質
手話通訳士のあらかわいおりです。
手話に関することを幅広く発信しています。
現在7冊の本を出版し、
2026年中に10冊の手話の本を出版するべく執筆中です。
手話通訳のような、ボランティア色の強い仕事をしている方々が、
noteを中心に副収入を得ることで、
より仕事に励むことができる。
そのロールモデルになるべく奮闘中です。
Googleで「手話 あらかわいおり」と検索していただくと、
私の活動がわかります。
手話通訳者の勉強というと、手話表現や日本語、ろう文化などを思い浮かべる方が多いかもしれません。
もちろん、それらは欠かせない学びです。
しかし私は最近、手話とは直接関係のない二冊の本を読み、大きな気づきを得ました。
一冊は森井大一氏の『医療現場の会話は、なぜ噛み合わない』。
もう一冊はリチャード・セイラー、キャス・サンスティーンによる『NUDGE 実践 行動経済学 完全版』です。
一見すると、医療と経済学という全く異なる分野の本です。
しかし読み進めるうちに、どちらも「人を支援するとはどういうことか」という問いにつながっていることに気づきました。
そして、その学びは手話通訳者にも大いに役立つものだと感じています。
医療現場のすれ違いはなぜ起きるのか
『医療現場の会話は、なぜ噛み合わない』では、医療者と患者が異なる世界を見ていることが説明されています。
医療者は病気を見ています。
患者は人生を見ています。
医師が検査結果や診断について説明していても、患者は仕事や家族、将来への不安を考えています。
そのため、お互いに真剣に話しているのに会話が噛み合わないことがあります。
この話を読んでいて、私は手話通訳の現場を思い浮かべました。
通訳者は「言葉」を見ています。
しかし利用者は「伝わるかどうか」を見ています。
主催者は「進行」を見ています。
参加者は「理解できるかどうか」を見ています。
同じ場面にいても、立場によって見ている景色は違うのです。
相手が何を大切にしているのかを理解しなければ、本当の意味で支援することはできません。
人は合理的に行動しない
『NUDGE』は行動経済学の名著です。
その中心にあるのは、
「人は必ずしも合理的に行動しない」
という考え方です。
健康のために運動した方がよいと分かっていても続かない。
試験勉強をしなければならないと分かっていても先延ばしにする。
誰もが経験したことがあるでしょう。
知識があることと、行動できることは別なのです。
これは手話学習にも当てはまります。
受験生に対して、
「毎日練習しましょう」
と言うのは簡単です。
しかし実際には続きません。
問題は知識不足ではなく、行動の仕組みづくりにある場合が多いのです。
教えるのではなく、動ける環境をつくる
NUDGEの考え方は、相手を強制するのではなく、自然に望ましい行動を選びやすくすることです。
例えば、
「勉強してください」
と言うだけではなく、
「毎朝10分だけやる」
「動画を見たら1問解く」
「学習記録を付ける」
など、小さな行動につなげる仕組みを考えます。
これは対人援助そのものです。
人を変えるのではなく、人が動きやすくなる環境を整える。
手話講師としても、研修講師としても、とても参考になる考え方だと感じました。
通訳者も支援職である
私たちは通訳者というと、言語を変換する専門職と考えがちです。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし実際の現場では、それ以上の役割を求められることがあります。
利用者が何を不安に思っているのか。
どのような情報を必要としているのか。
どこで理解が止まっているのか。
そうしたことを考えながら通訳している場面は少なくありません。
つまり通訳者もまた、人と人をつなぐ対人援助職の一面を持っているのです。
だからこそ、心理学や医療、福祉、教育、経済学などの学びが生きてきます。
視野を広げることで通訳も深くなる
若い頃の私は、手話が上手くなれば良い通訳者になれると思っていました。
しかし経験を重ねるほど、それだけでは足りないと感じるようになりました。
医療を学べば患者の気持ちが少し分かる。
介護を経験すれば家族の苦労が見える。
行動経済学を学べば人が変われない理由が理解できる。
こうした知識は直接手話表現を増やすわけではありません。
しかし通訳の質や支援の質を確実に高めてくれます。
手話の外にこそ学びの宝がある
手話通訳者や手話学習者は、つい手話関連の本ばかり読んでしまいがちです。
もちろん専門書は大切です。
しかし、それだけでは見えない世界があります。
医療の本からコミュニケーションを学ぶ。
行動経済学の本から人の行動を学ぶ。
介護の本から支援を学ぶ。
教育の本から教え方を学ぶ。
そうした遠回りに見える学びが、結果として手話通訳者としての厚みをつくっていくのではないでしょうか。
私はこの二冊を読んで、改めてそう感じました。
手話を学ぶために手話以外を学ぶ。
それこそが、長く成長し続けるための秘訣なのかもしれません。
エピソード
森井氏の本に書かれているのですが、
「NUDGE 」の表紙。ゾウが前を行く子供のおしりを押していますね。
鼻を引っ張ったり、前を行くわけではない。
かといって自由に行き先を任せているわけでもない。
自由とお世話を両立させるような行動。それがナッジだと。
これはまさに誰でもが学ぶべきことだと思います。
ハッシュタグ
#手話通訳士
#手話通訳者
#手話学習
#読書記録
#行動経済学
#NUDGE
#医療現場の会話はなぜ噛み合わない
#対人援助
#学び続ける
#あらかわいおり






もし
・一人で悩んでいる
・誰かに整理して話したい
・プロに一度見てもらいたい
そう感じたら、こちらで個別に対応しています。
私、あらかわいおりのメンバーシップです。メンバー限定の情報をお届けします。
私のnoteの有料記事がお得に読めるマガジンです。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!