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日米両対応の「かっこいい名前」の条件とは:ネーミング・バイリンガル論2 〜日本人にもアメリカ人にも格好良い名付け、ダサい名付け〜

FFTリメイクが楽しすぎてプレイが止まらない。
でも投稿は怠らないぞ。

前回の『日米両対応の「かっこいい名前」の条件とは:ネーミング・バイリンガル論』がなかなか好評で、自分でも書いてて楽しかったので、調子に乗って続編を書いてみる。

↓↓↓【前回の記事はこちら】↓↓↓ 
※読んでなくても楽しめます

日本人にもアメリカ人にもかっこよく響く名付け方と、そうでないものの差は何なのか。

結論自体は前回と変わらないので、どちらかと言うと「そんな訳になってるのか!」という驚きや、「自分ならこうするなー」といった知的遊戯としてお楽しみください。

なお私は#4で衝撃を受けることになります。
よければそこは読んでいただけると嬉しいです。


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#0. おさらい:「日米両対応バイリンガルネーム」の特徴と倫理

まずは前回のおさらいも兼ね、「ネーミング・バイリンガル」が成立するために必要な条件を再掲する。

※既に把握されている方はこの章を読み飛ばしてしまってもOK。

●名付けのバイリンガルとは単なる直訳能力でも、言葉の華美な装飾でもない。
「語感」「意味」 「文化的ズレ or 調和」のいずれかが突出した時、その翻訳は既に「ネーミング・バイリンガル」足り得るが、その3要素が絶妙なバランスで結びついた時、名前はその本来の魔力を発揮する。

*音のリズムが重要(語感)

→ 例:Gung-Ho-Guns、Cowboy Bebop、Red Hot Chili Peppers

日本語・英語ともに「口に出して気持ちいい」が勝つ。各単語の音節が少なく歯切れ・リズムが良い。中学生でも「かっけえ!」と感じられる。

*単純 or わざとブレてる(意味)

→ 例:Your Name.(「誰のこと?」という余白)、Evangelion(意味分からんけど何だか格好良いという日本人感覚と、キリスト教価値観に根ざした「意味の掘り下げ」が可能な単語の選択)

*正反対要素の融合(文化的ズレ or 調和)

→ 例:Princess Mononoke(姫+なんだか正体不明な東洋的響き)。
伝わらないことを恐れず、魅せることが大事。

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●名は「体を表す」よりも「体を導く」

日本語と英語は、そもそもの根本的システムが違い過ぎて「完全な翻訳」は不可能である(ありがとうとThank youですら、厳密には意味が異なる)。大事なのは、名前が与える先入観が作品の世界観を形成・補強できているかという視点だ。

●異文化翻訳と「倫理」

要は作品の文脈を読まないと、適切な「ネーミング・バイリンガル」は形成し得ない。ということは、「意訳/直訳」の二項対立を超えて、互いの「文化的敬意」があるか、も重要になってくる。

●言葉は、ただの記号ではない

音の響き、文字のデザイン、文化の背景、すべてが含まれて「名」は構成される。だからこそ、英→日に訳す際の「カタカナ語の尊重」や、逆の場合の「ローマ字化」も選択肢として極めて正当。

●「ネーミング・バイリンガル」とは何か

「語感・意味・ズレ」の3点バランスをもとに、原作に誠実でありながら異文化に橋をかける行為。それは翻訳というより「文化的再解釈」「分解と再結合」「命名という芸術行為」と呼べる。

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#1. 鬼滅の刃:『るろうに剣心』の悪夢?の再来。鬼はDemonじゃねえ!

なぜ、欧米人は侍(に表面上見える)要素のあるタイトルを下手に料理してしまうのか。

るろうに剣心 = Samurai X と同じ轍を踏む行為が時を経て帰ってきた!

