【代表取材】答えは、まだ見つかっていない。──それでも若手と向き合う理由
長く「26歳から30歳」にこだわって採用してきた私が、いま第二新卒と向き合い始めています。
正直に言えば、答えはまだ見つかっていません。
育成には苦戦しています。それでも採り続けるのは、26歳の転機を、若い人が待つ必要はないと気づいたからです。
AIがエンジニアの仕事さえ変えていく時代。人としての価値をどこで出すのか。うちの「厳しさ」は何のためにあるのか。独立したい人も、なぜ歓迎するのか。
きれいごとは言いません。迷いも、本音も、全部話しました。いま何かを変えたいと思っている人に、届けばうれしいです。
【プロフィール】
イクラ株式会社 代表取締役CEO
坂根 大介
1986年大阪生まれ。2009年関西大学卒業。野村證券にてコンサルティング、資産運用に関わる業務を経験。お客様の資産で大部分を占めていた「不動産」を知るために、三井不動産リアルティ株式会社(三井のリハウス)へ転職。不動産売買の業務を経て、2015年9月1日にイクラ株式会社を設立。
AI時代に、代替されない人材の条件
——最近のAIの進化を、経営の現場でどう感じていますか。
実感として、エンジニアの仕事でさえ、その一部はAIに代替され始めていると感じています。
最近、「AIを使えばできる仕事」と「人が介在する価値のある仕事」の境界が、一気に変わったと感じる出来事がありました。やり取りを見ていて、「それなら私たちが直接AIに聞いたほうが早いのではないか」と思った瞬間があったんです。
AIがすごすぎる時代だからこそ、人としての価値をどこで発揮するかを真剣に考えないといけない。コミュニケーションであったり、AIの誤りを見抜いて修正する力であったり。そこを持たない人は、職種を問わず厳しくなっていくと思います。
——社内では、AIとの向き合い方をどう伝えているのでしょうか。
楽になるためにAIを使うのではなく、困難なことの実現可能性を上げるために使う。これに尽きます。
資料をきれいに整えるだけで終わる使い方は、本質的ではありません。それどころか、考える力そのものが弱っていく。道具に使われるのではなく、難しい挑戦の確度を上げる武器として使う。この違いは、数年後に大きな差になるはずです。
これからのキャリアで、最も価値を持つ力
——その認識の中で、セールスの採用を強化しているのはなぜですか。
ソフトウェアは、誰でも作れる時代に近づいています。エンジニアを多く採用すれば、その分だけ新しいサービスを作れる、という時代は終わりつつあります。
そうなると価値を持つのは、販路を持っていること。お客様の声からニーズを掴んで企画すること。そして、それを実行して売り切ること。ここまでを一気通貫でやれる、事業開発と呼ぶべき人材です。
うちのセールスは、単に売る仕事ではありません。将来的に事業開発を担う人材として採用し、育てています。今後も継続的に採用し、育てていきたいと本気で考えています。
この力は、うちでしか通用しないものではないんです。どこへ行っても必要な力であり、独立しても食べていける。だからこそ、身につける価値があると思っています。

私自身、26歳までは火がついていなかった
——採用では長く「26歳から30歳」を軸にされてきたそうですね。
そうですね。理由は明確で、特に男性に多いのですが、この年代になると人生の現実が迫ってくるからです。周りが結婚しはじめる。自分も結婚を考えるようになる。家を買うかもしれない。子どもが生まれるかもしれない。でも勤めている会社でなんとなく働いているため、たいしたスキルもついていない。出世コースからは外れる。でも出世しても先輩社員が幸せそうには見えない。「このままではまずい」と、自分の内側から思える時期なんです。
外から言われた危機感は続きません。自分で気づいた危機感だけが、人を変える。
私自身がそうでした。26歳のときに転機があって、そこから変わった。だから面談で直接話していると、その人の中にある危機感や覚悟は、言葉の端々から伝わってきます。
——実際に火がついた人は、どう変わるのですか。
たとえば、入社前に、営業の資料をすべて読み込んで覚えてきた社員がいました。入社した時点で、もう準備が終わっていた。別の社員は、月の目標を大きく上回る成果を、当たり前のように出し続けています。
特別な才能の話ではありません。共通しているのは、努力の量です。こちらが細かく指示しなくても、自分で考え、準備し、行動する。その積み重ねが、成果の差になっています。
23歳で始める挑戦は、3年分の先行投資になる
——第二新卒の採用も増えていると伺いました。手応えはいかがですか。
正直に言うと、苦戦しています。
「厳しい環境に身を置きたい」と言って入ってくる。その気持ちは本物だと思います。ただ、我々の言う「厳しい」と、彼らが想像している「厳しい」には、まだ距離がある。実際にその環境に立ったとき、想いと現実の差に苦しむケースが多いのが実情です。
ただ、これは彼らが悪いのではなく、我々がまだ、23歳、24歳の若手に合わせた育成の仕組みを作りきれていないだけです。26歳から30歳を育てるノウハウを、いかに23歳、24歳に合わせて作り直せるか。これは会社側のチャレンジだと捉えています。
実際、10代の終わりから社会に出て、うちで活躍しているメンバーもいます。解は必ず作れると信じています。
——それでも第二新卒を採り続ける理由は何でしょうか。
シンプルです。26歳で火がつくなら、23歳でつけば3年早い。
キャリアにおいて、20代の3年は決定的に大きい。26歳の転機を待つ必要はないんです。早く気づいた人から、早く変わっていく。第二新卒の育成がうまく回るようになれば、いずれ新卒採用にも本格的に取り組みたいと考えています。

