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畠山丑雄著『改元』刊行の経緯とポッドキャスト「牛歩元年」

はたけやまうしさんのご新作『叫び』(新潮社)が第174回芥川賞の候補となっています。
今回の候補入りが発表されたころから、小社刊『改元』刊行の経緯について尋ねられることが増えてきました。ここに改めて書いておこうと思います。

本作の魅力や畠山さんの特異な作家性については、『地の底の記憶』で文藝賞を受けられた時の選考委員であった磯﨑憲一郎さんによる推薦文「継承者として」、そして刊行後に催された樋口恭介さん、円城塔さんをお招きした二つの記念対談に詳しいので、ぜひご一読ください。


▼『改元』刊行まで

特殊版元・国書刊行会から独立して石原書房としての一冊目『奇奇怪怪』(TaiTan、玉置周啓著)を刊行した2023年秋、私は某書店で開催されていたあるイベントで、思いがけず旧知のOさんと再会しました。

Oさんとの出会いは、2020年に編集者として初めて担当した『ミック・エイヴォリーのアンダーパンツ』(乗代雄介著)が刊行された際にさかのぼります。作家・乗代雄介さんがはてなブログに長年にわたって掲載してきた記事を書籍化したこの本の特集記事を組んでくださったのが、当時はてなにお勤めだったOさんでした。

石原書房のnoteでエッセイ連載「いるものの呼吸」を執筆頂いている金子由里奈さんと引き合わせて下さったのもOさんで、そのことのお礼かたがたこれから刊行する本の予定など立ち話をしていると、Oさんから「もし企画を探しているなら」ということで、自分の家族の高校・大学のサッカー部の同級生に畠山丑雄という小説家がおり、文芸誌に作品が掲載されはするがなかなか本にならないようなので一度原稿を読んでみてくれないか? という話が出ました。

畠山さんのお名前は、2015年に文藝賞を受けた小説家として知っていました。当時受賞作の掲載誌でデビュー作『地の底の記憶』を読んで、今まで読んできた同時代の日本の小説からは感じられなかった広がりに圧倒された記憶があり、またこの年(2023年)にanon pressで公開されていた短篇「とにかく大きい洪庵先生」の批評性とユーモアに衝撃を受けていたので、「ぜひ読ませてください」とお願いしました。
それからしばらくして、畠山さんからこれまで文芸誌に掲載された小説の原稿が送られてきました。それらを読んで、やはりこうした力のある作品たちが単行本になることがないというのは、非常にもったいないことだと思いました。

小説(中でも純文学にカテゴライズされるもの)が読まれなくなって久しいとされる昨今、文芸誌に掲載されてもそのまま本にならない作品は数多くあります。賞の候補になったり、扱われているトピックやテーマが分かりやすく現代的なものであったり、著者に小説家としての活動以外で確立された評判があったり等、商品として成立しそうな要素が不随しないものが単行本化されるハードルは依然として高いように思われます。
しかしそうした状況論や、その作品が売り物になるかならないかということは、その小説とは本来関係のないものです。良い作品は単行本という独立した、アクセスしやすく堅固な形式で遺されるのが本当だと思います。

ある雑誌のある号に掲載された作品としてではなく、単行本としてその小説が出版されるということは、その作品が固有の輪郭を持って文字通りおおやけ化(publish)されること、歴史に登録されるということです。
日本の現代小説の歴史として今私たちに見えているものが、芥川賞をはじめとする文学賞の受賞作・候補作や、それらを輩出する版元が刊行してきた無数の本が形作るある流れのようなものであるならば、その歴史の流れの中に登録されなかったもの(賞の候補になりながら受賞しなかったものや雑誌掲載のみで単行本化されなかったもの)もまたある流れ、あるいは累々と積みあがった層を形成しているはずです。そこに埋もれて見えなくなっている作品が多くある。そうしたものを出版し歴史に登録し直すことで、今見えているものとは別の流れを対位法的に提示することは、ある本を刊行したいと思った時に誰かを説得する必要がない一人版元ならではの仕事だろうと私は考えています。
そのような次第で、表題作と「死者たち」の中篇二作を併せて、『改元』を本にすることを決めました。

『改元』刊行直前の2024年9月上旬、畠山さんとともに大阪・京都の書店を営業で巡回しました。最終日の夜、本書刊行のきっかけを作ってくれたOさんご一家と河原町でご飯でもということになりました。
長谷川書店水無瀬駅前店での営業を終えて京都へ向かい、地下鉄四条河原町駅から地上に上がってお店の方へ歩き出すと、鴨川デルタの方から飛んできた何か大きなものがすごい羽音をたてて我々の頭上を通過し、近くの電柱の頭に細長い足を伸ばして着地しました。『改元』の序盤で印象的に登場するアオサギでした。真っ赤に夕暮れた空を背景に佇立するその姿を見たとき、私は「この本には何かあるな」と思いました。その約半年後、『改元』がいわゆるひとり出版社の刊行物としては初めて三島由紀夫賞の候補に入ることになるとは夢にも思いませんでしたが。

▼ポッドキャスト「牛歩元年」

読者・書店の皆さまをはじめ『改元』を手に取って頂いた方々のご助力により、また三島賞の候補に入ったことで、この作品と畠山さんのお名前はより多くの方の知るところとはなりました。
しかしその後も畠山さんとやりとりを続けるうちに、畠山丑雄という小説家とその作品の面白さは、まだ本当には見つかってはいないのではないか? という思いが募り、このたび畠山さんと「牛歩元年」というポッドキャストを始めることにしました。

この番組は、読んだ本や小説のこと、また制作の周辺について、畠山さんに語って頂こうというものです。聞き役は私・石原書房が務めています。

初回は畠山さんの筆名の由来と、(小説家としては)異例のデビューまでの来歴について。僭越ながら、私が畠山さんの作家性と作品のどういうところに惹かれているのか等についても話しています。

このポッドキャストの相談を始めた直後、畠山さんのご新作『叫び』が第174回芥川賞の候補となりました。畠山さんとその作品のことをより広く知ってもらう、という所期の目標は芥川賞に預けてもよさそうな気配ですが、『改元』や『叫び』から畠山さんを知った方にとっても古くからの読者の皆さんにとっても、畠山さんとその作品の魅力をより深く味わうことのできるポッドキャストになっているかと思います。

ご愛聴のほど、よろしくお願いいたします。


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