『鬼滅の刃』 → “Demon Slayer”

……色々ツッコミどころ満載だが(※)、対案を示すためにも分析していこう。

※一応、場合によっては “Kimetsu no Yaiba” というサブタイトルが付く時もあるらしい。それならなおのこと、Demon Slayerって蛇足では……。

原因1:鬼を悪魔にした安易さ

●一応、意味は通じなくもない。直訳すると「悪魔を滅ぼす者」。

●だが、そもそも鬼は悪魔ではない。
鬼は日本的な妖怪概念で、西洋の「悪魔(demon)」とも、キリスト教的な堕天使や悪霊とも別物。

●西洋の “demon” は「絶対悪・神の敵」という意味合いが強く、日本の鬼のように「山に住む」「強いが人間的感情も持つ」のようなグラデーション、深みが無い。

●結果、「鬼滅」特有の「和風怪異退治譚」「鬼にも人間らしさがある」という哲学感が消え、「勧善懲悪な西洋的悪魔退治ファンタジー」にニュアンスが変質してしまった。

原因2:古風なニュアンスと「刃」の蒸発

●日本語の「刃」は、一文字で「武士的・詩的・古風」という重厚感を持たせることができる字。

●“Blade” や “Edge” にすれば、英語圏でもある程度の詩性は残せるが、“Slayer” だと一気にB級アクション寄りの響きになる。

●さらに “Demon Slayer” は、80年代以降のアメコミやゲーム文化でありがちな量産型タイトル感が強い(“Vampire Slayer” “Monster Slayer” みたいな)。要は陳腐。

原因3. 中二病的な余白感がゼロに

●『鬼滅の刃』という古風、かつ中二病的なポエジーが完全に脱落している。
その漢字構造こそ、中学生でも格好良い!と思える詩情、物語性を醸し出していた。

●「鬼滅の刃」を直訳しようとすると、“The Blade that Annihilates Oni” とか “Blade of Oni Vanishment” のように長くなる。

●“Demon Slayer” は短くて分かりやすいが、「物語の余白」や「タイトルの謎解き感」が完全に消滅してしまった。

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以上を踏まえつつ、「ネーミング・バイリンガルの条件」にも沿って対案をいくつか考えてみた。

*Kimetsu : Blade of Ruining
(直訳/鬼滅:斬滅の刃)

※「鬼滅」はローマ字として残すことで、英語話者には意味は分からずとも、勇気を持って東洋的神秘性を担保。
“Ruining” には「滅ぼす」「斬り伏せる」両方の意味があるので、作品の性格にも合う単語。
ただ、少し意味が重複気味な気もする。

*Kimetsu : Blade of the Breathing
(直訳/鬼滅:呼吸の刃)

※「鬼滅」をローマ字で残すのは上記と同様。さらに作品の象徴である「○○の呼吸」を思い切ってタイトルに。
BladeとBreathingで斜韻を踏み、破裂音を増やして語感を良くするよう試みた。

*Oni : Edges for Annihilation
(直訳/鬼:殲滅の刃)

※Annihilationとは「殲滅」「全滅」という意味の、強烈なニュアンスを持つ単語(軍事用語的な性格もある)。“Oni” という短く、オリエンタルな響きを持つ単語とのギャップを狙いつつ、Edgesで「刃」感も残す。

1個目が子ども向け、2・3個目が大人向けといった形で使い分けもできそう。即席で作ったにしては結構いい感じじゃないすかね?

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#2. ポケットモンスター/幽遊白書:「通じなくてもええんや、語感が命なんや!」な英断

次は比較的有名な事例と、「へー、そんな風に訳されてるんだー」という事例、ふたつを取り上げる。どちらにも共通点がある。

『ポケットモンスター』 → “Pokémon”

意味的には “Pocket Monsters” でも通る(男性の「大事な部分」のニュアンスも出てしまうのが懸念点だけど……)が、日本でも通じる略称を用い、商標化できる「記号」に落とし込むことで世界展開に耐えるブランドへ昇華。

モンスターというありふれた単語を、半濁点+アクセント位置の変更(日本語でいう「ポ」の部分)で完全に固有名詞化してしまった。
ポケモンは世界共通語に進化した!