「厳しさ」とは、あなたの市場価値を高めることだ
——「厳しい環境」という言葉が何度か出ました。イクラの「厳しさ」とは、具体的にどういうものでしょうか。
誤解されたくないのですが、理不尽に詰める、という意味ではありません。プロとして、成果にコミットするということです。例えば、体調管理を意識することや、やむを得ず休む場合にも周囲への共有や引き継ぎを行い、仕事に穴を開けたままにしないこと。そうした基本的な姿勢も含まれます。
我々は、成果を出した人が正当に評価され、報酬にも反映される会社です。一方で、成果が出ていない状態を、そのまま曖昧にはしません。そういうシンプルな世界で仕事をしています。「働けばお金がもらえる」ではなく、「成果を出すからお金がもらえる」。プロである以上、そこに向き合い続けてほしい。それが、我々の言う「厳しさ」の正体です。
——それは、働く側にとってどんな意味を持つのでしょうか。
自分の市場価値が上がる、ということです。
将来、余裕のある生活を送りたいなら、一日でも早くスキルを高め、できることを増やし、市場価値を上げていくしかありません。成果にコミットして働いた時間は、そっくりそのまま自分の力になる。会社のためというより、その人自身の未来への投資なんです。
厳しさから逃げずに向き合った人は、うちを離れても通用する力を手にしています。だから私は、この厳しさこそ、一番の親切だと思っています。

ノウハウはすべて開示する。独立志向も歓迎する
——教育方針として、大切にしていることはありますか。
隠さないことです。仕事のやり方だけでなく、経営の数字や、ビジネスの現実まで含めて教えます。
私自身、若い頃に厳しく教えてもらった恩を、当時は理解できていませんでした。その価値がわかったのは、会社を辞めて独立してからです。だから今は、いつか伝わる日が来ると信じて教えています。うちにいる間に花が開かなくても、どこかで開いたら、それでいいからです。
——独立したい人も歓迎する、と聞きました。珍しい方針だと思います。
止めようがない、というのが本音です。やる人は、止めてもやりますから。
もちろん、実際に独立まで辿り着く人は一握りかもしれません。それでも、本人のやりたいことと会社のやりたいことが重なっている間、お互いに全力を尽くせばいい。重なっている期間は、双方にとって間違いなくプラスになります。もちろん、やっていくうちに「ここで続けたい」と思ってくれたら、それも嬉しいことです。

人生の3分の1を、どこに投じるか
——最後に、この記事を読んでいる若手の方へメッセージをお願いします。
人生の3分の1は寝る時間で、3分の1は働く時間です。働く3分の1に手応えがなければ、残りの3分の1が楽しくなるはずがない。私はそう思っています。
挑戦は、9割が失敗です。それでも、新しい経験だけが人を成長させる。歩みを止めた瞬間に、人は鈍化します。周りは進み続けているのだから当然です。
そして、これだけは伝えたい。
あなたの人生は、会社に決められるものではありません。あなたのものです。将来どうありたいかから逆算して、いま何をすべきかを決められるのは、自分しかいない。
私は採用の面談で、必ずこの質問をします。「この会社に入って1年後、2年後、どんな自分になっていたいですか。身につけたいスキルはなんですか」と。
取り繕った答えはいりません。無理にきれいな言葉にしなくても、話していればその人の本音は伝わります。完璧でなくていい。正直な答えを持って、会いに来てください。

