【創作大賞2025応募作品・恋愛小説部門】「僕は君に恋してる ~舞×ユージン編~」最終話 僕は君を愛してる
21.<舞>
そのニュースの発表は、球界のみならず、世間をも大きく揺るがすこととなった。奇しくも選手会長をしていた圭二郎が「新たな野球組織を作る」と声高に宣言したことで、内外から注目を集めることになったのだ。
当然、所属球団やオーナー企業からは強い反発があった。一選手が何を言っているのだ? と散々叩き、これまで以上に彼の存在を消そうとした。しかし、ここで登場したのが永江さんと圭二郎の父、祐輔さんである。彼らはオーナー企業役員や球団上層部員と同年代。数々の実績をも残している二人が若い圭二郎の肩を持ち、一切の手出し口出しをするなと言えば、相手も考えざるを得なかったようだ。
現時点では、彼らの主張を容認する方向で話が進んでいると聞く。もし確定すれば、野球界に新たな歴史が刻まれることになる。本当に新しい風を吹かせた圭二郎のことをわたしは誇りに思っている。
◇◇◇
頑張っている圭二郎に負けまいと、こちらも自分の働き方について考え、動き始めている。
カフェ店員を辞めたわたしが次にやろうとしていること。それは、圭二郎のファンクラブ運営である。話題に上っただけで実際には全く進んでいなかったそれを、幼なじみである私が引き受ける。当然の成り行きであろう。
永江さんのファンクラブみたいに、圭二郎が使用している用品の一部を展示するのに加え、活躍シーンをパネルにしたり、本人からのビデオメッセージを流したり……。いろんなアイデアが浮かぶ。しかしすべてを叶えようとすると場所が足りない。
理人さんに相談すると、思わぬ回答が返ってくる。
「じゃあ、ワライバを増築するか!」
思いきった発言を聞いて、わたしも隼人さんも目を丸くした。
「それは嬉しいんですが、お金の方は……」
「借金が怖くてこの仕事が出来るかよ。圭二郎を応援したいのはおれも一緒。永江センパイのためのファンスペースも拡張したいと思ってたところだからちょうどいいよ」
「理人さん……」
「あー、だけど、おれが提供するのはあくまでも場所だけ。ファンクラブの運営はマイマイにすべて任せるから、そこら辺はうまくやってくれよな?」
「はい。ありがとうございます」
返事をしながら身を引き締めた。
(圭二郎。わたしも頑張るね……。)
◇◇◇
圭二郎と久しぶりに会ったのは、それぞれの道を歩き出してから一ヶ月が過ぎた頃。ファンクラブを設立するに当たって、わたしの考えを伝えたくて呼び出したのだった。
内容を聞きながら、圭二郎はうんうんと何度も首を縦に振った。
「だいたいそんな感じでいいよ。俺が使ったバットやグラブが必要だってんなら、いつでも持ってくる。でも、ビデオメッセージについてはちょっと考えさせて。何言ったらいいか、全然わかんないし……。新組織がちゃんと走り出したらでもいいかな?」
「もちろん。こっちはゆっくりやるつもり」
「でも、そしたら舞の収入が……」
「いいの、そんなのは。お金のために無理して頑張ることはしない。わたしは圭二郎を応援するためにここの運営に注力したいの」
「いいね、いいね。幼なじみ愛。これで二人が両思いだったらハッピーエンドだったんだけど、現実はうまくいかないものだねぇ」
端で聞いていた理人さんが冷やかした。
「マスター。言っときますけど、俺はまだ舞を諦めてはいませんから。むしろ、追い込まれてからが勝負です。野球人なら分かるでしょう?」
「おぅ。分かるぜ、その感覚。でも、ストーカー行為はよせよ? 近くに居を構えたからってさ。今度こそマイマイの恋人にキレられるぜ?」
「そんなこと、しませんよ。でも、親が子供扱いしてきたら、助けを求めに行くかも……。あ、冗談ですよ、冗談……」
住むところがなく転々としていた彼だが現在は、階は違えど両親と同じマンションに住んでいる。あんなに嫌がっていたというのに、和解してからは同じ組織の幹部としてしょっちゅう顔を合わせているという。