『幽遊白書』 → “Yu Yu Hakusho”

なんとまあ潔い英訳(?)。
英語圏だと直訳するとかなり説明調になってしまう(Ghostly Playful White Paper……ニュアンス死亡)。そこで意味はばっさり切り捨て、日本語音をそのままローマ字化。

結果、唯一無二の固有名詞として成立。
しかも口に出した時のテンポ感の気持ち良さまで保たれている(まあそれは日本語タイトルも同じだが)。

この2例、どちらも「ネーミング・バイリンガル」の定義に照らし合わせると、文化的ズレを100%フルスロットルで残し、さらに語感とブランド性へ全振りして成功している。
というか、こういった「意味を手放す見極めと決断」は、訳者側の胆力がないと不可能である。見習いたい。

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#3. 天使にラブ・ソングを…:あなたは賛成派?反対派?

次に、人の感性によって賛否が分かれる例を見ていこう。正直、これを考えるのが一番楽しい。
なお、答えは出ない。

“Sister Act” → 『天使にラブ・ソングを…』

原題は「修道女の行動(ゴスペルショー)」と「修道女に擬態する(act like a sister)」のダブルミーニング。

つまり、ただ「シスター達がノリノリのゴスペルチームを結成する」内容を表すだけでなく、「主人公が本物の修道女ではなく、ふりをしている」という設定が、タイトルの中にうっすら仕込まれている。
アメリカらしい、ウィットと洒落っ気に溢れたタイトルだ。

一方、日本公開時のタイトル。
思い切ってダブルミーニングを切り捨て、ロマンチック&温かみを連想させる邦題に置き換え、感情面でのフックを強化。
結果、大ヒットを記録した。
よって、商業的文脈ではこの和訳は大成功したと言える。

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『千と千尋の神隠し』 → “Spirited Away”

前回挙げた、上記の例にも構造上は似ている。
こちらは逆に、原題の物語的な説明(千尋が神隠しされ名前を奪われる)を削り、「霊的な存在に連れ去られる」というコア部分だけを、英語的にすっきりと提示。

どちらも共通しているのは、元タイトルの情報量や構造をそぎ落とし、響きと感情喚起を優先して再構成している点だ。

違いは、『天使にラブ・ソングを…』は「ラブ・ソング」という語彙を足して温度を上げたのに対し、“Spirited Away” では説明を削って余白を作ったところ。

これは、日英の市場文化差が明確に表れている面白い例だ。
これらの例に限らず、日本の配給は「わかりやすく温かみを出す」方向、英語圏は「覚えやすく簡潔で余韻を残す」方向に寄りがちである。

――――――

『天使にラブ・ソングを…』のネーミングをもう少し詳細に見ていこう。

●「天使」≒「修道女」という連想は残しつつ、「シスターによるゴスペルショー」に全振り、「シスターに擬態をしている」というストーリーの肝の部分はゼロに。

●一方「ラブ・ソング」という温かみ・感動路線のニュアンスを足して、日本の観客層への訴求力を上げた。

●結果、作品内容の一部(偽修道女コメディ)よりも、感動系音楽映画としての印象を前面に押し出す形になった。

従って、翻訳論的には「ニュアンスの削除」+「商業マーケティングを考慮した訴求の追加」という、かなり割り切った改題と捉えられる。

これは、「ニュアンスの削除とマーケティング・商業的成功はどちらが優先されるのか」という深い話にもなり得る。

まあ、『天使にラブ・ソングを…』は原作が映画で、漫画や小説などとは異なり、「ひとりの作家権」の概念がかなり薄いので許容されやすい、という側面もある。

ウィットに富んだ(大喜利的な上手さがある)原題と、日本人好みに寄せてそのウィットを削った邦題。あなたはどちらが好みですか?
……私はどっちも好きです!