「世話を焼きたいんでしょうかね? ちゃんと食べてるのか、って言って食事を持ってくるんです。二人の時は外食ばかりしてたみたいなのに、俺が移り住んでからは自炊を再開したっぽくて」
「親なんてそんなもんだよ。わたしなんて呼び出されるからね。多めに作ったから食べにおいでよ、って。……まぁ、氣にかけてもらえるだけ、有り難いことなんだけどね」
「そうかもしれないな。ところで……」
圭二郎が急に話題を変える。
「ユージンさんとはどうなの? 新居は決まった?」
「新居って表現はちょっと違うんじゃ……? あー、でも、だいたいの目星はついたかな。ちゃんと決まったら教えるよ」
「うん。落ち着いたらさ、ユージンさんに会わせてよ。今度はライバルとしてじゃなくて、一ファンとして話したいんだ」
そう語る彼の目はキラキラと輝いていた。
「ええ、もちろん。ギターの演奏もしてもらう?」
「可能であれば」
「じゃあ頼んでみるね」
「……今の舞は過去イチ、可愛い。いい恋愛してるのが分かるよ。あぁ、俺も頑張らなきゃ!」
その顔はやる氣に満ちあふれていた。
22.<ユージン>
舞さんの新しい挑戦を応援する意味も込めて、二人で暮らす部屋はワライバから徒歩五分ほどの場所に決めた。ここなら麗華さんたちサザンクロスの三人宅も近いし、今回の件でずいぶん世話になった悠斗さん家にもすぐ遊びに行ける。
単独ライブが一つ終わっても、仕事は次から次へ舞い込む。しかし今はこの状況でも辛いと感じることはない。だってこれからは、一日の仕事を終えて部屋に帰れば愛する人が待っていてくれるのだから。
◇◇◇
引っ越し当日。近所だからと、悠斗さんが荷ほどきの手伝いに来てくれた。
「すみません。こんなに暑い日に、何かと面倒をおかけしてしまって……」
「謝るなって。こっちは好きでやってんだから」
悠斗さんはニコニコ……いや、ニヤニヤしながら言い、オレの顔をじっと見つめた。
「……あのー、なにか?」
「ううん。別に。さて、始めるか!」
そう言って彼は、段ボールの一つに手を伸ばした。
*
荷ほどき、と言ってもそれほど大がかりではない。冷房が効いてるから汗だくになることもない。それぞれの衣服とか、オレの仕事道具とか、舞さんが集めてきた食器類とかを箱から出して決められた場所に置くくらい。おそらく一、二時間もすれば作業は終わる。ちなみに家具や寝具は事前に運び終えてある。
「……なぁ、お前ら、いつ結婚すんの?」
食器を棚に片付けている悠斗さんから、何の前振りもなく突然そんなことを言われたオレたちは目を合わせ、赤面した。
「け、け、結婚って……。悠斗さん。わたしたち、今日から一緒に暮らし始めるんですよ? 交際期間だってまだそんなに長くないのに、いきなりそんなことを言われても……」
「そうですよ……。結婚どころか、お互いのことだってそんなに知らないオレらですよ?」
慌てふためくオレたちを見て、悠斗さんはなおも揶揄うように言う。
「でも、すぐにバレちゃうぜ? お前らが同棲始めたことなんて。そしたらなんて言い訳する氣?」
実は、二人で暮らし始めることは、舞さんのご両親に伝えていない。オレは正直に伝えてもいいと思ったんだけど、言えば反対されるから黙ってる! と言うのが彼女の主張。結局それを尊重する形で今日を迎えてしまった。
「そ、その時は、悠斗さんがお父さんを説得してくれるって言ってませんでした? わたしはその言葉を信じてるんですけど!」
舞さんが逆ギレするように言った。
「ああ、確かに言った。舞がそこまでおれを信じてくれるなら……」
そこで一旦言葉を切った彼は、体をオレたちの正面に向け、正座をした。
「おれは舞の父親ではないけど、でも……。前にも言ったように、舞のことは実の娘のように思ってる。そんなおれから一言、言わせて欲しい。ユージン、おれの息子になってくれないか……? おれは本当にお前のことが氣にいってんだ。だから……」
この通り、と言いながら彼は頭を下げた。
(そうか、あのとき……!)
以前、バイクの後ろに乗せてもらった際、聞き逃してしまった彼の言葉。それが何だったのかずっと氣になっていたのだが、その答えがやっと分かった。
結婚するかどうかを尋ねられただけでも体が熱くなったというのに、まさか悠斗さんから「息子」になって欲しいと言われるなんて……!
舞さんでさえも、今のひとことには混乱している様子だ。
「お父さんが言うならまだしも、なんで悠斗さんがそんなことを……?」
「そりゃあ……。家族になりたいからだよ」
彼はそう言いながらも、照れを隠すかのようにそっぽを向いた。
「……あー、さっきはいつ結婚するんだ? って聞いちゃったけど、あれはお前らを揶揄うためのジョークな。おれは別にしなくってもいいと思ってる。おれ自身、血の繋がりがない、まな・そらの父親やってるし。そういう家族も全然ありだと思ってるからさ。……ま、考えといて」
それじゃ、おれはこれで。
悠斗さんは、言うことは言ったとばかりに立ち上がり、あっという間に部屋から去って行った。
かき乱された場に残されたオレたちは、しばらくのあいだ、何も考えることが出来ずに呆然とした。窓から差し込んでいたオレンジ色の陽が隠れ、部屋が暗くなってようやく我に返る。
「……舞さん。あのぉ」
「ええと……。悠斗さんの言ったことは氣にしないで。普段からああいう感じの人だから……」
「無理だよ、そんなの……」
面と向かって、息子になって欲しいなんて言われて平氣でいられるはずがない。それも、彼女の父親でもない人に、だ。
血の繋がりがなくても家族になりたい、と悠斗さんは言った。それを聞いて妹の恋人、智さんも同じことを言っていたのを思い出す。結婚したいから付き合ってるんじゃない。ただ好きだから一緒にいたい。それで充分じゃないかと。
「……一つだけ、聞かせて。舞さんにとって悠斗さんはどういう存在?」
オレには息子になって欲しいと言った。舞さんのことはもはや娘だと言った。そんな彼のことを、舞さん自身はどう位置づけているのか知りたかった。
舞さんは長い間考えていた。が、やがて静かに言う。
「友人であり、兄であり、父であり、先生であり……。とにかく大切な人。それを『家族』というなら悠斗さんは、血の繋がっていない家族と言えるでしょうね」
「……これからもそういう関係を続けていきたい?」
「もちろんよ」
「そっか……」
「ユージンはどう思ってるの?」
逆に問われ、言葉を選ぶように返す。
「オレにとって悠斗さんは人生の先輩として尊敬したい人、かな……。あの人の言葉なしに今のオレたちはいないと思ってるし。でも……今はとてもじゃないけど義父とは思えないかなぁ?」
「うん、それでいいと思う。悠斗さんは、自分の氣持ちを伝えただけ。受け容れるかどうかはユージン自身が決めるべき。あの人も、それが分かっているからユージンの返事も聞かずに帰っちゃったんだと思うよ」
「悠斗さんのこと、よく知ってるんだね」
「だって一年間、一緒に生活してたんだもの」
「一年……。オレたちも一年くらい一緒にいたら、互いのことが分かるようになるかな?」
「ええ、きっと」
薄暗い部屋の中では、はっきりと見ることが出来ないけれど、舞さんの顔に笑みが戻ったのが分かった。
夕刻の物寂しい空氣が、オレたちの体を自然と近づけさせる。
「……もう、恋するだけの期間は終わった。オレは舞さんを愛してる」
「わたしもユージンのこと、愛してる……。これから、よろしくね」
「うん。よろしく……」
見つめ合ったオレたちの間に、もはや言葉は必要なかった。
夜のとばりがゆっくりと降りていく。闇の布に身を隠し、手探りで互いの体に触れる。アルペジオを奏でるときのように、優しく。そして歌うときのように、情熱的に愛を語りながら。
――END――
※見出し画像は、生成AIで作成したものを加工して使用しています。
いいなと思ったら応援しよう!
芸術家が集う癒やしの場「ワライバ」を提供するのが夢。共感者を大募集中💖記事を読んでピンときたらお声がけを💕一緒に愛と調和の世界を物語りましょう💖