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#4. 翔んで埼玉:内輪ネタ全振り、大喜利的英訳、これはこれであり?と思ったらもっと凄まじい何かが隠れていた

「邦画屈指の茶番劇」としてヒットした『翔んで埼玉』。
筆者も好きです(二階堂ふみのファンというのもある。あ、ご結婚おめでとうございます)。

では、英題はどうなったのか(一応日本版にもひっそり副題として付いているので、ご存知の方も多そうだが)。

『翔んで埼玉』 → “Fly Me to the Saitama”

「なんで固有名詞の地名に冠詞の the が付いとんねん」とかツッコミどころ満載の英訳だが、まさにその「ツッコミどころ」こそが作品の魅力を補強した英題、とも言える。
結構珍しい例かも知れない。

音楽好き(もしくはエヴァンゲリオン好き)な方ならすぐお気付きになるだろうが、この英題はフランク・シナトラも歌ったジャズ・スタンダードナンバー “Fly Me to the Moon” のパロディ。

元ネタはかなりムーディでロマンティックな(何せ「月へ連れて行って、つまり私にキスしてよ」といった歌詞内容である)、デロデロに甘い雰囲気の楽曲。
当然、世界中(特に欧米圏)での知名度も高い。

そんな曲と映画内容のギャップもあって、「知ってる人には」かなり良訳(良い意味でのアホらしさをさらに強調する、という意味で)となる。

In other words,(※Fly Me to the Moonの歌詞の一部。「言い換えると」)「知ってる人向けの皮肉」になっている。

つまりこれは「原題の置き換え」ではなく、「意味+文化的連想」を両方いじることで笑いを作りに行くタイプ。
英語圏の視聴者が元曲を知っていれば、Saitama の音の間抜け感(失礼)との対比で作品のアホらしさが増すし、日本側は moon が「埼玉」に置き換わる時点で既に笑えるという、隙を生じぬ二段構え。

論稿的には「ネーミング・バイリンガルの条件」に沿ってはいるが、あくまで内輪ウケに寄せまくった翻訳戦略、という特殊な分類となる(PokémonやYu Yu Hakushoのような「誰でも分かる普遍性」「割り切った翻訳」とは違い、前提知識がある層には爆発的に刺さるタイプ)。

「隠し味・ウィットとして文化的引用を仕込む系」の成功例、とも定義できるだろう。

……と、ここまで書いて気付いたことがある。
なんて鈍いんだ私は。

先ほど「なんで固有名詞の地名に冠詞の the が付いとんねん」と書いたが、これ、あえての可能性がある。

つまり、「the Saitama=ダサイタマ」を狙ったのではないか。

英語話者にとっては "the Saitama" という言い方自体が不自然(普通は固有名詞単独)なので、「あえておかしな言い方にして笑いを取る」効果が出やすい。

そこに "the" =「その/例の」という強調ニュアンスも乗る。

さらに、地域によっては “the” を「ダ」に近く発音する場合もある。

日本語の「だ埼玉(=The 埼玉)」と構造的にほぼ一致しているので、恐らく意図的なダジャレだろう。

つまりこういう二重構造になっている。

●日本人向け:Fly Me to the Moonのパロディ → the Saitama → ダサイタマのダジャレ

●英語話者向け:英語的にはおかしい "the Saitama" → 「いかにも変な英語」の笑い → 日本の地名ジョーク感が伝わる

私、負けました。凄い英題だ。完全試合。
言うなれば言語的トリックアートだ。
皆さんは気付きました……?

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#5. おわりに:この理論、別のことにも応用できそうな気配がある

というわけで、「ネーミング・バイリンガルの条件」はほぼ固まったと自負しているが、執筆している内にあることに気付いた。

「人気漫画やアニメの実写化」は往々にして失敗、原作ファンからの非難の嵐という結果になりがちだが、もちろん成功例(すぐに思いつく作品では『るろうに剣心』や『銀魂』など)もある。

その境界線はどこに引けるのか。どうも、このネーミング・バイリンガルのロジックが応用できそうな気がして仕方がないのだ。

というわけで、気が向いたら書いてみます。
「文化翻訳=言葉選びが生死を分ける」論。

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